ビール
ビール呑む男の持てる喉ぼとけ 佐藤 都
訥弁のにわかに変るビールかな 拙
ビール類(るい)の出荷量(しゅっかりょう)が過去最低(かこさいてい)を更新(こうしん)、という小(ちい)さな記事(きじ)があった。申(もう)し訳(わけ)ない、と身(み)を縮(ちぢ)めて読(よ)んだ。
ビールの恋(こい)しい時期(じき)である。夏(なつ)に限(かぎ)らず、秋(あき)も冬(ふゆ)も「取(と)りあえずビール」という流行(りゅうこう)の一(いち)翼(よく)を担(にな)ってきた身である。一度(いちど)、医師(いし)から禁(きん)酒(しゅ)を命(めい)じられた。禁は解(と)けたが、いろいろあって、不本意(ふほんい)ながらビール人気低落(にんきていらく)に手(て)を貸(か)してきた。
喉(のど)ごしの爽(そう)快感(かいかん)を忘(わす)れたわけではない。つまみを選(えら)ぶのも楽(たの)しい。枝豆(えだまめ)、焼(や)き鳥(とり)などのほかに、他(た)人(にん)の噂話(うわさばなし)や無責任(むせきにん)な悪(わる)口(くち)も、陽気(ようき)なビール談(だん)議(ぎ)の「良(よ)きつまみ」になる。折(おり)しも、また選(せん)挙(きょ)。今度(こんど)は都民(とみん)でない身(み)として、「高(たか)みの見(けん)物(ぶつ)」ができる。
頼(たの)みもしないのに連日(れんじつ)、どのテレビ局(きょく)もおなじみの顔(かお)が、やれ滑(すべ)ったとか、転(ころ)んだとか報(ほう)じる。何(なん)とも騒々(そうぞう)しいが、暑(しょ)気(き)払(ばら)いのビールのつまみとしては、おいしいネタになる。
ビールの欠(けっ)点(てん)は、楽(たの)しみの最中(さいちゅう)の「ちょっとトイレ」にある。生(なま)ビールにはその弊害(へいがい)が少(すく)ないようで、かつては愛飲(あいいん)していた。酒席(しゅせき)も選挙も、中断(ちゅうだん)や出直(でなお)しが続(つづ)くのは、どうにもよろしくない。さて、今度はどうなるか。にわかにビールが恋しくなってきた。
北国新聞より