2月21日に書いたユニゾホールディングス(ユニゾHD)の社債の件(投資家の目線812(社債保有者のユニゾHDへの質問状) )についてさらに調べてみた。
「ユニゾは昨年、従業員と米PE企業・ローンスターが設立したチトセア投資によるTOB(株式公開買い付け)を通じて非公開化。ユニゾはその直後、新たなオーナーになったチトセアに対し、ローンスターに返済する資金を融資していた。(中略)当初の開示文書によると、チトセア投信の従業員にはローンスターとの関係を維持するか、6カ月以内に同社に資金を返済するかの選択肢が与えられていた。(中略)ノムラのアナリストによると、ユニゾは昨年4―9月期に1440億円相当の不動産を売却し、ローンスターへの返済資金としてチトセアに20億ドル以上を融資。日本の格付け会社は昨年12月、ユニゾの格付けをジャンク級(投機級)に引き下げた。チトセアの債務返済能力は、ユニゾから配当をさらに受け取れるかどうかにかかっている。」(「コラム:ユニゾ買収の行く末、PEに対する信頼感に影響も」 2021/3/2 ロイター)という。
「一部従業員と米国の投資会社ローン・スターが設立した(株)チトセア投資(TSR企業コード: 133135950)が2020年4月2日、1株6000円でEBOする結果となった。この時の公開買付説明書では、買付代金はローン・スターグループからの借入金1510億円、優先株引受550億円の合計2060億円と記載されている。」(『「社債償還」が注目されるユニゾホールディングス』 2021/2/18 東京商工リサーチ)。ユニゾHDの買収総額は2050億円と報じられたので(「ユニゾHD争奪戦、従業員側のEBO成立で幕-総額2050億円」 2020/4/3 Bloomberg)、従業員側には資金がほとんどなく、EBOに必要な資金はローンスターから出してもらったものと推測される。チトセアはユニゾHDのEBOのために設立されたので、ユニゾHDからの配当ぐらいしか収益源が思いつかない。「ARCMは最初の書簡で、チトセア投資向けの短期借入金の返済能力の有無について説明を要請したが、今回の書簡で、ユニゾの代理人弁護士と面談し、ユニゾのキャッシュ・フローを原資に配当することが可能との回答があったと明記した。」(「ユニゾに対し資産売却の凍結などを要請″″`のファンド」 2021/2/25 Bloomberg、ARCMはユニゾHDの社債保有者)と、ユニゾの代理人弁護士の回答もチトセア投資の短期借入金の返済能力はユニゾから得られるキャッシュ・フロー(つまりは配当)によるという。チトセアに対する融資は、配当の前払いと見做しても差し支えないと思う。しかし、ユニゾ八重洲ビルのような優良資産を売却した後で、ユニゾHDはチトセアへの貸付金に見合う配当金をねん出するのに何年かかるのだろう?メインバンクの融資が返済された現在、事業再建の主導権を握るような債権者も見当たらない。
耐震偽装事件の最中、イーホームズの藤田社長が逮捕されたのは、同社の増資時における「見せ金」容疑である(次の通り、耐震偽装事件に関してイーホームズの過失は否定されているようだ。『河野裁判長はイーホームズについて「マンションの設計図中に明らかな偽装の疑いはなかった」と過失を否定。』「耐震偽装マンション、住人の賠償請求棄却 東京地裁」 2011/5/25 日本経済新聞))。
見せ金とは、『株式会社の発起人が第三者より株式払込みの資金を借り入れ、それを払い込んで会社を成立させたのちに、払い戻した会社資金を発起人個人の借入金の返済にあてることをいう。すなわち、このような一連の行為が仮装の株式払込みの方法としてなされている場合が、見せ金として問題になる。預合(あずけあい)に近い見せ金としては、払込取扱機関たる銀行から発起人が払込資金を借り入れ、会社成立後、払込金を引き戻し、発起人が自己の債務の弁済として払込取扱銀行に返済する場合がある。このような仮装の株式払込みは無効とされるのである。』(出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ) コトバンク)とされる。
イーホームズの「見せ金」事件の内容は、『藤田容疑者は増資の4日後、資本から2400万円を引き出し、岸本容疑者に返済。同時に、当時社長を兼任していた造園会社に2400万円を融資する形を取って、架空増資を隠蔽(いんぺい)しようとしたとみられている。逮捕前、架空増資の疑惑について「見せ金には当たらないと考えている。造園会社に貸し付けたが、返還が確実に見込める相手先で、資本へ充当されない恐れはなかった」と反論していた。』(『「見せ金増資」イーホームズの藤田社長、容疑認める』 2006/4/30 asahi.com)となっている。新たに発行する株式に出資するために借入れた資金を、短期間で貸主に返済したことが「見せ金」と認識されたようだ。
ユニゾHD社債保有者の『質問状によるとチトセア投資は「貸付金を返済する手段を有していない」ため「貸付金は無価値であると判断した」』(『ユニゾ 財務で質問状 香港ファンド 「優先返済で悪化」』 2021/2/11 日本経済新聞朝刊)。新型コロナウイルス感染拡大で計画が狂ったのかもしれないが、結果的にはチトセアへの出資金が短期間で資金の出し手のローンスターに戻されたことになる。ユニゾHDの第44期半期報告書を見ると、2020年7月から9月まで毎月臨時株主総会が開かれ、8月3日には2億円、8月末には148億円、9月末には381億円という多額の配当が支払われている。このように短期間に多額の配当が支払われる場合には少なくとも債権者に総会前に予め情報開示をすべきだと思うが、ユニゾHDどうしていたのだろう?ユニゾHDの問題は、投資ファンドの資金回収のあり方についても問題を投げかけると考えられる。
追記(2021/4/6):3月24日、山形市社会福祉協議会(山形市の外郭団体)は、ユニゾホールディングス社債で7400万円の損失が発生し、鞠子克己会長が責任をとって4月末で辞任すると発表した。(「ユニゾ社債で7400万円の損失、会長辞任 山形市社協」 2021/3/24 日本経済新聞WEB版)
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