投資家の目線

投資家の目線903(最近のウクライナとバルカン半島)

 ロシアの攻撃でウクライナはエネルギー供給をほとんど失い、NATOに直接介入してもらうぐらいしか手がなくなっている。そんな中、ウクライナから発射されたと推測されるミサイルが国境付近のポーランド領内で爆発し、2名の死者が出た。ウクライナとポーランドの国境付近の情報は錯そうしているようだ。ウクライナコサックがロシアの保護下に入るきっかけとなったフメリニツキーの乱は、ポーランドがフメリニツキーの領地を襲われたため始まった。ウクライナ人にとって、必ずしもポーランド人は利益を同じくする味方ではない。扱いが悪ければポーランドよりましだとロシアに寝返るかもしれない。

 

 第2次大戦時のポーランド亡命政府の第二代首相スタニスワフ・ミコワイチクは、チャーチルには「ロシアがわれわれに原油と石灰の鉱床、それにルヴフを残してくれるなら、閣僚にカーゾン線以東の地をロシアに渡すよう説得してみる」、スターリンには「もしあなたがここでいま寛大な姿勢を示されたならば、ポーランド人は永遠にあなたの名を賛美するでしょう。約束された西部の土地に加えて、私たちがルヴフとヴィルノ一帯を保持できれば、こちらとしてはうれしく思います」(「奪われた祖国ポーランド ミコワイチク回顧録」(スタニスワフ・ミコワイチク著 広瀬佳一・渡辺克義訳 中央公論新社 p.160)(ルヴフは現ウクライナ西部の都市リヴィウ、ヴィルノは現リトアニアの首都ビリニュス)と言っている。ポーランドのドゥダ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領は、両国が「もはや国境を持たない」と表明していた(”Ukraine risks merging with Poland – ex-president” 2022/5/27 RT、投資家の目線878(ウクライナの終わりと終わらない食糧・エネルギー不足))。とはいえ、インフラストラクチャーが破壊されたウクライナを丸抱えすることは、ポーランドにとって割が合わなくなった。しかし、リヴィウ周辺の西部地区は取り込みたいところだろう。

 

 バルカン半島ではコソボとセルビアが対立している。『コソボ政府が、同国北部などに住むセルビア系住民に対し車両ナンバープレートの変更を求めたのがきっかけだ。ロシアを後ろ盾とするセルビアと、米欧が支持するコソボの対立は、ウクライナ戦争の「場外乱闘」的な意味合いがあり、今後の展開に注目が集まっている』(「セルビア・コソボ緊張再び」 2022/8/23 日本経済新聞WEB版)。

 

 コソボとセルビアの対立は根深いようだ。「第二次世界大戦期に、コソヴォがイタリア保護下のアルバニアに併合されると、セルビア人にたいする虐殺が行われた」(「新版世界各国史18 バルカン史」 柴宣弘編 山川出版社 p.387)。また、『人口構成の変化の結果、一九八〇年代末になるとアルバニア人はコソボをユーゴスラヴィアの他の共和国と同じ共和国の地位に格上げすることを要求した。セルビアとユーゴスラヴィアの政府は、これを認めなかった。離脱する権利を得ればコソボは離脱するだろうし、おそらくアルバニアに併合されるのではないかと恐れたのだ。一九八一年三月、共和国になりたいという要求を支持して、アルバニア人の抗議の暴動を起こした。セルビア人によれば、そのあとセルビア人に対する差別、迫害、暴力などが増えたという。クロアチアのあるプロテスタント教徒によれば、「コソボでは一九七〇年代末から…無数の暴力行為が起こり、建物の破壊、解雇、嫌がらせ、レイプ、喧嘩、殺人などが横行した」。その結果「セルビア人は、彼らの脅威は大量虐殺に近いもので、これ以上我慢できない」と主張した。』(「文明の衝突」 サミュエル・ハンチントン著 鈴木主税訳 集英社 p.396)。日本ではセルビアを加害者、コソボを被害者と見る向きが多いが、これらの例を見るとそうではない。少数派のセルビア人保護のために、セルビアがコソボに条件を出すのは不当なこととはいえない。

