菅首相の長男から高額接待を受けた内閣広報官に始まり、農林水産省、総務省の官僚に対する高額接待が問題になっている。日本は2006年に公務員に係る贈収賄を防止する「腐敗の防止に関する国際連合条約」を締結している。
外務省ホームページ「腐敗防止」によれば、条約のポイントは次の通りである。
引用開始
この条約は,腐敗行為を防止し,及びこれと戦うため,公務員に係る贈収賄,公務員による財産の横領等一定の行為の犯罪化,犯罪収益の没収,財産の返還等に関する国際協力等につき規定しています。具体的な条約のポイントは以下の通りです。
• (ア)腐敗行為の防止のため,公的部門(公務員の採用等に関する制度,公務員の行動規範,公的調達制度等)及び民間部門(会計・監査基準,法人の設立基準等)において透明性を高める等の措置をとる。また,腐敗行為により不正に得られた犯罪収益の資金洗浄を防止するための措置をとる。
• (イ)自国の公務員に係る贈収賄,外国公務員及び公的国際機関の職員に対する贈賄,公務員による財産の横領及び犯罪収益の洗浄等並びに,これらの犯罪に関する手続における証人買収等の司法妨害行為を犯罪とする。
• (ウ)腐敗行為に係る犯罪の効果的な捜査・訴追等のため,犯罪人引渡し,捜査共助,司法共助等につき締約国間で国際協力を行う。
• (エ)腐敗行為により不正に得られた犯罪収益の没収のため,締約国間で協力を行い,公的資金の横領等一定の場合には,他の締約国からの要請により自国で没収した財産を当該他の締約国へ返還する。
引用終了
菅首相は昨年11月のAPECでTPP拡大を目指すと主張しているが、TPPにも「透明性及び腐敗行為の防止の条項」(「環太平洋パートナーシップ協定の概要(暫定版)(仮訳)」)がある。日本政府がTPP拡大を推進するのなら、公務員への高額接待を犯罪として扱い、協定を遵守するのは当然だろう。一般に、経済連携協定に罰則規定は盛り込まれないが、協定を破れば他の加盟国の国内法に則り報復を受ける可能性は高いだろう。
2019年には、スイスの資産運用会社で贈答品に関する社内規定違反が見つかり、過去3年間に受けたコーヒーや朝食、昼食、ディナーなどのもてなしの記録が調査された(『セールスに「そのランチの支払いは誰が」とGAM-ギフトも確認指示』 2019/3/7 Bloomberg)。西欧社会の感覚からすれば、日本の官僚への接待は相当高いものだろう。先日もコープこうべの組合長らが接待に関する内部規定違反で解職され(「コープこうべ組合長ら解職 ゴルフ接待30回ずつ受け」 2021/3/7 日本経済新聞WEB版)、日本でも倫理規定違反に対する目が厳しくなっている。公務員に対しても同様の処置が必要だ。
3月1日には、息子がスニーカーの転売ビジネスを展開したことが報道されたことを受け、スニーカーも販売する米国企業ナイキのアン・ヘバート北米地区副社長が辞任した。『ナイキはブルームバーグの取材に対し「(問題となっている転売会社と)ナイキとは直接売買など商業的な提携はなく、利益相反はない」と回答したという。』(「ナイキの北米副社長が辞任 息子のスニーカー転売に関与」 2021/3/3 日本経済新聞WEB版)が、同記事では「スニーカーの購入に母親のヘバート氏名義のビジネス向けクレジットカードを使っていた」とされ、ナイキにとってスニーカーの転売は関連が深く、利益相反が疑われても仕方がない。
日本には日本の商慣習があるとの反論もあろうが、独自の商慣習は非関税障壁だと抗議を受けるだけだろう。TPPの目的には非関税障壁の撤廃及び削減もある(「環太平洋パートナーシップ協定の概要(暫定版)(仮訳)」)。日本政府がTPPを推進するつもりなら、接待は禁止すべきだ。ついでに言えば、接待でしか情報収集ができないようでは、労働生産性など上がらないだろうに…。
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