9月8日の日本経済新聞朝刊に、ロシア産石油が裏ルートを通じて英国に輸出されているという調査報道がなされた(「ロシア石油が欧州へ裏流通 ギリシャ沖経由、日経分析」、『ロシア石油、英国「輸入ゼロ」 裏流通の実態把握せず?』 2022/9/8 日本経済新聞)。インドのエネルギー企業リライアンス・インダストリーズによる、ロシア産原油を精製して米国に販売する疑惑(『ロシア産石油制裁、「産地ロンダリング」で抜け穴だらけ』 2022/6/3 ハンギョレ新聞)などがすでに報じられている中、ロシア産原油の裏流通など珍しい話ではない。日本経済新聞が今頃取り上げたのは、翌日の欧州エネルギー確保協力の首脳会議開催に関係するものではないだろうか(「日米欧、欧州のエネルギー確保へ協力 首脳テレビ会議」 2022/9/9 日本経済新聞WEB版)?天然ガスや石炭など燃料不足が深刻だ。日経の調査報道に出てきた英国は、電力料金高が消費者の懐に負担を強いている(「[FT]英国の電気料金の高さ、欧州で突出 ガス火力に依存」 2022/9/9 日本経済新聞WEB版)。ドイツの対話集会では「ドイツ史上最悪のエネルギー不足にさらされた一般市民が、深刻な不安を感じていることをあらわに」(『[FT]エネ不足のドイツ市民 首相に「冬を越せるのか」』 2022/9/8 日本経済新聞WEB版)され、3日にはチェコに首都プラハで「約7万人が参加して、国民よりもウクライナにばかり関心を払っていると政府を批判するデモが行われ」(『「ウクライナより国民」 首都でデモ』 チェコ 2022/9/4 時事通信)、中には『冬の暖房費高騰が予想され「セーターを2枚くれ」と要求するプラカードもあった』(同記事)。エネルギー不足は、欧州で大規模な騒乱を発生させるだろう。
「米エネルギー情報局(EIA)によると、米国は2020年に必要なウランの約46%をロシアと、ロシアとの関係が深いカザフスタンやウズベキスタンから調達した」、「ロシアは世界のウラン濃縮で約35%の市場シェアを握る(UxC調べ)」(「【焦点】ウラン供給支配するロシア、米は核燃料調達に不安」 2022/3/23 ダウ・ジョーンズ配信)と、燃料の濃縮ウランがロシア頼みの原子力発電を、エネルギー不足の切り札にするという期待は中期的には望み薄だ。
OPECプラスが増産で協力しない以上、石油については最大の産油国である米国が増産をするのが現実的だ。6月にはバイデン大統領が石油大手7社に書簡を送付し、『「戦時に通常よりはるかに大きい製油会社の利ざやを米国民が負担させられるのは容認できない」と述べた。その上で、ガソリンやディーゼル油などの供給を増やす措置を即座に講じるよう各社に求めた。また必要に応じて、短期的に生産能力を引き上げるために非常時の権限を活用する用意があると述べた。』(「バイデン氏、石油大手に増産要請」 2022/6/16 ダウ・ジョーンズ配信)という。それに対して、エクソンモービル、シェブロンの両社は、米国内で石油を増産していると述べたうえで、エクソンモービルは「長期的には、米国内での資源開発を支援するための明確かつ一貫した投資の促進が必要と述べている」(バイデン米大統領、石油会社に増産を促す書簡を送付、エクソンは反論(米国) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ 2022/6/16)。シェブロンは『バイデン大統領に向けた書簡では「当社は温室効果ガス(GHG)排出量の削減、二酸化炭素(CO2)回収や水素など新しい先進エネルギー技術の拡大のために100億ドルを投資し、バイオ燃料の生産能力を2030年までに日量10万バレルにまで拡大する」と記述している。ワース取締役会長兼CEOはバイデン大統領に向けた書簡で、連邦所有地のリース販売や掘削許可から、重要なインフラの許可や建設に対する能力、コストと便益の両方を考慮した規制の適切な役割に至るまで、政策事項の明確化と一貫性が必要とする提言も行っている。』(米石油大手シェブロン、バイデン大統領の石油業界への増産要請に反論(米国) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ 2022/6/23)。石油会社の立場からいえば、脱炭素社会に対応するための巨額の投資や石油に対する政府の一貫しない政策が、石油増産への投資に二の足を踏む要因になっているようだ。
石油会社に石油を増産させるためには、脱炭素社会を目指す政策を放棄する必要がある。ダボス会議周辺が言うようにグレート・リセットは起こるのだろうが、彼らの思う方向とは反対の方向に振れるだろう。例えば、脱「脱炭素社会」、「ビーガンなんてクソくらえ」というような。にもかかわらず世界経済フォーラムが脱炭素社会志向を続けようとするならば(“More Industrial Hubs to Accelerate Their Net-Zero Transition” > Press releases 2022/5/24 wef)、彼らとは手を切る必要がある。世界経済フォーラムとの縁切りはグローバルエリート層にはつらいことだろうが、ほとんどの普通の人々にとっては何の関係もないことである。