投資家の目線

投資家の目線892(まとまらないNATO、まとまらない世界)

 ポーランドがドイツに対して6兆2000億ズロチ(約180兆円)の第2次大戦時の損害賠償を要求した(ドイツに180兆円賠償請求へ ポーランド、大戦中の被害で 2022/9/1 時事通信)。ウクライナを実質的に併合したポーランドは広大になった領土の運営に財政資金が必要なのだろう。ところが、ポーランドはEUから民主主義の後退に対して罰金を科されており(EU Withholds Cash to Poland as Nation Snubs $238 Million Fines 2022/7/15 Bloomberg)、EUからの資金援助は困難だ。そのため、ドイツからの賠償金を財政資金として使うハラなのだろう。しかし、ポーランドが第2次大戦の結果失った領土を回復しつつある中、戦後ドイツから得た領地を返還することなしに賠償金をせしめようとはさすがに強欲ではないか?エーゲ海の島々の領有権をめぐって対立するトルコとギリシャは戦闘機のロックオンまでいった(“Turkey Says Greek Missile System Locked on Its Fighter Jets” 2022/8/28 Bloomberg)。中立国だったスウェーデンとフィンランドのNATO加盟承認で欧州の結束が高まったなどと言う論調があったが、実際のところNATOは数合わせで増えただけで結束などしていない。リトアニアのナウセーダ大統領はロシアからカリーニングラードへの貨物輸送を拒否した時、「われわれは北大西洋条約機構(NATO)に加盟している以上、ロシアが軍事的な手段でわれわれに挑んでくるとは考えていない」と語った(「インタビュー:貨物通過拒否問題でロシアの電力供給遮断に備え=リトアニア大統領」 2022/6/22 ロイター)。リトアニアは単独ではロシアには敵わないだろうに、NATOに加盟しているからロシアを挑発しても安全と思い込んでいるのは不真面目極まりない。

 

 そもそもウクライナで弾薬が消費されたため、米国では一部の弾薬が枯渇している(「ウクライナ戦争で米弾薬在庫が激減 国防総省が懸念」 2022/8/30 ダウ・ジョーンズ配信)。戦線が拡大した場合、NATO側は弾薬不足で負けるのではないだろうか?また、SNSで欧米の支持を広めようした作戦も失敗したようだ。『報告書によると、これらのアカウントのうち1000人以上のフォロワーを集めたのは、わずか19%だった。大半の投稿やツイートは、ほんの一握りの「いいね」やリツイートがあっただけで、「こうした不正な戦術を使うことの限界が示されている」とスタッブス氏は述べている』(「米メタとツイッター、欧米支持広めようとした一部アカウント削除」 2022/8/25 ダウ・ジョーンズ配信)。

 

 対ロシア制裁は欧州経済に深刻な影響を与えている。英国の経済規模はインドに抜かれ(「英国経済、インドに抜かれ世界6位に後退-新政権には痛手か 2022/9/3 Bloomberg)、8月31日の英紙テレグラフには、「私たちは悲惨な貧困、市民的不服従、来年までの新しい社会主義政府、英国の解体、国有化、物価と所得政策、懲罰的富裕税、そして最終的には完全な経済的・財政的メルトダウンとIMFの救済に終わる危険を冒しています(We risk ending up with calamitous poverty, civil disobedience, a new socialist government by next year, a break-up of the UK, nationalisations, price and incomes policies, punitive wealth taxes and eventually a complete economic and financial meltdown and IMF bailout.)」(“Putin has pulled off a shock win that could destroy the free world The Kremlin’s energy war is pushing Europe and the UK towards economic meltdown and socialism” ALLISTER HEATH 31 August 2022 The Telegraph)と、英国がIMFの管理下に置かれることを懸念するコラムも掲載された。生活費高騰の影響もあるのだろう。英国では大規模なストライキが頻発しており、本来ならウクライナなどかまっているヒマはないはずだ。

 

 フランスはアルジェリアからガスを購入したいようだが、北アフリカと欧州を結ぶ3つのパイプラインのうちモロッコを経由する「マグレブ・ヨーロッパ」はアルジェリアとモロッコが断交しているため使用できない。ことし3月の時点でアルジェリア国営炭化水素公社『ソナトラックは現在、ガス輸送のためのパイプラインとして、アルジェリアとスペインを直接結ぶ「メッドガス」と、チュニジアを経由してイタリアと結ぶ「トランスメッド」を利用しているが、前者については、既にフル稼働の状態で追加輸送は不可となっており、後者で追加可能な輸送量については、年間最大100億立方メートルとされている。パイプラインで結ばれていない国に向けては、液化天然ガス(LNG)の追加供給も視野に入れていると表明したが、年間生産能力は年間5,000万立方メートル程度、LNGタンカー数は6隻にとどまる』(アルジェリア国営炭化水素公社、欧州にガスを追加供給へ(欧州、アルジェリア) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ2022/3/3)という。LNGタンカーの不足は前回書いたとおりだ。

 

 現在開催中の極東ロシアでの大規模合同軍事演習「ボストーク2022」には、中国だけでなくインドなど少なくとも12カ国が参加する(「中ロなど極東で大規模演習 日米けん制へ軍事協力誇示」 2022/9/1 日本経済新聞WEB版)。インドは最も利益になるように枠組みなど飛び越えて立ち振る舞う。クアッドなどの枠組みがいかに無意味であることがわかる。日本がNATOの会合によばれたといって、うかれている余裕などない。

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