投資家の目線

投資家の目線927(金融危機が続くG7)

 米中堅銀行ファースト・リパブリック・バンク(FRC)が経営破たんした。「波乱の時代 上 わが半生とFRB」(アラン・グリーンスパン著 山岡洋一、高遠裕子訳 日本経済新聞出版社 p166~167)には、1980年代のインフレ時代の貯蓄金融機関(S&L)の苦境について書かれている。「通常、預金金利はすぐさま上昇するので、資金調達コストは上昇するが、住宅ローンが返済されるまでには時間がかかるので、収益の増加は遅れる。すぐに貯蓄金融機関の多くが赤字になり、一九八九年には大部分が債務超過に陥っていた。住宅ローンを売却した場合、その代金で預金を全額払い戻すことができない状況になっていたのである」。米ドル防衛のために米国で高金利政策が続けば、当時のように金融危機が拡大するのではないだろうか?

 

 21世紀にも住宅ブームが発生したが、2005年末近くには終わりを迎えていた。グリーンスパンは、「住宅をはじめて買おうとする人にとって、価格が高すぎる状況になってきたからだ。価格の上昇で住宅ローンの借入額が多くなり、毎月の収入で返済していくのがむずかしくなったのだ。(中略)売り手は売り値を維持したが、買い手がつかなくなった。このため、新築住宅でも中古住宅でも販売件数が急減した」(「波乱の時代 上」p336)と述べている。直近のように、金利が上昇すれば返済負担も増える。住宅をはじめとする不動産ローンはSPVに売却されて証券化商品になる。債務者の返済が滞れば、その証券化商品を保有している投資家にも悪影響が出る恐れがある。

 

 FRCは、『「ジャンボローン」と呼ばれ、元本返済を10年間猶予するような富裕層向けの高額住宅ローン事業に傾斜していたことが裏目にでた』(『「次のFRCは」緩和依存のツケ、不動産・欧州にも火種』 2023/5/3 日本経済新聞電子版)という。2000年代半ばのサブプライムローン問題の時、ローンにはオルトAローンが多かった。「オルトAとは、信用実績は良好だが、収入証明書などの必要書類が不十分な借り手向けの住宅ローンであり、毎月の返済が金利だけであることが多い」(「波乱の時代 上」p339)と、ジャンボローンとオルトAには元本返済に猶予期間があるという共通点がある。後述する日本の企業倒産のように、新型コロナウイルスの疫病下の政策などで、富裕層の信用力も落ちていると考えられる。かつての日本にも平成4年から始まる「ゆとり返済制度」と呼ばれる、「返済5年目まではほぼ利息のみを支払う形で返済金額をおさえ、6年目以降から段階的に金利が上がっていくという制度」(東建コーポレーション(株)HP)があった。しかしその後の終身雇用と定期昇給という労働慣行の崩壊で、返済ができなくなるケースも多発した。

 

 また、シリコンバレー銀行の経営破たん時には、預金者の取り付けが発生したが、日本の取り付けについては、「元役員が見た長銀破綻―バブルから隘路、そして…」(箭内 昇著 文藝春秋)が当事者の書いたものなので臨場感がある。

 

 金融危機は、日本に無縁とは言えない。先月の終わりにユニゾHDが民事再生法の適用申請を行った。多くの銀行の債権は担保・引当金等により保全されているが、北國フィナンシャルHDや清水銀行のように、2023年3月期の業績に影響が出る可能性のある金融機関もある。『東京商工リサーチが10日発表した2022年度の全国倒産件数は前の年度比15%増の6880件と3年ぶりに増えた。新型コロナウイルス禍を受けた実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」の返済が本格化し、再建を断念するケースが増えた』(「22年度の倒産15%増 3年ぶり、ゼロゼロ返済で息切れ」 2023/4/10 日本経済新聞電子版)という。23年度には倒産が治まるかどうかは分からない。

 

 岸田首相がエジプトを訪問し、日本政府はエジプトの地下鉄に1000億円を上限とする円借款を供与することになった(『岸田首相、日本が建設ローン支援の「大エジプト博物館」視察…2か国目のガーナに到着』 2023/5/2 読売新聞朝刊)。BRICS加盟が有力視されるエジプトをG7側に囲い込むためのものだろう。岸元首相が関係した日本企業が(日韓の与党も)潤ったソウル地下鉄のヒモ付き借款の時代(投資家の目線733(元KCIA部長の書いた「権力と陰謀」))と異なり、日本はヒモ付き援助を減らしているため日本企業が受注できるとは限らない。岸田政権は外国ばかりに資金提供し、前述した企業倒産などの内政がお留守になっていないか?なお、日本ではフィリピンが中国寄りから米国寄りに変わったというイメージを与える報道が多いが、マルコス比大統領は米国が中国に対する「攻撃的行動」のために自国内の軍基地を利用することはできないと表明している(『比大統領「米国、中国攻撃にフィリピンの基地使えない」』 2023/5/5 中央日報)。日本のマスメディアは日本人をわざとミスリードしているように思う。

 

 パラグアイの大統領選は与党コロラド党のペニャ元財務相が、中華人民共和国との国交樹立を示唆していた野党統一候補を大差で破り当選し、中華民国(台湾)との国交が継続する見通しだ。しかし、農業国であるパラグアイは農業団体を中心に巨大市場中華人民共和国との国交樹立を求める声は根強い(「パラグアイ 中国と国交 根強い声 大統領選 農業団体が活動」 2023/5/2 読売新聞朝刊)。ペニャ氏は米コロンビア大で修士号を取得後、IMFのエコノミストだった。ハーバードケネディスクール卒業後、世界銀行に勤務していたモルドバのサンドゥ大統領と同様、ナオミ・クラインの「ショック・ドクトリン」に出てくる、いかにも米国製「新自由主義者」といった経歴の持ち主だ。

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