投資家の目線

投資家の目線728(米中間は新冷戦時代ではない)

 2019年6月29日のRecord Chinaの記事「トランプ大統領の貿易戦争、次のターゲットはどこ?―米メディア」に、対米貿易摩擦の次のターゲットとしてベトナムが挙げられていた。その記事は次のように伝える。

引用開始
『2019年6月28日、トランプ米大統領が仕掛ける貿易戦争をめぐり、米ラジオ局ボイス・オブ・アメリカ中国語版サイトは「ベトナムが次のターゲットになるだろう」と指摘する記事を掲載した。

記事によると、トランプ大統領は米メディアの26日の取材でベトナムを痛烈に批判。「多くの企業がベトナムに移転しているが、ベトナムの米国利用は中国よりひどい」と述べ、ベトナムに関税を課したいと思うかとの質問に対しても「ノー」とは答えなかったそうだ。』
引用終了

 この記事の後半では、経済評論家の、関税回避のため中国企業が米国向け製品をベトナムに送る「迂回輸出」の可能性の問題にも言及されている。しかし、2019年7月5日の日本経済新聞朝刊には「東南ア、対米輸出増、中国の代替拠点で受注。」という記事もあり、実際に米国向け製品の生産拠点が中国以外の東南アジア等に移転しているのだろう。本日7月7日付の記事「ベトナム移管、需要つかむ、米中貿易戦争で変わる生産拠点、住商、物流最適化に商機、丸紅、段ボール工場建設。」(日本経済新聞朝刊)もそれを示している。

 日本経済新聞は『米関税で世界貿易急変、対米輸出、中国から生産移る、「迂回」で産地偽装も(チャートは語る)』(2019/6/1 日本経済新聞 朝刊)などと米中貿易戦争を煽り、あたかも米中が新冷戦時代にあるように報じるが、インドを一般特恵関税制度の対象から外したように、米国は単に各国間で貿易収支の均衡を目指しているだけだろう。ジョセフ・ナイ米ハーバード大学特別功労教授でさえ、『緊張が高まる米中関係について「いわゆる冷戦構造という考え方はまちがっている」と訴えた。』(『ナイ氏「米中冷戦は誤り」 日経・CSISシンポ:日本経済新聞』 2018/10/26 日本経済新聞 電子版)という。

 「新冷戦」構造は、日米安保で食べている人や対米輸出が主流の企業にとって都合がいいのだろう。安保族は趣資ヨえしなくても生活の糧が得られるし、輸出企業は日本が米国に特別扱いされることを期待し、新市場開拓に労力を割くこともない。

 もう対米輸出で稼げる時代ではない。農業や地場産業で食べていける仕組みを作った方がよい。自営業者の相続をやりやすくするような制度改革を行ってもよいだろう。親子・親族間の相続であれば、生まれ育った地域コミュニティに溶け込みやすいと考えられるからだ。都市住民にもメリットがある。人口が増えなければ新たな公共施設を作る必要性も軽減するし、大規模災害時の被害のリスクも低減される。そもそも地方経済が衰退すれば、日本経済のハブである東京も衰退するのだから。


追記:韓米FTAの発効以来、韓国の米国からの農産物輸入金額が減少したと報じられていた。牛肉輸入は増えたが、飼料用農産物であるトウモロコシの輸入が激減したという(『韓米FTA発効5年:大騒ぎした「あの話」は全てデマだった』 2017年3月14日 朝鮮日報)。農産物輸入を自由化しても畜産業の経営を苦しくするだけで、貿易収支の均衡に役に立つかはわからない。

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