「ミクロの侵入者、ワクチンに潜むガンウイルス SV40と発ガンの謎」(横山逸男著 郁朋社 2003年7月5日第1刷発行)は、シミアンウイルス(SV)40と発ガンの問題について書かれた本である。その本は1996年にカリフォルニア州ロサンゼルス郡の町マリナ・デル・レイに住む2歳のアレキサンダー・ホーウィン君が脳腫瘍で亡くなったことから始まる。その両親ホーウィン夫妻は死の原因を調べた結果、「ポリオワクチン汚染によるSV40の小児における中枢神経系腫瘍発生に与える影響と疫学調査」という論文に行き当たる。その論文は、SV40が何らかの理由でポリオワクチンに含まれており、ワクチンを接種された者、特に子供は脳腫瘍が発生する可能性が非常に高いことを示すものだったのである(p43~44)。
1955年~1962年の接種に使用された、サルを使用して作るポリオワクチン(ソーク・ワクチン)がSV40に汚染されていたことがあった。1960年代には、アメリカ国立衛生研究所(NIH)のエディ研究員がサルを使用したワクチン製造の危険性を指摘していたようだ。しかし上層部はサルのウイルスによって人間にガンができるはずがないという考えが支配的であり、発表の機会はなかった。しかし、細菌学者のモリスらが1971年にエディの研究が政府によって圧力がかけられているとして告発し、エディは国会議員を前に、ワクチン製造にサルを使用する限りヒトがガンになる可能性は高く、対策を怠れば20年後のアメリカはガン患者であふれかえるだろうと警告した。しかし、それを真剣に受け止めようとする者はおらず、その背景には製造会社からの圧力があったものと推測されている(p76)。「ワクチン」接種後に悪性リンパ腫を診断された立憲民主党の原口一博衆議院議員は、ワクチンに懐疑的な発言で製薬会社から提訴されており、ワクチン懐疑派が圧力をかけられるのは当時と同じだ。
エディの証言をきっかけに、議会はアメリカ食品医薬局(FDA)とNIHに対してポリオワクチンの安全対策を講じるよう命令を下し、NIHはワクチン開発のプログラムを剥奪され、それはFDAに移行した。なお、その後モリスは豚インフルエンザのワクチン実施が危険をはらむものとして非難したことでフォード政権時に解雇されたが、そのワクチン接種は神経麻痺の障害や死者の出る大きな薬害事件となった(p76~77)。
1963年にアメリカの医学会雑誌「JAMA」に、NIHの公衆衛生学者フラウメニはSV40によるワクチン汚染の程度とガン(特に白血病)の発生頻度に差はなかったという論文を発表した。しかし、ガンが発生しそれがわかるまでには何十年もかけた調査で結論が出るので、たった数年の調査期間では短すぎて不十分という批判が出た(p93)。この批判は、発生から14年程しかたっていない福島原発事故の健康問題調査についても当てはまるだろう。しかし、フラウメニの結論は政府にとって満足すべきもので、メディアもその情報を報じ、SV40の問題は忘れられ平静に戻った。
その14年後、フラウメニは再度調査を実施し、SV40の汚染の程度とガンの発生には関係がないと結論付けた。調査が手紙による依頼であったため返信が少なかったことや、調査対象者が17~19歳とガン発生という観点からは十分な期間ではないという指摘もあったが、政府はこの問題に終止符を打ち、研究者たちの関心も薄れていった(p94)。
しかし、1994年「オンコジン」という学術雑誌において、PCRを使用し、中皮腫に関係する因子としてSV40があり、ポリオワクチンとSV40汚染、それによる発ガンの問題が提起された(p105)。2001年4月にはシカゴでSV40とガン発生に関する国際会議が開催され、PCRを使った調査の結果、SV40と発ガンが強く関与していることを示す論文がほとんどだった。ガン以外に、腎不全になってしまう疾患にもSV40が発見できたという。ただし、過去SV40以外のウイルスでの発ガンが長い間研究された末に分かったことから、結論付けるには十分な研究調査が必要との慎重な意見もあった(p120~121)。2002年7月のシンポジウムでは1955年から1961年の間にワクチン接種が行われたカナダでは、リンパ腫の発生が近年増加していることが報告されている(p121)。
最初の部分に戻ると、アレキサンダー君の脳腫瘍による死は、1963年以降につくられたワクチンもSV40に汚染されている可能性があるとして裁判になっていた(p172)。次期厚生長官となる予定のロバート・ケネディ・ジュニア弁護士は、ロサンゼルスに自宅がある。ポリオワクチンの承認撤回要請(「ケネディ氏側近、ポリオワクチン承認撤回を要請 米報道」 2024/12/14 日本経済新聞電子版)にはこういう背景があると考えられる。ウイルス等に汚染されたワクチンを排除しようとするのは当然だ。マスメディアはこういう背景も報ずるべきではないのだろうか?
