投資家の目線

投資家の目線814(ゴルバチョフ回顧録に見るチェルノブイリ原発事故)

 東日本大震災と、それに伴う福島第一原子力発電所の事故からもうすぐ10年がたつ。2月13日にも、福島県沖を震源とする地震があったばかりだ。

 「ゴルバチョフ回顧録 上巻」(ミハイル・ゴルバチョフ著 工藤精一郎・鈴木康雄訳 新潮社 p380)には、ソヴィエト連邦時代のチェルノブイリ原子力発電所の事故に関する記述がある。『政治家ばかりか、学者や専門家たちまでも事故への適切な対応の準備ができていなかったのだ。極度に否定的な形をとって現れたのが、所轄官庁の縄張り主義と科学の独占主義にしめつけられた原子力部門の閉鎖性と秘密性だった。私はこのことについて一九八六年七月三日の政治局会議で言った。「われわれは三十年間あなたたち、つまり学者、専門家、大臣から原発はすべて安全だと聞かされてきた。あなたたちも神のごとく見てほしいというわけだ。ところがこの惨事です。所轄省庁と多くの科学センターは監督外におかれていたのです。全システムを支配していたのは、ごますり、へつらい、セクト主義と異分子への圧迫、見せびらかし、指導者を取巻く個人的、派閥的関係の精神です」(中略)ワレリー・レガソフ・アカデミー会員は、核事故の確率はきわめて低いものと考えられ、世界の科学と技術はあまりその対策を準備していなかったと語った。自己安堵、それに軽率とさえいえる態度、これが支配的だった。事故の直後に政治局会議で行なったアカデミー会員アレクサンドル・アレクサンドロフとエフゲニー・スラフスキーの発言が今でも忘れられない。二人はわが国の原子エネルギー生産の先駆者で、この技術の開発者としての栄誉をになっている学者だった。ところがわれわれが彼らの口から聞かされたのは、むしろ世俗的な判断に近いものだった。恐ろしいことは何も起っていません。こんなことは工業用原子炉にはよくあることです。ウォトカを一、二杯飲み、ザクースカをつまんで一眠りすれば、それで終りですよ。』

 ソ連は黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉、福島第一原子力発電所は沸騰水型原子炉と技術は異なるものの、日本はチェルノブイリ事故の教訓を全く活かしていなかったのではないだろうか?添田孝史著「東電原発事故 10年で明らかになったこと」(平凡社新書)を読むと、福島第一原発事故に関しても東京電力や日本政府は少なくとも津波や大規模避難、オフサイトセンターの被爆対策に関する準備がいかにできていなかったかがわかる。五重の壁で放射性物質を閉じ込めると安全性をうたったが、爆発が起こり放射性物質を閉じ込めることはできなかった。「ごますり、へつらい、セクト主義と異分子への圧迫、見せびらかし、指導者を取り巻く個人的、派閥的関係の精神」は、御用学者に通じる。「恐ろしいことは何も起こっていません。こんなことは工業用原子炉にはよくあることです。」と発言したアカデミー会員は、水素爆発はないと言った原子力安全委員長、「春雨じゃ、濡れてまいろう」とtweetした物理学者、「放射線の影響は、実はニコニコ笑っている人には来ません。クヨクヨしている人に来ます」と講演で語った医学者を思い起こさせる。

 東京電力が福島第1原子力発電所3号機に設置した地震計が故障しているのを知りながら放置したため、13日夜の地震のデータが取得できていなかったという(「東電、福島第1の地震計の故障を放置 データ取れず」 2021/2/22 日本経済新聞WEB版)。このようないい加減な作業しかしない企業に、原子力発電所を扱う資格があるのだろうか?

 福島第一原発事故のとき、最も頼りにしたのは米軍向けの放送局American Forces Network(AFN)だった。何度も核実験を行い、広島や長崎の原子爆弾による傷害の調査研究も行った米国の方が、核被害に関する情報に関して日本よりも優位性を持っていると考えられたからである。生物・化学兵器の実験資料提供の代わりに731部隊員を戦犯から外す(『「李青天まで生体実験」…日本の蛮行資料示し、米国立衛生研究所を5年間毎週説得』 2020年1月16日 朝鮮日報)ぐらい、米国は感染症研究にも熱心だ。AFNからの情報は、新型コロナウイルスについても有益だろう。
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