投資家の目線

投資家の目線806(ルポ トランプ王国)

 間もなく米国で政権が交代しそうな中、「ルポ トランプ王国 もう一つのアメリカを行く」、「ルポ トランプ王国2 ラストベルト」(金成隆一著 岩波新書)を読んだ。

 長年民主党を支持しながらトランプ支持の労働者は、「私が指導者に求めていることはシンプルです。まじめに働き、ルールを守って暮らし、他人に尊敬の念を持って接する。そうすれば誰もが公正な賃金を得られて公正な暮らしが実現できる社会です。」(「ルポ トランプ王国 もう一つのアメリカを行く」p45)と語っている。またペンシルベニア州の郊外住宅地の住人は、「ここは郊外の象徴、アメリカン・ドリームの象徴です。私の両親は5人の子を育て、私も高校教師を35年やって家族を養うことができた。子どもは安心して自転車を乗り回し、一日中あそび回り、大人は新鮮な野菜を近くで買える。誰かが雪の日に病院に行く必要があれば、隣人が当然のように車を出す。いちいちお願いしなくても、近所で助け合って道の雪かきをする。助け合いのコミュニティーでした。」(「ルポ トランプ王国2 ラストベルト」p142)という。アメリカの庶民の考えるアメリカン・ドリームとは、働いてその賃金で家や車を買い、子供を育てるという慎ましやかなもので、ユニコーン企業を創業したり、グローバル企業を経営したりすることではないようだ。

 ペンシルベニア州西部天然ガス採掘施設建設に携わる60歳ぐらいのトランプ支持者は、「毎日朝4時に起きて、12時間ほど働いていますよ。」(「ルポ トランプ王国2 ラストベルト」p104)というぐらい働き者だ。

 バイブルベルト、アラバマ州北部のトランプ支持者は「1950年代、教会がコミュニティーの中心でした。(中略)人々は教会に通わなくなりました。神を信じなくなりました。」(「ルポ トランプ王国2 ラストベルト」p231)と嘆き、ボーンアゲインのクリスチャンは「中央政府の仕事は、インフラ整備や軍隊など、個々人が担うには大きすぎるもの。その他の社会的ニーズは、何らかの支援や食糧が必要な人の面唐ゥるのは、教会やコミュニティーの個々人なのです。(中略)私たちに必要なのは、昔から言われてきたように「働かざる者、食うべからず」です。」(「ルポ トランプ王国2 ラストベルト」p240)と、福祉は政府ではなく教会を中心とする地域コミュニティーが担うと考えている。一方、ニューヨークの、法律の学位を持ち退役軍人でもある女性はオカシオコルテスを支持する。「私も長年ウェイトレスとして働き、生活できるだけの賃金を稼げていません。彼女の言葉は私の言葉でもあるのです。私はロースクールを卒業したけど、借金ばかりが残り、満足に暮らしていけない。」(「ルポ トランプ王国2 ラストベルト」p277)と、頑張って高等教育を受けても満足に稼げないことを証言する。医療関係の仕事に就きたいという中学生に、その父親は「卒業するときには10万ドル(1150万円)の借金を背負うんだぞ」(「ルポ トランプ王国 もう一つのアメリカを行く」p248)というぐらい、教育にかかるコストが高いのだ。

 トランプ支持者もオカシオコルテス支持者もグローバリズムの恩恵はあまり受けない人々で、福祉を軽んじているわけではなく、その担い手が地域コミュニティーか政府機関かという違いだろう。田舎は濃密な地域コミュニティーが存在するのに対し、様々な宗教が交わり、人の出入りが頻繁な都市部ではそれが作りにくく、福祉の担い手に政府機関が必要なのだろう。宗教によっては、「働かざる者、食うべからず」という考え方とは相容れないものもあるだろう。

 親トランプと反トランプは、アメリカ・ファースト(反グローバリズム)と親グローバリズムの差なのだろう。大手マスコミなど大手企業にとって、グローバリゼーションは世界中で儲ける機会を与える。軍の元高官もトランプ不支持を打ち出すなど、軍の上層部もグローバリゼーションの方が都合がいいのだろう。

 共和党の保守派の人は「かつての移民は、アメリカ人になりたくてアメリカに移り住んできました。(中略)ところが今、英語を学ぼうとしない人が多い。アメリカ社会に同化しようとせず、出身国のルールを持ち込もうとする。だったらなんでアメリカにいるのよ?と思います。理解できません。」(「ルポ トランプ王国2 ラストベルト」p128)と言っている。2015年、サンフランシスコ市の慰安婦像設置の件で議員に「Shame on you」と言わせたのは、慰安婦像設置に反対するオーディエンスが証言者を個人攻撃したことがアメリカ社会のしきたりに合わなかったためだろう。アメリカ社会になじもうとしない人々の意見はなかなか採り上げられないものだ。

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