投資家の目線

投資家の目線887(エネルギー問題、食糧問題)

 ドイツがロシアからのガスの使用を減らすことになったため、ドイツ企業は生産を縮小せざるを得なくなっている。「調査対象3500社のうち、16%が生産を縮小あるいは事業の一部を停止していることが分かった」(「ドイツ企業、エネルギー高騰で減産の動き=商工会議所調査」 2022/7/24 ロイター)という。ガス不足の影響はその他多くの欧州諸国も同様なようで、「欧州各国の政府や企業はロシアによるウクライナ侵攻に起因するエネルギー価格高騰や今冬に見込まれる深刻なガス不足への対応に苦慮している」(同)。高級車メーカーのメルセデス・ベンツは、制裁の影響を受けないハンガリーに生産ラインを増設することでガス不足の影響を回避する模様だ(「メルセデス、ハンガリー工場に10億ドル投資 - NNA EUROPE・ハンガリー・自動車・二輪車」 2022/7/25 NNA EUROPE)。

 

 ドイツのハベック副首相は今年6月、ロシアからの「パイプラインの全面稼働が実現しない事態を想定し、エネルギー源の配給制に踏み切る可能性にも触れていた。 また、ドイツ国民に対しシャワーの利用時間の短縮も訴え、産業界や消費者に暖房の節約も促し」(『ドイツ副首相、ロシア企業のガス供給の約束「あてにせず」』 2022/7/24 CNN.co.jp)、またドイツ北部のハノーバー市のオーナイ市長は、「今年10月~来年3月の期間以外で暖房を使用しないこと、屋外の噴水を止めることなども表明」(『ドイツ北部の街、公共施設でのお湯使用禁止 市長「今できる準備を」』 2022/7/29 朝日新聞デジタル)と、ドイツ人の生活にも影響が表れている。

 

 6月30日、プーチン大統領はサハリン2の運営主体の再編を命じる大統領令に署名した(プーチン大統領、サハリン2運営主体の再編を命じる大統領令に署名(日本、英国、ロシア) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ 2022/7/4)。その前日の6月29日、岸田首相も参加したNATOの首脳会議で『ロシアを「最も重要で直接の脅威」と定義した』(『NATO事務総長、対ロシア「欧州で大戦以来の安保危機」』 2022/6/30 日本経済新聞WEB版)。ロシアとしては、日本など対決姿勢をとる国の企業の権益を守る必要はないのだろう。ドイツと同様にエネルギー不足で、この冬には日本でも停電の発生が懸念されている(『不透明な「サハリン2」問題 この冬は“停電覚悟”か!?』 【Bizスクエア】 2022/7/31 TBS NEWS DIG Powered by JNN)。フィリピンは国内の天然ガス田の枯渇に備えてLNGの輸入を計画している(2019年の原油産出量が39%減、天然ガスは微増(フィリピン) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ 2020/2/13)。日本に輸出する予定だったサハリン2のLNGはフィリピンに売ればよい。日本にガスを売れなくてもロシアは困らない。

 

 また食料について、立命館大環太平洋文明研究センターの高橋学特任教授は、 「米国農務省が提示している消費量というのは、人間が食べる分だけじゃなくて、家畜の飼料やバイオ燃料として消費される分も含まれており、主食など人の食用として消費されるものは全体の43%程度です。問題は全体の約36%を占める家畜や養殖魚のえさとなる分。経済的に貧しかった国々が豊かになっていくにつれて肉を大量に消費するようになってきている。結果、家畜の飼料になる穀物の量がドンドン増えてきている」(『ウクライナ戦争で浮き彫りとなった「世界的穀物不足」の行方 2022/7/26 FRIDAYデジタル)と発言している。穀物不足は国の内外を問わず畜産業に悪影響を与える。日本でも輸入が主の家畜の飼料や畑の肥料の価格が高騰している。JA長崎せいひ肥育牛部会の渡部英二部会長は、「日本から畜産がなくなるかもしれない-。それぐらいの危機感を持っている」と語っている(「農業の生産資材高騰 苦しむ現場、回復見通せず 長崎」 2022/7/25 長崎新聞)。米国では肥料の価格の高騰で、トウモロコシより肥料が少なくてすむ大豆の作付けを増やす傾向にあった(「トウモロコシ先高観 米作付け、肥料高で大豆下回る公算」 2022/4/2 日本経済新聞WEB版)。日本の配合・混合飼料の原料使用量の47%(1,142万トン)がトウモロコシで、その70%(792万トン)が米国からの輸入である(令和3年度:「飼料をめぐる情勢」 令和4年7月 農林水産省畜産局飼料課 p20)。米国産トウモロコシが不足すれば、代替品を探さなければならない。飼料の配合が変わったとき、家畜の育成は今までの方法でいいのだろうか?

 

 肥料については家畜の糞を利用したり(「鹿児島JA、家畜のフンで低価格肥料 ウクライナ危機受け」 2022/7/13 日本経済新聞WEB版)、下水からリン肥料を作ったりする(「下水からリン取り出し肥料に 福岡市とJA全農ふくれん」 2022/7/26 日本経済新聞WEB版)努力がなされているが、どれだけ肥料不足に貢献できるであろうか?カリ肥料に使用される塩化カリウムの世界の生産量の37.6%はロシアとベラルーシが占めている(「ウクライナ侵攻が世界的な食糧危機の引き金に? その主要因は......」 2022/3/10 ニューズウィーク日本版)。

 

 『燃料高騰もあって公海への出漁は水産事業者にとって負担が重い。「21年より来遊量が増えても、経済性を考えて出漁しない選択をとる事業者が出てくるかもしれない」(水産庁関係者)との声もある』(「サンマ漁獲、22年も低調か 水産庁8~12月予報」 2022/7/29 日本経済新聞WEB版)と、食肉だけでない魚も不足しそうだ。不足するたんぱく質は昆虫食で補う覚悟があるのだろうか?

 

 トヨタが受注したSUV「ハリアー」の注文を一部取り消すなど(『トヨタ、受けた「ハリアー」の注文白紙に 生産間に合わず』 2022/7/25 日本経済新聞WEB版)、中国のロックダウンの影響で日本の製造業は生産に支障をきたしている。日本は不況に突入し、貿易赤字から外国からモノが買えなくなる時代に入ってきているのではないだろうか?

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