投資家の目線

投資家の目線919(BRICS 動く)

 BRICSは、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカで構成されている。昨年、アルゼンチンとイラン、アルジェリアが加盟申請し(アルジェリア、BRICSへの加盟を申請(アルジェリア) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース – 2022/11/18 ジェトロ)、サウジアラビア、エジプト、トルコが加盟する可能性がある(「BRICSの代表が発表 フォーラムの今後の拡大について」 2022/7/14 SPUTNIK)。

 

 3月10日、サウジアラビアとイランは中国の仲介で7年ぶりに外交関係を正常化させた。この合意に米国は介在していない。両国の関係改善についてUAE、イラク、オマーン、エジプトだけでなく、アラブ有志連合と対立するイエメンのフーシ派やレバノンのヒズボラも歓迎している(「イランとサウジアラビアが正常化、アラブ諸国は歓迎」 2023/3/11 日本経済新聞電子版)。これで中国の国際社会における株が上がったのは間違いないだろう。米国はサウジアラビアとイスラエルの外交関係正常化に努めていた。「背景には、核開発とウクライナに侵攻したロシアへの軍事支援を続けるイランとの対立が先鋭化していることがある」(「サウジ、米に核支援など要請 イスラエルとの正常化巡り」 2023/3/10 ダウ・ジョーンズ配信)が、米国は中国に先手を打たれた感じだ。ロシア帝国終盤、オデッサ(ウクライナ)とウラジオストクの間を義勇艦隊が結んでいた(投資家の目線522(ウラジオストクの自由港化))。寄港地はコンスタンティノープル(現イスタンブール、トルコ)、ポートサイド(エジプト)、アデン(イエメン)、シンガポール、長崎、帰りは漢口(武漢市)もしくは上海(草創期のロシア義勇艦隊:一八七八―一八八八年 左近幸村)。寄港地には2010年代に入って政変やクーデター未遂、内戦が発生した国が多くある。トルコが5月の選挙でエルドアン大統領が選挙を制すれば、中東はさらに安定するのではないだろうか?

 

 「UAEへのロシア産原油の輸送が増加したことが、船舶追跡データや取引関係者の話で分かった。欧米の対ロシア制裁を受け、従来のエネルギー貿易の流れが変化すると同時に、ロシアと湾岸産油国の協力関係が深化していることが浮き彫りになった」(「ロシア産原油、UAEへの輸送増加 湾岸産油国と関係深化」 2023/3/6 ロイター)と報じられている。UAEにはOPEC脱退検討の報道もあったが、ロシアとの関係が弱まるとは考えづらい。

 

 アフリカではフランスの影響力低下が著しい(『マクロン大統領、アフリカ政策を転換 「フランスの影響圏終わった」』 2023/3/3 日本経済新聞電子版)。フランスの植民地だったアルジェリアの将軍は、UAEの兵器見本市IDEXでロシア企業のブースを訪れていた(”Arms dealers and manufacturers benefit from Russia’s war on Ukraine By NABIH BULOS” LOS ANGELES TIMES March 3, 2023 Stars&Stipes)。ウクライナの除外の呼びかけにもかかわらず、アフリカ・オリンピック委員会連合はロシアとベラルーシ選手の中立的立場でのパリ五輪参加を支持している(「ロシアの五輪参加を支持 アフリカ五輪委連合が決議」 2023/3/5 日本経済新聞電子版)。南アフリカの中ロとの合同軍事演習といい、アフリカではフランスだけでなく西側諸国の影響力が低下しているようだ。

 

 ロシアのイワノフ外務次官は『「インドに加え、アンゴラやベトナム、インドネシア、シリア、フィリピンとの間で(手続きの簡略化が)進められている」と述べた。タス通信によると、同氏はこれに先立ち、サウジアラビアやバルバドス、ハイチ、ザンビア、クウェート、マレーシア、メキシコ、トリニダードなど11カ国とのビザなし渡航に関する政府間協定を準備しているとも述べていた』(「ロシア、インドなど6カ国のビザ手続き簡素化へ=タス通信」 2023/3/6 ロイター)。アジア、アフリカ、中南米の国にはロシアと関係強化する国が多いと言える。アンゴラの大統領が訪日するが、岸田首相にアンゴラをロシアから引きはがす能力など期待はできないだろう。

