この曲「ホールドオン、ホールドアウト」は、ジャクソンブラウンの「ホールドアウト」というアルバムの最後に入っていた曲であり、大作である。
このアルバムを初めて聴いたのは、学生時代の友人A君の家だった。
A君とは互いに互いの家に泊まり合い、よく飲んでいた。その日は、私が彼の家に出向いたのだった。
A君は私にとって音楽仲間で、自作曲を作ったり、作った曲を多重録音している・・という共通点があり、音楽談義はよく盛り上がったもんだった。
で、彼の家に行き、彼の部屋に入り、酒を飲み始めれば、BGMは欠かせない。
彼は私に聞かせたいアルバムを次々に流した。まあ、これはお互いさまで、彼が私の家に来た時には、私が彼に聞かせたいアルバムを次々に流したもんだった。
当然、私が彼の家に行けば、彼が私に聞かせたいアルバムを流す・・というわけだ。
彼は色々なアルバムを聞かせてくれたが、その中で当時の彼が特に熱く紹介してくれたのが、このジャクソン・ブラウンの「ホールドアウト」というアルバムだった。
ジャクソン・ブラウンは元々私は好きだったし、何枚かアルバムも自分で持っていた。例えば「レイト・フォー・ザ・スカイ」「孤独なランナー」などのアルバムは私は大好きだった。
だが、「ホールドアウト」は私は持ってなかった。
なので、どれどれ・・という感じで興味を持って聴き始めた。
うんうん、いかにもジャクソン・ブラウンだなあ・・・と、ジャクソン節のメロディの楽曲群が次々に流れる。
歌い方も声質も、そして節回しもジャクソンそのもの。
アルバムは順調に進んでいき、さてあとはラストの曲を残すのみになった。
と、そこでA君の口調がそれまで以上に熱くなった。
彼曰く、それまでのジャクソンは歌詞に「I LOVE YOU」という言葉を入れない人だったんだが、だがこのラスト曲では初めて歌詞の中に「I LOVE YOU」という言葉を使ったんだよ!・・と熱く語った。
ようし、ならば今まで以上にじっくり聴こうと私は思った。全身で味わうように私はその曲を聴き始めた。
曲は、ピアノから始まり、ほどなくリズムが入ってきて、疾走感のある心地よいテンポで始まっていった。ぐいぐい引き込まれてゆくアレンジだった。ここだけで、聴いてて高揚してきた。
疾走感のある曲は私は元々大好きなのだ。例えばブルース・スプリングスティーンの「ボーン・トゥ・ラン」がそうであるように。
ジャクソンのそのラスト曲は疾走感を持って進んでいったかと思うと、少しスローダウンをし、また走りだす・・・そんなメリハリの効いたアレンジで進んで行った。
そして終盤でサウンドが,一際静かになった。
そこで、ジャクソンの歌は、メロディからセリフに代わった。
で、そのセリフの中で・・・問題の「I LOVE YOU」という言葉が・・出てきた! ここか!
しかも、その言い方が、少しためらいがちで、一瞬言葉に詰まった後で、ジャクソンは「I LOVE YOU」と言ったのだった。
思えば、世の中には無数の歌が昔からあふれてきた。そして多くの歌の中に「I LOVE YOU」という言葉が歌われてきた。
中には「I LOVE YOU」という言葉が安売りされているような使われ方をしている曲もあった。
無数のソングライターが、何度も「I LOVE YOU」という言葉を歌詞の中に使ってきたのだ。頻度が極めて高いフレーズだ。
だが・・・それまで多数の歌を作りながら、その言葉を歌詞の中に入れて来なかったジャクソンには、それだけ「I LOVE YOU」は大事な言葉だったのだろう。だから安易に歌詞の中に入れなかったのだろう。
「i love you」という言葉(歌詞)が、こんなに響いてくる歌、そうそうあるもんじゃない。
この歌、「ホールドオン、ホールドアウト」。
このアルバムには、アルバムタイトル曲の「ホールドオン」という曲も入っているが、ここで取り上げている「ホールドオン、ホールドアウト」は「ホールドオン」とは別の曲である。
「I LOVE YOU」が出てくるセリフの後、この曲「ホールドオン、ホールドアウト」は再び疾走感を取り戻して走りだす。
そして、疾走感を取り戻した刹那、ジャクソンが万感の思いをこめたように、ハイトーンでハイテンションで「HOLD ON~~!」と歌う。
そして、バックコーラスが折り重なるように交差する。
この瞬間だ、私が鳥肌がたったのは。もう、感動の展開だ。涙が出そうになった。
テンポやリズムもいいし、メロディもいいし、鍵盤のフレーズなど最高に好きだ。
そして、全体のアレンジが非常に劇的。
だが、なによりジャクソンのボーカルが胸に迫り、心に突き刺さってきた。
私はこの歌に揺さぶられたのだ。この「ホールドオン ホールドアウト」という大作、名曲に。
この瞬間、この歌は私の心の中に不滅の曲として刻み込まれた。
後で知ったことだが、この曲は、自殺した前妻への思いを歌った曲だという。
ジャクソンとしても、特別な意味合いを込めた曲だったのだろう。
昔、ブルース・スプリングスティーンの「ジャングルランド」や、イーグルスの「ラスト・リゾート」などの大作曲を初めて聴いた時に感じた圧倒的な感動を、この曲には感じた。
この曲が収めらたアルバム「ホールドオン」は全米で一位を獲得した。
だが、案外このアルバム自体は、ジャクソンのファンの間では賛否両論あるという。
決して最高傑作とはみなしていないファンは多いらしい。
それは、当時の流行のディスコの要素をとりいれた曲があったかららしい。なんでジャクソンともあろう者が、流行りのディスコ系に手を出さねばならないのだ・・という思いがあったからだろう。
だが・・・
ファンにとってのどんな不満点がこのアルバムにあったとしても、この「ホールドオン、ホールドアウト」という曲の素晴らしさは圧倒的だし、この曲が収録されているというだけでも、このアルバム「ホールドオン」は意味がある。私は、そう思っている。
今も。
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