投資家の目線

投資家の目線462(スコットランドの歴史)

 「図説 スコットランドの歴史」(リチャード・キレーン著、岩井淳+井藤早織訳 彩流社)を読んだ。その中で気になったのは、1700年代後半から始まった「土地清掃」であった。
 

 スコットランド北西部の山岳地帯をハイランドという。それ以前のハイランドは氏族制であり、その土地所有制度では土地は氏族民と子孫のために氏族長に信託された共同財産と見なされていたが、氏族長を純然たる土地所有者として扱うように変化した。


 「土地清掃」は、土地の有効利用や穀物収穫の増大などといった資本主義的農業に関係する。ハイランドの「土地清早vでは、土地の有効利用促進のために土地から人々が追い出された。食料生産用の耕地として利用されていた渓谷「ストラス」は、最も収益性の高い農法である牧羊地帯に転換された。牧羊は大規模経営されるときだけ収益が上がるもので、人間の労働力をほとんど必要としない。そのため小作人は内陸部から沿岸部に移動させられた。小作人らの住居を焼き払ってまで追い立てるようなひどいケースもあったようだ。


 また「土地清掃」では、産業革命が始まり経済的に繁栄するローランド(スコットランド南部の比較的平坦な地帯)への人口移動も起こった。その他にも地主により支援された移住援助計画を利用して自発的に海外移住する人もいた(強制的に追い立てられた者も多数いた)。これら「土地清掃」によってハイランド内陸部の人口は減少し、昔からの共同体的な生活様式は破壊された。また、そのことによる民衆の最大の憤慨が向けられたのは、古くからの信託に背いたと見なされた、新型地主に転向したかつての氏族長に対してであった。


 日本でも、生産性向上のために農地の大規模化を促す意見がある。それはこの「土地清掃」の基礎にある資本主義的農業の考え方と同じだ。このスコットランドの例をみると、農地の大規模化は農村人口を減少させ、共同体的な生活様式を破壊するものになるだろう。また、農村から都市へ人口移動が起こった場合の都市政策についても考えておく必要があるだろう。都市へ移動するのは農村で食い詰めた貧困層である。

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