 

 アルゼンチンの外相は、3月2日のG20外相会合で訪れたインドで英国の外相と会談し、英領フォークランド(マルビナス)諸島の領有権交渉の再開を要請した(「英領フォークランド、アルゼンチンが英国に領有権交渉の再開提案」 2023/3/4 毎日新聞)。現在の英国はウクライナへの武器支援に追われ、さらにキャピタル・エコノミクス社のように高いインフレ率、金利や失業率の上昇により、2023年のGDP成長率がコンセンサス予想マイナス0.8%より深刻なマイナス1.3%の景気後退を予想するところもある(「【市場の声】英経済、予想以上に深刻な景気後退も 金利上昇・インフレ加速で」 2023/3/9 ダウ・ジョーンズ配信)。武器がウクライナへ供出され経済も不振の英国には、1982年とは違う結果が待ち受ける可能性もある。

 

 3月3日、ニューデリーでロシアのラブロフ外相が『ウクライナ侵攻について「ウクライナ人を利用して、われわれは戦争を仕掛けられた」と発言すると、聴衆からはあざけるような笑い声が聞こえた』(『ウクライナ侵攻、ロシアは「戦争を仕掛けられた」 外相発言に聴衆失笑』 2023/3/6 ロイター)という。しかし、ロシア外相への拍手が米国へのそれより大きかったなど、ウクライナでの戦闘に関して西側諸国は残りの世界に対する発言力を失っているとも伝えられている(The West Is Losing the Messaging War Over Ukraine 2023/3/7 Bloomberg Opinion  Mihir Sharma)。

 

 インドの外相は、『インドという国をどう運営するかは有権者が決めるとした上で、「われわれは懸念している。わが国は植民地主義を経験しており、外部からの干渉があった場合に何が起こるかという危険性を知っている」と述べた』(『インド外相「ソロス氏は危険」、民主主義巡る首相批判に反論』 2023/2/18 ロイター)。1767年から99年まで4回おこなわれたアングロ・マイソール戦争では、マラーター、ニザーム、トラヴァンコールなどは英国に荷担したことなど(「南アジア史 新版世界各国史7」 辛島昇編 山川出版社p280)、植民地時代のように外国からの干渉があった場合にはインド内部に外国に与する勢力が出現することについて、モディ政権は織り込み済みだということなのだろう。オーストラリアは通商や安全保障で連携を協議したり(『インドとオーストラリア、通商・安保で連携強化 首脳会談』 2023/3/10 日本経済新聞電子版)、米国は半導体分野の協力を申し出たり(「米国とインド、半導体で協力覚書 供給網・研究開発で」 2023/3/11 日本経済新聞電子版)と、インドを懐柔しようと懸命になっている。インドの中にも『ニューデリーの国際関係シンクタンク、オブザーバー・リサーチ・ファンデーションのバイスプレジデント、ハーシュ・パント氏によると、インドの指導者たちは長年、米国の覇権を警戒して非同盟の立場を貫いてきた。(中略)パント氏は「モディ首相がそのような考え方を完全に変えた」と指摘する。「モディ氏は非同盟という重荷を背負っていない」』(「【コラム】中立から西側に傾くインド その背景は」 2023/3/7 ダウ・ジョーンズ配信)、ピユシュ・ゴヤル商工相は『米印関係が「平和と成長を支える地政学的に非常に重要な拠り所」になるとみている』(同記事)という意見もあるが、あまりその意見に引きずられない方が賢明だろう。

 

 2018年に米国防総省が行った南シナ海地域に関する極秘の机上演習で、米軍が中東の反政府勢力などとの戦いに集中し、大国間戦争に対する準備不足により中国に敗北するのを目の当たりにした空軍のクリント・ハイノート中将は、『中国の攻撃を「鈍らせる方法には目星がついた」と言う。「ただ、そのためには米軍の戦力を一から作り直す必要がある」』(「【焦点】大国衝突の時代、米軍は準備不足」 2023/3/9 ダウ・ジョーンズ配信)と語ったという。米国以外の国の兵器も進化する。米軍の戦力を一から作り直すにはどれくらいの期間を要するのだろうか?

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最近の「政治」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事