投資家の目線

投資家の目線674(米朝協議と「沈黙のファイル」)

 トランプ米大統領が、6月12日に米朝協議を行うことを発表した。非核化受け入れ後は日本や韓国、中国が経済支援するとも語っている(『「経済支援は日中韓で」、トランプ氏、非核化の道筋不透明。』 2018/6/2 日本経済新聞 夕刊)。2002年9月17日の日朝平壌宣言で「双方は、日本側が朝鮮民主主義人民共和国側に対して、国交正常化の後、双方が適切と考える期間にわたり、無償資金協力、低金利の長期借款供与及び国際機関を通じた人道主義的支援等の経済協力を実施し、また、民間経済活動を支援する見地から国際協力銀行等による融資、信用供与等が実施されることが、この宣言の精神に合致するとの基本認識の下、国交正常化交渉において、経済協力の具体的な規模と内容を誠実に協議することとした。」(外務省HP)とされているので、経済協力は当然行われるだろう。

 2015年4月24日のIWJインタビュー『「アジアのリーダーとして、AIIB参加を」中国経済の実態とAIIBの衝撃――これからの中国との向き合い方とは~岩上安身による富士通総研主席研究員・柯隆(かりゅう)氏インタビュー 2015.4.24』で富士通総研の柯隆氏が、北朝鮮で政権革命があった場合に備えて日本、韓国、ロシア、モンゴル、中国で北東アジア開発銀行を作る構想があったが、それがアジアインフラ投資銀行(AIIB)に発展したことを語っている。よって、AIIBに参加する中国と韓国は経済支援の準備はできているといえよう。AIIBは国際機関なので、貸し唐黷ノなった場合は国際問題になる。国際問題化を避けるために債務返済に努力するだろう。AIIBに参加していない日本は国際機関のアジア開発銀行(ADB)を使って経済支援をするのだろうか?「沖縄県の歴史」(安里進、高良倉吉、田名真之、豊見山和行、西里喜行著 山川出版社 P228)では、明治時代の琉球建藩、尚泰冊封の回避に琉球が有効な対応がとれなかった理由として明治政府の救済によって財政破綻を回避したばかりであったことを挙げている。「エコノミック・ヒットマン」(ジョン・パーキンス著 東洋経済新報社)でも感じたが、借金は借り手を貸し手に逆らえない存在にさせる怖いものだと思う。

 「沈黙のファイル」(共同通信社社会部編)は、戦後賠償ビジネスの問題を取りあげた本である。インドネシアには日本が戦後賠償を行い、伊藤忠商事が瀬島龍三人脈を使って利益を上げていたことが書かれていた。インドネシア政府が必要な物資を日本企業に注文し、その代金は日本政府が保証するという「ひも付き」だった。インドネシア賠償ビジネスには岸信介首相(安倍晋三首相の祖父)と関係の深い木下通商という商社も関わっていた。瀬島人脈は韓国の賠償ビジネスにも及ぶ。対韓国も「ひも付き」で、当時賠償ビジネスに関わっていた伊藤忠商事初代ソウル支店長小林勇一氏は「韓国の賠償プロジェクトは怖いんだ。これ(政治献金)が直接絡むから」と語っていた。当時、対日交渉に当たった元KCIAの崔英沢氏は、当時の朴政権にカネが渡っていたことを同書のインタビューで証言している。日本側で日韓交渉に積極的だった人物として岸信介氏、その弟の佐藤栄作氏を挙げている。崔氏は大野伴睦氏との会談に渡辺恒雄現読売新聞主筆が同席していたことも証言している。なお、インドネシア賠償の件には河野一郎氏(河野太郎外相の祖父)も関わっている。

 『2001年にOECD開発援助委員会(DAC)で後発開発途上国(LDC)向け援助のアンタイド化勧告が採択され(技術協力を除く、有償資金協力と無償資金協力が対象)、DAC加盟国に適用されている。同勧告は、アンタイドODAを「ほぼすべての被援助国およびOECD諸国からの自由かつ十分な調達が可能な融資または補助金のことを指す」と定義している』(外務省HP用語集)。そのため、かつての賠償ビジネスのようなひも付き(タイド)支援は難しいだろう。OECDの「国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約」、それを実施するための不正競争防止法に外国公務員贈賄罪があるため、政府高官にカネを渡して工作することも理屈ではできないはずだ。TPPの腐敗防止条項も贈賄禁止が趣旨である。そのため、対北支援しても当時ほど政界においしいところはないかもしれない。

 ただし、朝鮮民主主義人民共和国はレアメタルや鉄鉱石、石炭などがある資源国であり、黄海には有望な油田も確認されている。また、「北朝鮮・統一教会・自民党の奇妙な「三角関係」…金正恩氏が教祖に弔電」(2015/8/30 デイリーNKジャパン編集長 高英起)によれば、冷戦終結後の1991年には世界基督教統一心霊協会(統一教会)の教祖文鮮明氏が訪朝し、当時の金日成主席と和解、自動車生産などで経済の支援もしていた。統一教会と関係のある議員が日本の政界に存在する。かつての岸信介氏が代表的だ。その方面から対北支援が進むかもしれない。



 それにしても、安倍首相は7日のトランプ大統領との会談で何を話す気だろう?トランプ大統領にとって日本のトップと会談する価値のあるものは経済問題、特に輸入自動車問題で、それ以外は時間のムダであろう。『安倍晋三首相は30日の党首討論で、米国が自動車の輸入関税を引き上げる検討を始めたことに関し「同盟国の日本に課すのは極めて理解しがたい。受け入れることはもちろんできない」と不満を示した。』(日本経済新聞web版 2018/5/30)が、安倍首相はどうやってその辻褄合わせをする気なのだろう?

追記:次の記事のように、石炭を液化して合成石油を作ることができる。石炭があれば石油禁輸はそれほど効果はないだろう。

北朝鮮が生き残る手法はこれ-石油全面禁輸なら 2017年9月18日 Bloomberg 
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-09-18/OWH3FL6K50XU01

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最近の「政治」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事