投資家の目線

投資家の目線888(ペロシ下院議長の訪台)

 ナンシー・ペロシ米国連邦下院議長の訪台が、アジアでの緊張を高めている。

 

 8月5日の朝鮮日報日本語版によれば、ブルームバーグ通信の記者の「あなたの今回の訪問による対価を相殺するだけの、どんな具体的な利益を台湾に約束できるのか」という質問に、ペロシ議長は米国に半導体工場を建てる企業に税金面で優遇するCHIPS(チップス)法を例に挙げ、「米国と台湾の経済協力にもっと良いチャンスを提供する」と答えたという(「【コラム】ペロシ米下院議長の台湾訪問が残した課題」 2022/8/5 朝鮮日報日本語版)。「TSMCなど台湾の半導体企業が恩恵を受けるということだ。CHIPS法は韓国・日本・台湾の半導体企業に機会があるが、最大の受益者は米国だ。中核的な製造施設を自国に呼び込み、半導体供給を安定させ、中国をけん制できるからだ。中国市場をどうするかという難しい課題は韓国・台湾など外国企業が考えることだ。ペロシ議長の台湾訪問計画が決まった後、2%以上落ちたTSMCの株価がそれをよく現している」(同記事)。ペロシ議長の配偶者ポール・ペロシ氏は、テック企業にも投資している。大韓民国の尹錫悦大統領がペロシ議長と会わなかったのは、韓国系米国人社会からペロシ議長訪台に対する米国内での評価の情報が入っているためではないだろうか?

 

 先月29日の日米経済版2プラス2の共同声明には、「岸田首相とバイデン大統領が発表した次世代半導体の開発を模索する合同タスクフォースの進展を歓迎し、このメカニズムを通じた継続的な協力にコミットする」(「日米経済版2プラス2 共同声明と行動計画の全文」 2022/7/30 日本経済新聞WEB版)という文言があり、これはCHIPS法に関係する。しかし、中間選挙で民主党が壊滅的な敗北に終わると予想される中、バイデン政権との合意にどんな価値があるのだろう。対するトランプ前大統領を押し立てるアメリカファースト勢力は、国際的なグループ作りには興味を持っていない。直近でも、ECプラットフォームのShopify(「Shopify、従業員1千人削減 ネット通販減速で」 2022/7/27 日本経済新聞WEB版)、スマホ証券のロビンフッド(「スマホ証券の米ロビンフッド、人員23%削減 取引低迷で」 2022/8/3 日本経済新聞WEB版)、インターネット不動産売買のレッドフィン(「米住宅関連株、リーマン危機並み下落幅 住宅市況に影」 2022/8/6 日本経済新聞WEB版)、自動車部品のリア(「自動車部品、人員を削減 景気後退に備え(NY特急便)」 2022/8/4 日本経済新聞WEB版)、小売りのウォルマート(「ウォルマート、管理部門の人員削減 消費減速で」 2022/8/4 日本経済新聞WEB版)など、米国では人員削減が相次いでいる。有効な経済対策をとれない民主党に勝機は見いだせない。

 

 東アジアサミットで、日本の林外相発言中に中華人民共和国の王毅外相が退席した。岸田首相が出席した6月のNATO会合では、『中国が「体制上の挑戦」を突きつけている明記した』(『NATO「中国は体制上の挑戦」 戦略概念で初言及』 2022/6/29 日本経済新聞WEB版)。中華人民共和国は敵対的な姿勢をとる日本を相手にするほどヒマではないのだろう。

 

 中国は日本にとって最大の貿易相手国である。2021年は、「輸出(中国の対日輸入、以下同じ)は前年比17.1%増の2,061億5,312万ドル、輸入は12.9%増の1,852億8,736万ドルとなった。その結果、日本の中国に対する貿易収支は208億6,576万ドルの黒字と、5年連続の黒字となった」(2021年の日中貿易、2011年以来10年ぶりに過去最高を更新 | 2022 - 地域・分析レポート - 海外ビジネス情報 - ジェトロ 2022/3/25)。英国首相を務めたイーデンの回顧録には、米英両国が、二つの中国政府の問題で日本がどちらかに動くような圧力をかけることはしないことで意見が一致したことを書かれている。「もし日本が復活した輸出貿易のはけ口をもたねばならぬとしたら中国本土が自然のはけ口となることは明らかだった。中華人民共和国に対して融通のきかぬ敵対的な態度をとるよう仕向けられることによって、これを失うようなことがないようにすることが大切だと考えた。もしそんなことになったら、のちに平和条約の批准によって完全な主権と独立を回復したときは日本は後悔するだろう。」(「イーデン回顧録 Ⅰ 運命のめぐりあい 1951~1955」 湯浅正義・町野武訳 みすず書房p15~p16)ともイーデンは書いている。北京なる政府の統治下と台北にある政府の統治下では、圧倒的に市場が大きいのは北京側。しかも、海上封鎖されたら貿易に頼る台湾経済は危機に陥る。現在行われている台湾周辺での軍事演習の結果、「台湾近海を通常航行する200隻余りの商船が、中国軍の封鎖した6つの海域から退避した。アジア全域に輸出する貨物の積載作業を切り上げて出港した船舶もある」(「台湾近海から商船避難 中国、軍事演習で包囲」 2022/8/6 ダウ・ジョーンズ配信)という。

 

 故安倍晋三首相の時代、日本はトランプ政権とまともに経済交渉をしてこなかった。アメリカファーストの浸透で、今後、対米輸出で貿易黒字を稼ぐことは困難だろう。その加えて対中関係を悪化させれば、対中輸出も大きく減少するだろう。岸田政権は日本を没落させるばかりだ。

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