投資家の目線

投資家の目線330(アメリカ時代の終わり)

 2003年出版なので、遅ればせながらチャールズ・カプチャン著「アメリカ時代の終わり 上・下」(NHK Books 坪内淳訳)を読んだ。同書によれば、『いまの時代の終わりは、アメリカの優位性の終わりだけでなく、産業資本主義、自由民主主義、国民国家といった、一つの歴史的時代の終わりをも意味するであろう』とのことだ。


 さらに、

引用開始

 『外交はもはや、国務省やウォール・ストリートと外国の首都の間を行ったり来たりする国際派のアイヴィーリーグ・エリートの専売特許ではない。「ベルトウェイ内部[訳注:首都ワシントンの中心部]」で起こっていることはいまだに重要だが、それぞれが固有の利害と国際主義をもった、アトランタやダラス、シアトル、シリコンバレー、あるいはロスアンゼルスといった都市における政策決定と判断が、これまでにない影響力を持つようになっている。地域差はもはや、建国初期の時代にあったような情熱をよびおこさないが、地域間に生じる政治的、経済的、文化的な差異は、国家の外交関係の形成において、ふたたび重要な役割を担うようになってきている。』

引用終了


 例えばスポーツ用品販売のゼビオが、福島県郡山市から本社機能を移そうとしているが、「ゼビオが取り扱う商品の半分以上は海外メーカーの製品が占めている。原発事故の影響を懸念する外国人が福島県内での商談を避けることが多いことから、福島県外に正式な拠点が必要と判断した」という(「ゼビオの本社機能、福島県外移転を検討、2年内に最終判断、北関東軸に。」 2011/09/22日本経済新聞 地方経済面 東北)。いまだに旅行警報が解除されないため、ゴルファーを中心とする年間5万人以上の韓国人旅行客は期待できない。農産物の輸出も難しそうだ。地方経済が海外と直結している以上、外交を霞が関だけで決めるのは好ましくないだろう。


 また、アレクサンダー・ハミルトンは、

引用開始

『おもに専門職の人々や、銀行家、貿易商を支持基盤とし、強力な中央政府と銀行制度に賛成し、アメリカが教養ある特権的なエリートによって統治されるべきだと信じていた』。

引用終了


 一方、トーマス・ジェファーソンは、

引用開始

『バージニアの地主階級に生まれたが、ハミルトンが擁護するような強力な連邦制度やエリートによるリーダーシップを疑っていた。彼は、中央集権化による圧制を懸念し、連邦政府はその力を制限すべきであり、日々の統治は、裕福で特権的な少数の人々にゆだねられるのではなく、一般人民にまかせられるべきだと論じた』。

引用終了


 昨年の中間選挙結果を、サマーズ(以下、敬称略)は『米中間選挙はオバマ大統領の政策への拒絶であったと同時に、米国ではなく(「世界経済フォーラム」の総会が開かれる)ダボスの市民であるとみなされたエリート層への拒絶でもあった、と語った』。

 中国が米国の中心的課題に=サマーズ米NEC委員長 2010/11/16 WSJ日本版

 これを見ると、最近の米国はジェファーソンの考え方が強いようだ。NYなどのデモも、その延長線上にあるように思う(彼らの主張に一貫性がないという批判もあるが、報道内容を見ると2004年地上波放映のTVアニメーション「攻殻機動隊」のStand Alone Complex [「作中における電脳技術という新たな情報ネットワークにより、独立した個人が、結果的に集団的総意に基づく行動を見せる社会現象を言う」Wikipediaより]を思い出す)。
 日本でも脱原発デモなどの「素人の乱」が起こっている。


 7月末の米朝協議のとき、米国代表団の補佐官がカプチャンの著作を手にしていたぐらいだから、現在の米国外交に影響力があるのだろう。日本のマスメディアは、リチャード・L・アーミテージ、ジョナサン・マイケル・グリーン、ジョセフ・S・ナイ・Jrのような人々を重用しているが、カプチャンの主張も読んでおいたほうが良いと思う。

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・「新潟県内の市町村の約9割が原子力発電所での大規模な事故に備えて、安定ヨウ素剤や防護マスクなどの備蓄が必要と考えていることが6日、県の調査で分かった」という(2011/10/07 日本経済新聞 地方経済面 新潟)。9月29日のWSJ日本語版は、福島原発のとき政府から安定ヨウ素剤を飲ませる指示がこなかったと報道していた。大災害のときは中央との通信が分断される可能性もあるのだから、地方政府が独自判断で住民に指示を出せるような準備もしておくべきだろう。
 また、10月5日の日本経済新聞 地方経済面 千葉や社会面 大阪で、千葉市や大阪府箕面市も給食の放射線検査を行う(横浜市は検査体制強化)とも報道されている。中央政府より、住民に近い地方政府の方が動きが機敏だ。


・TPPを考える上で、韓米FTAがどうなっているか検討するのは意味があるだろう。大韓民国のハンギョレ新聞は次のように伝えている。

 米国だけが韓国に提訴可能…法 衝突時は韓国だけが改定しなければ 2011年10月05日:ハンギョレ新聞


追記)
 昨年、福島県では中華人民共和国からブロガーを招いて日本酒の売込みをしていたのに…。


特集 中国ブログの発信力(2010年05月17日) JETRO GLOBAL EYE



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