投資家の目線

投資家の目線384(格差問題)

 米国でも経営者の高額報酬に批判が高まってきた。
 「コーポレート・ガバナンスの展望」(神田秀樹、小野傑、石田晋也編 中央経済社)において柳川範之氏がエージェントに対する報酬について、「報酬を負にできない場合に経営者に頑張って働いてもらおうとすると,これを結構上げなければなりません」と書いている。まあ同書にも書いている通り、「失敗したら働いている人から罰金を取るということは,現実にはなかなか難しい」のは理解できる。しかし、それが経営者(エージェント)の高額報酬、ひいては格差の拡大につながっているとすると、制度設計のやり直しが必要ではないか?また、「報酬が負にできれば、これをもう少し引き下げられるので、エージェントの取り分をもっと少なくできます」(同書)とも書いている。銀行(この場合プリンシパル)が中小企業にお金を貸すとき、経営者(エージェント)の個人保証を求めることが多い。これは経営が失敗したときの負の報酬と言え、経営者の高額報酬を防ぐことにつながっているように思う。


 2012/10/21日本経済新聞朝刊に「米富裕地域で独立ドミノ、効率優先、自治体に格差(地球回覧)」という記事があった。アメリカ合衆国も所得の格差などが要因となって分裂気味のようだ。フランシス・フクヤマ氏の「アメリカの終わり」(会田弘継訳 講談社)では、ヘンリー・キッシンジャー氏の2006年9月13日付けの「ワシントン・ポスト」紙への寄稿「レバノン以後」で「ヒズボラは…(中略)…国家領土上における非国家的存在にして、国家としてのすべての属性を持ち、地域大国からの支援を受けているという、国際関係における新しい現象だ」を紹介している。また、同書では「この種は、比較的新しい存在であると言えるが近年のアフリカ政治の変遷を追っているものにはよく分かっている通り、登場し始めてから優に一五年ほど経過している」とも書かれている。2014年にはスコットランド独立の住民投票が行われる予定だし、ベルギー議会では北部独立派が優勢だ。スペインでもカタルーニャ州などが独立を求めている。カナダのケベック州議会では久しぶりにケベック独立派が第一党になった。途上国でも先進国でも統一より分裂がトレンドのようだ。そもそも冷戦終結以降、統一された国家より分裂した国家のほうが多い。20世紀の国家観が時代遅れになっているのではないか?統一の維持にコストをかけなければ、日本だけがこのトレンドから無関係でいられるわけではないだろう。

追記:チャールズ・カプチャン著「アメリカ時代の終わり(上)」(坪内淳訳 NHK BOOKS P87)で、「いまの時代の終わりは、アメリカの優位性の終わりだけではなく、産業資本主義、自由民主主義、国民国家といった、一つの歴史的時代の終わりをも意味するであろう」と書いている。国家の分裂はこの問いへの解答の一つであるように思う。

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・PCを通じた「なりすまし脅迫メール」事件で、誤った人を逮捕、起訴する事態が相次いだ。そのときの取調べのやり方についても問題視されている。今回は、真犯人と見られる人物が犯行を名乗り出たからいいようなものの、そうでない場合は無実の人が有罪となる可能性は大きい。誤認逮捕された人が泣き寝入りせずに済む様に、取調べの全面可視化は行うべきだろう。

・先週の沖縄での米兵による強姦事件について、日本経済新聞の沖縄社会面には「重要な同盟国と思っていないんだろう。彼らにとって沖縄は植民地なんだ」(2012/10/17)、『沖縄県議会は米軍基地関係特別委員会を開き、米国や米軍への抗議決議案を全会一致で可決した。「県民の我慢の限界をはるかに超え、米軍基地の全面撤去を求める声も出始めている」との内容。事件現場に近い沖縄市、嘉手納町、北谷町、北中城村の首長もそろって在沖縄米軍や在沖米総領事館などに抗議した。
     …(中略)… 
同会(筆者注:基地・軍隊を許さない行動する女たちの会)の調査では、1972年の本土復帰後、米兵による強姦事件は判明分だけで129件に上る。高里鈴代共同代表は「被害者が声を上げられない事件がほかにどれほどあるか」と憤る。
 県幹部は「県民が最も屈辱感を味わってきたのが米兵の性犯罪。95年の少女暴行事件だけでなく泣き寝入りせざるを得なかったり、米軍が身柄を確保した容疑者が米国に逃亡したりした事件は数限りない」と指摘。積もり積もった県民の思いが噴き出し、一斉の抗議行動につながっている。』(2012/10/18)という表現が並ぶ。本土でもこれらの記事を取り上げなければ、沖縄と本土の分裂は進むのだろう。


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