この本が出版された後、「2004年には米国国立ガン研究所(NCI)が、SV40抗体とリンパ腫の間に相関はみられなかったことを報告しました。2005年には、SV40の腫瘍抗原であるT抗原に対する抗体とリンパ腫の間にも相関はないとの報告が発表されました。ただし、調査された例数は少ないとの批判があります。中皮腫はアスベストで起きることが問題になっていますが、2005年にはアスベストによる中皮腫にSV40がかかわっている証拠はないと報告されています。結局、現在までのところ、SV40がガンに関係している証拠は見つかっていません。」(日本獣医学会 人獣共通感染症(第179回)サル由来ヒトウイルス感染症の歴史)という。しかし、ロバート・ケネディ・ジュニアの下でワクチンの安全性と有効性の調査が行われる(『ケネディ氏、ワクチンの安全性と有効性を「直ちに」調査 トランプ次期政権で』 2024/11/7 CNN)。その後でもこのNCIの見解が有効なままかはわからない。
ちなみに、ワクチンの防腐剤には水銀が含まれており(日本では使用されていない)、FDAは生後3か月以内に水銀にして62.5マイクログラム以上接種すると自閉症の発生率が高くなるとしている(p36)。1958年にアフリカのコンゴとルワンダで大規模なワクチン接種が行われ、そこがエイズ発祥の地となったことから(コプロフスキーの)ポリオワクチンをエイズ起源とする説も出たことがあった(p52~53 2025/1/20追記)。
追記:
2025/1/22
ロバート・ケネディJr氏は魚の過剰摂取で水銀中毒症状の診断も受けたことがある。水銀中毒は記憶力低下等の神経系かく乱を引き起こす場合があるという(「米ケネディ候補、過去に『脳内寄生虫』診断…記憶喪失症状」 2024/5/9 中央日報)。FDAは妊婦や子供に水銀の少ない魚介類を食べるよう勧告している(「水銀少ないエビ・タラ、妊婦や子供食べて 米当局勧告」 2014/6/11 日本経済新聞電子版)。ケネディ氏の水銀に対する懸念はおかしなことではない。
また、帯状疱疹ワクチンの定期接種は60〜64歳のエイズウイルス(HIV)による免疫機能に障害がある人も対象となっている(「帯状疱疹の定期接種来春から 65歳対象、経過措置も」 2024/12/18 日本経済新聞電子版)。
2025/1/27
ロバート・ケネディJr氏はChildren's Health Defenseの代表理事で、チメロサール(水銀を含んだワクチンの防腐剤)に関する著作もある。彼は環境政策だけでなく、薬害被害の問題にも関与していた。
昨年、ガザではポリオワクチンの接種が行われた(『WHO「ガザ戦闘一時休止でイスラエルが合意」 ポリオワクチン接種で』 2024/8/30 日本経済新聞電子版)。このワクチンは安全なものだったのだろうか?
注:ページは「ミクロの侵入者」のもの