百合
白百合が遺影に向きて大きく咲く 柴田白葉女
七人の無念を思ふ百合の花 拙
そのときの恐怖と絶望を想像するだけで、胸が張り裂けそうになる。その最期を思うだけで、怒りがこみ上げてやまない。テロリストに捕らわれ、むごい死を迎えていった人々――。バングラデシュの首都ダッカで起きた飲食店襲撃は、狂気と呼ぶほかない所業である。
焼きたてのパンが人気のカフェで食事を楽しんでいた日本人やイタリア人を、犯人たちはいきなり襲った。人質に取って交渉などするわけでもなく、刃物を使い次々に命を奪っていったという。みな裕福な家庭の出身で、高学歴だったそうだ。そんな若者をも凶行に駆り立てる思想の広がりに、いま、世界は直面している。
犠牲になった7人の日本人は、途上国援助や国際貢献の最前線で働くプロだった。テロの土壌となる貧困や格差をなくすための営みを続けてきた人たちである。ビジネスとはいえ、こころざしを高く持たずにできる仕事ではない。そういう努力さえもあざ笑う過激思想にどう向き合ったらいいのか。どう抗(あらが)ったらいいのか。
こみ上げる怒りは、ややもすれば異文化への憎悪に拡散したり、無力感につながったりするだろう。しかしそれこそがテロリストたちの狙いでもあるから、努めて冷静にならなければなるまい。狂気を乗り越えられるのは、理性だけだと思い定めなければなるまい。無念が募る心のなかで、犠牲者に深くこうべを垂れつつ。
日本経済新聞
白百合が遺影に向きて大きく咲く 柴田白葉女
七人の無念を思ふ百合の花 拙
そのときの恐怖と絶望を想像するだけで、胸が張り裂けそうになる。その最期を思うだけで、怒りがこみ上げてやまない。テロリストに捕らわれ、むごい死を迎えていった人々――。バングラデシュの首都ダッカで起きた飲食店襲撃は、狂気と呼ぶほかない所業である。
焼きたてのパンが人気のカフェで食事を楽しんでいた日本人やイタリア人を、犯人たちはいきなり襲った。人質に取って交渉などするわけでもなく、刃物を使い次々に命を奪っていったという。みな裕福な家庭の出身で、高学歴だったそうだ。そんな若者をも凶行に駆り立てる思想の広がりに、いま、世界は直面している。
犠牲になった7人の日本人は、途上国援助や国際貢献の最前線で働くプロだった。テロの土壌となる貧困や格差をなくすための営みを続けてきた人たちである。ビジネスとはいえ、こころざしを高く持たずにできる仕事ではない。そういう努力さえもあざ笑う過激思想にどう向き合ったらいいのか。どう抗(あらが)ったらいいのか。
こみ上げる怒りは、ややもすれば異文化への憎悪に拡散したり、無力感につながったりするだろう。しかしそれこそがテロリストたちの狙いでもあるから、努めて冷静にならなければなるまい。狂気を乗り越えられるのは、理性だけだと思い定めなければなるまい。無念が募る心のなかで、犠牲者に深くこうべを垂れつつ。
日本経済新聞