投資家の目線

投資家の目線875(G7各国の内乱)

 本日8日、G7首脳とウクライナのゼレンスキー大統領のオンライン会議が開催される。一方、G7各国の政治は動揺している。

 

 5月1日、メーデーのデモがフランス各地で行われた。「マクロン大統領に対して定年の引き上げ撤回や賃金引き上げを求めた。参加者の一部が暴徒化し、警官隊と衝突する事態となった」(「フランス、メーデーのデモに11万人 一部が暴徒化」 2022/5/2 日本経済新聞WEB版)という。英国の統一地方選では与党が敗北した。「首相官邸でのパーティー開催問題で批判を浴びたことや、最近の物価高騰が逆風となったもようだ」(「英与党の保守党、地方選敗北 ジョンソン政権に痛手」 2022/5/7 共同通信)とされる。欧米ではインフレで実質所得が減少している(「欧米高級品株が下落 物価高で実質所得減、節約志向に」 2022/5/2 日本経済新聞WEB版)。米国では、賃金上昇率がインフレに追いついていない。「労働省が6日発表した雇用統計によると、労働市場の逼迫(ひっぱく)を反映して4月の民間部門の平均時給は前年同月比5.5%増となった。伸びは5.6%増だった3月から若干鈍化した。これは3月の消費者物価指数(CPI)の前年同月比8.5%の伸びを大きく下回る」(「【焦点】米の賃金上昇、加速するインフレに追いつかず」 2022/5/7 ダウ・ジョーンズ配信)とされる。『ローレンス・サマーズ元米財務長官はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に対し、米経済が「軟着陸する確率は間違いなく低い」との見方を示し』(『サマーズ元米財務長官、軟着陸の「確率低い」』 2022/5/7 ダウ・ジョーンズ配信)ている。それに対して、民主党は議会スタッフの最低賃金を引き上げるなど(「ペロシ米下院議長、議会スタッフの最低賃金引き上げへ」 2022/5/7 ダウ・ジョーンズ配信)、身内の支持を固めることで生き残りを図ろうとしているように見える。

 

 米国では、1973年の判決を翻し、人工妊娠中絶を厳しく制限する連邦最高裁判決の草案がリークされ、それをめぐる対立が激しくなっている。これは生命があるのはどういう状態なのかという原則の問題であり、生命の誕生や死をどの時点におくかという問題に関わる。胎内であっても心拍が確認できれば生命が宿っていると考えるのならば、(出産されるはずのものも含めて)意思疎通出来ない子どもの権利をどうするのかという観点も必要になってくる。最近では、米国のある州で、妊娠のどの時点でも中絶と行動の失敗によって引き起こされる周産期の死亡(妊娠22週目から生後最初の28日間まで)に対する調査と法的な罰則を妨げるような法案まで提出されている(”Maryland Bill Effectively Decriminalizes Neglecting Newborns to Death” By WESLEY J. SMITH 2022/3/5 National Review)。生命誕生に関する絶対基準がないと、このままでは罰則を受けない「親による子殺し」の際限がなくなる。

 

 これで、中間選挙で民主党が壊滅的な敗北をきす可能性は減るのかもしれないが、生活苦と合わせて、米国内でも内乱が発生するのではないだろうか?米国連邦政府はインフレ対策として、対中関税を引き下げることも視野に入れている(「米、対中関税見直し開始 高インフレ対策で引き下げ論も」 2022/5/4 日本経済新聞)。ところが、中国は新型コロナウイルスの感染拡大防止対策で広範囲にわたって都市封鎖が行われ、物流が滞っている(「上海、都市封鎖で待機船最大120隻 コンテナ正常化遠く」 2022/5/6 日本経済新聞WEB版)。中国から素材が来ず、ベトナムの衣料や靴工場が注文にこたえられなくなっている(“Vietnam Apparel Plants Struggle as China Lockdowns Hit Supplies” 2022/5/6 Bloomberg)。中国製品が手に入らなくなったからと言って、他に代替先を求めることは困難だ。

 

 ロシアからの人口流出(「ロシア、388万人が国外流出 反プーチン・生活苦…わずか3カ月で」 2022/5/6 朝日新聞デジタル)など、日本ではロシアの苦境を報じる記事が多いが、G7の方が苦境に立っているのではないだろうか?ロシアは、必要なものは第三国経由で輸入することで経済制裁を逃れることができる(「ロシア、アップル製品・高級車など第三国経由の輸入許可」 2022/5/7 ダウ・ジョーンズ配信)。

 

 「ウクライナに侵攻するロシアを名指し批判するのは避けつつ停戦や人道支援の必要性の認識を共有した」(「対ロ認識、東南アジアと共有 国際世論の形成支援 2022/5/3 日本経済新聞WEB版」と、岸田首相は今回の東南アジア訪問でロシアを批判する国際世論を形成することに失敗した。但し、ダボス会議がロシア関係者を参加させないなど(「ダボス会議、ロシア関係者の参加認めず」 2022/5/2 日本経済新聞WEB版)、世界経済フォーラムの動きは停戦を促すかもしれない。先月の終わりに、同フォーラムの創設者のクラウス・シュワブ氏が日韓を訪問していた。

 

追記:

2022/5/9

↓英国に続いて、ドイツの地方選でも与党が敗北した。

ドイツ北部地方選、ショルツ与党が敗北 政権に打撃:2022/5/9  日本経済新聞WEB版

 

2022/8/27

人工中絶の制限については、次のような根拠が示されている。『その根拠は聖書の解釈にある。聖書の中には、母体の中に新たな命が宿った、つまり妊娠した瞬間から、「母親は子供と共にある」という言説が多く用いられている。彼らの解釈では、妊娠したその時から、胎児は創造主である神によって生を受けた人間であり、その命を絶つ中絶は殺人、神に背く行為ということになる』(「これこそ「宗教と政治」の最悪の事例…日本では合法の「中絶手術」がアメリカで違法になった根本原因」 2022/8/24 プレジデントオンライン)。

ビル・クリントン元米国大統領の回想録「マイライフ クリントンの回想 アメリカンドリーム 上巻」(楡井浩一訳 朝日新聞社 p382)には、妊娠中絶に関する記述がある。「一九七五年のわたしは、妊娠中絶の政治学についてあまり知らなかったし、気にもかけていなかった。興味があったのは、法についての、そして倫理性や生命をめぐっての相反する信念に折り合いをつけようとする最高裁判所の超人的な努力に対してだった。神の心を知る手立てがない状態で、最高裁判所はほとんどこれ以上望めない優秀な成績をあげているというのが、私の見かただった」。

米国市民は大多数がキリスト教徒。妊娠中絶を制限する連邦最高裁判所の判決は、神の教えから導かれる倫理観に基づくものと言える。

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