 

 『「ロシアにウクライナを占領する意図はない」 2022年2月25日、日本外国特派員協会にて、ミハイル・ガルージン駐日ロシア大使 日本外国特派員協会は歪曲が許されない場所だ 重要なのはあなたの信ぴょう性だ』(「日本外国特派員協会における駐日ロシア大使の会見に関するEUおよび各国大使の声明」 2022/11/11 EU代表部プレスチーム)にも、コソボ共和国大使の名はあってもセルビア共和国大使の名はない。

 

 同声明で、「ロシア政府は、この戦争の目的はウクライナおよび(図らずもユダヤ人である)ウクライナ大統領の非ナチ化にあると主張してきた。これらは全く根拠のない主張であり、ナチズムの犠牲者を侮辱するものである。」と書かれている。

 

 西ドイツの連邦政府初代首相を務めたドイツキリスト教民主同盟の初代党首アデナウアーは、「ナチスとは、物質主義的世界観が生む権力崇拝、個人の価値の軽視、いや蔑視がつきつめられて犯罪にまで行きついた結果にほかならない。(中略)自種族を支配種族となし、自民族を支配民族となし、他民族を劣等、いや部分的には撲滅にすら価する民族とする教義であった。だが、それはまた、自種族、自民族中の政治的敵対者をも断固、撲滅すべしとする教義であった」(「アデナウアー回顧録 Ⅰ」 佐瀬昌盛訳 河出書房 p.43~44)と書いている。ポーランド貴族は、自身を勇猛な古代の騎馬民族サルマティア人の後裔とみなし、下位身分をサルマティア人に征服された住民の子孫とみなしていた(サルマティアリズム)(「新版 世界各国史 20 ポーランド・ウクライナ・バルト史」 伊藤孝之、井内敏夫、中井和夫編 山川出版社 p146)。征服民族と被征服民族に分けて、上位身分の優位性を正当化するこの考え方はナチスと親和性がある。ポーランド・リトアニア公国時代にはルーシの上級貴族はポーランド化し、「正教やルーシの言語は下層階級のものとみなされるようになった。そしてこの偏見は第二次世界大戦のときまで続くのである」(「物語 ウクライナの歴史 ヨーロッパ最後の大国」 黒川祐次著 中公新書p74~75)。ルーシの末裔といえるウクライナ東部のロシア語話者を弾圧し、自国の政治的敵対者である野党の活動を停止させたゼレンスキー政権のやり方は、ナチスと変わらない。「創世記」には、神はアダムという男性とエバという女性を創造したことが記されているが、それ以外の性別の人間も創造されたとは記されていないのではないか?性別と体の間の違和感に悩む人を受け入れる寛容さは持つべきとしても、現在の西側諸国のLGBT運動は聖典から逸脱した物質主義的世界観になっていないだろうか?

 

 「日本外国特派員協会における駐日ロシア大使の会見に関するEUおよび各国大使の声明」には、欧米ANZ以外で名を連ねているはマーシャル諸島共和国とミクロネシア連邦の大使だけで、アジア、中南米、アフリカの大使の名はない。このようなバカバカしい声明につき合っている暇はないのだろう。

 

追記:

2022/11/23

『スターリンがティトーに、「旧弊で、原始的な連中」ばかりが住んでいる小国アルバニアを併合してもよい、とゴーサインを出していた』(「独裁者が変えた世界史 上」 オリヴィエ・ゲズ編 神田順子、清水珠代、松尾真奈美、濱田英作訳 原書房p293)とされる。アルバニアは北部と南部で言語(北部 ゲグ方言、南部 トスク方言)や風習などが分かれるものの、他のバルカン諸国と比べると大きく異なったところがあるのだろう。

 

2022/12/9

ポーランド・リトアニア王国時代のウクライナは、「リトアニア・ポーランド支配下、なかんずくポーランドの支配下にあったウクライナ社会の特徴は、貴族の力が強まり農民が農奴化していったことである」(「物語 ウクライナの歴史」p67)という。ウクライナ人にはポーランド人にひどい目にあわされたという歴史の記憶はあるのだろうと思う。

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