投資家の目線

投資家の目線781(バイ・アメリカン政策)

 共和党の現トランプ米国大統領は、米国人は米国製品を購入しようという「バイ・アメリカン」をうたっている。民主党の大統領候補バイデン氏も「バイ・アメリカン」を強調している(「バイデン米民主党大統領候補、経済政策を発表、バイアメリカン強調」 2020/7/14 JETROビジネス短信)。どちらが大統領になっても「バイ・アメリカン」政策がとられるだろう。バイ・アメリカン運動は以前にもあった。

 1993年から2001年の間米国大統領だったビル・クリントン著「マイライフ クリントンの回想」(楡井浩一訳 朝日新聞社)には、同氏がアーカンソー知事時代、シャツ工場を存続させるため地元の有力企業であるウォルマートにその工場のシャツを仕入れてもらえないかと尋ねたことが書かれている。「ウォルマートがアメリカ製品をもっと仕入れると同時に、自社のその方針と実践を宣伝して、売上を伸ばすひとつの手立てとするよう促した。ウォルマートの“アメリカを買おう”キャンペーンは大成功を収め、小さな町の商店を廃業に追い込む悪者として大型の安売り店に向けられていた憤りを和らげるのに役立った。ヒラリーはアメリカ製品購入プログラムがとても気に入り、それから一、二年後に自身がウォルマートの役員会に名を連ねてからは、強力にこれを後押しした。」(上巻p537)という。

 また、1987年10月のブラックマンデーのときウォルマートの創業者サム・ウォルトンはクリントン知事に、「うちが株を上場している目的はただひとつ。市場から資金を調達して、もっと店を増やし、その利益を社員に分配するためだよ」(同p565)と答えたという。そして、サム・ウォルトンが亡くなった後、同社が「以前ほど“アメリカを買って”いない」(同p566)ことをクリントン氏は嘆き、「国内のすべての企業が、自分の資産を見るのと同じ目で、従業員や株主の資産の増減に気を配る献身的な人間によって経営されていたら、アメリカはもっと豊かな国になっていたはずだ。」(同)とも述べている。

 ビル・クリントン氏は大統領時代にNAFTAを締結したが、それでもバイ・アメリカンを支持している。また、ウォルマートの役員時代にバイ・アメリカンを後押ししたヒラリー氏が2017年に大統領になってもバイ・アメリカンを推進していただろう。

 「『外国貿易によるイングランドの財宝』というマンの書物の表題が、すべての商業国の経済政策の基本命題になりました。一国の貿易政策は、輸出超過による外国からの金銀の獲得を目的にしなければならないということになり、この目的を達するためには貿易統制をしなければならないという重商主義政策が生じたと、スミスは考え」、それに対するスミスの反論は「富とは、個々の市民の消費財です。しかし金銀は消費対象としてはほとんど役に立ちません。(中略)だから貨幣をむやみに蓄蔵するのは愚策です。貨幣が手に入ったら、消費財を買うか、ただちに生産財を購入して利潤目当ての資本として運用するのが上策です」(「スミス国富論入門」(星野彰男・和田重司・山崎玲著 有斐閣新書p138))である。巨額の貿易赤字を抱える米国にとって、バイ・アメリカ政策は重商主義でも、保護貿易でもない。むしろ、対米貿易黒字で米国債を購入する国こそ重商主義に見えるのだろう。
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