これまでに私は、このブログで「つぶやき岩の秘密」という作品を何度か取りあげてきている。
覚えている範囲では、そのうち1回は、石川セリさんが歌った、ドラマ版の主題歌「遠い海の記憶」であり、もう1回は新田次郎さんの原作小説「つぶやき岩の秘密」に関するネタであった。
で、今回私は再びこの作品を取りあげることにする。今回は、ズバリ「つぶやき岩の秘密」の舞台となった場所である。
ドラマ版も小説版も、この作品の舞台は三浦半島である。
内容を御存じの方ならおわかりかとも思うが、この作品の舞台は三浦半島でなければ成立しない。それほど、三浦半島の、とあるエリアが作品に大きな意味を意味を持っている。また、主人公の少年は、かつて三浦半島で居を構えていた武将「三浦義澄」の末裔であるという設定もあるから、なおさら。
ドラマ版「つぶやき岩の秘密」は1973年の7月に、NHKの少年ドラマシリーズの1作品として放送された作品。
リアルタイムで私は見たわけではなかったが、その後何十年もあとにこの作品がDVDで復刻された時に私はそれを購入し、鑑賞。
そして、その面白さに魅せられたわけである。
NHKの少年ドラマは大半はスタジオセットでの収録だったのだが、この作品は全編屋外ロケであり、そのせいか、画面に出てくる風景は印象に残るし、他の少年ドラマよりも風景に広がりがあった。
このドラマに出てくる風景の中で特に私が印象に残っているのが、少年が船をこぎ出す「入り江」。
そして少年が船で入っていった「つぶやき岩」の洞窟。
さらに、少年が閉じ込められた地下要塞。
白ひげさんの白い家。
だだっ広い畑。
神社。
などなど。
特に「入り江」は極めて印象的で、この入り江はこのドラマの象徴的風景である・・という解釈もネット上では目にした。
先日、私は「つぶやき岩の秘密」の舞台となった場所を巡って来た。
「つぶやき岩の秘密」のロケ地を旅行するにあたり、色々ルートは考えたが、まず一番最初に行こうと思ったのが、この入り江であった。
この入り江は、三浦半島の「荒崎」という場所にある入り江で、「ドンドン引き」という名称で呼ばれている場所だ。
ドンドン引き・・・という名称は、この入り江で、流れ込んできた潮がドンドン引いていくから・・・らしい。
巷でよく耳にする「どん引き」という言葉とはちょっと意味合いが違うのだ(笑)。
京急の快特に乗り、品川駅から1時間ちょいで電車は終点「三崎口」駅に着く。そこから「荒崎」方面行のバスに乗り、荒崎で降りて、少し歩く。この日の快晴模様の空の下、港のはるか向うには富士山が見えた。
やがて荒崎公園の駐車場が見えてくる。駐車場の管理人のいるあたりを過ぎて更に少し歩くと、右方面に小さな山を登っていく分岐が見えてくる。
その分岐を右に行って、少し登ったら・・
あっ!! これだ・・・。当時のままではないか・・。
あっけないぐらい、ドンドン引きはあっさりと目の前に現れた。
ドラマ「つぶやき岩」で象徴的に出てきていた、あの入り江が眼下に。
感慨深いものがあった。
そう、ここから柴郎少年はたった一人で船に乗って、自ら漕いで、つぶやき岩に向かっていたのだ。
左右の崖の奇岩ぶりは、番組が放送されていた当時と、あまり変わっていないので、すぐに識別できた。
潮がこの入り江に入ってきては、どんどん引いてゆく。
この景色にこだわりがあった私は、この入り江を右からも撮ってみた。
御覧の通り、崖には柵があって、入り江には降りていけないようになっていた。
左からも撮ってみた。
でも、これだけじゃまだ足りない。
ドラマの中で、あの魅惑の小林先生が、そして紫郎に恋していたであろう志津子が、紫郎が櫓をこいで1人で船をだす姿を見下ろしたであろう展望台にも行くことにした。
展望台に行く途中には看板があり、その看板の中の説明文の中には、三浦義澄の名前もあった。
そう、前述の通り、「つぶやき岩の秘密」の主人公・紫郎は、三浦義澄の子孫である・・という設定だった。、紫郎は先祖の三浦義澄が「決して敵に後姿を見せない、強い侍大将」であったことを誇りに思っていたのだ。
三浦義澄は、源頼朝の時代の武将であり、頼朝配下で重用され、やがて宿老にまでなり、頼朝軍として数々の合戦に参戦。実際に強い武将だったようだ。
三浦半島の地名は三浦義澄をはじめとする三浦一族に由来するものらしいし、三浦一族は現代にも三浦半島という地名で伝わっているほどの名門だといえよう。そういう意味では、三浦義澄の子孫である紫郎が義澄を誇りに思うのは当然だろう。
看板の説明文によると、ドンドン引きの展望台一帯は、三浦義澄の城があった場所らしい。
ともかく、展望台に登った私は、そこからもドンドン引きを撮ってみた。
その展望台は入り江の入り口付近から入り江の奥までを見渡せる場所だ。
その展望台に立つと、入り江の終わり部分がどうなっているかよくわかる。
ドラマでは紫郎は入り江の終わりの部分で船を下りたり、乗ったりしていた。
そのシーンを見ていた私は、そこはちょっとした船の発着所みたいになっているのだと思った。
だが、実際に来て見てみると、その入り江の終点部分は、本来船を止めておいたりはできない場所だと思った。
また、その場所は崖に囲まれており、階段らしきものはおろか、なんのルートもないので、崖から下に降りていくのは無理だと思った。そう、ただの急な崖になっているだけなのだ。
つまり、ドラマの演出上、そこを船の発着場ということにしただけで、実際にはそういうことができる場所ではないと思う。だいいち、船から降りた彼は、どうやって崖を登るのか(笑)。
それに、こんな所に船を置いておいたら、潮の流れに持っていかれてしまうことだろう。
船をつなぎとめておけるようなものもないし・・・。
このドラマで、少年が船に乗りこむ場所という設定にするために、わざわざ船をここまで運びこみ、あたかもここで乗り降りしてるかのように見せたのではないか。ドンドン引きの奥の崖を見てると、そう思わずにはいられなかった。
それとも・・このドラマが制作された当時は、崖の上からドンドン引きの奥に降りていくことができたのだろうか・・・?
見た限りでは、そうは見えなかったのだが・・。
ただ、ドラマを見てると、とりあえずこのドンドン引きは、紫郎少年の秘密の船の隠し場所・・・そんな雰囲気にはしっかりなっていたとは思う。
きっと、ドラマの演出上、そういう風にしたかったのだろう。
また、これは後で実感したことだが、この入り江がある荒崎から、紫郎が行っていた「つぶやき岩の洞窟」にはかなり距離がある。
とても、小学生が1人で船を漕いで行ける距離ではないと思う。
ならばなぜ、この入り江を船の発着場という設定にしたのか。
それは・・・
この「ドンドン引き」の入り江の景観の素晴らしさゆえではないか。
なにしろ、絵になる。この入り江から小さな船が出て行く光景は、あたりの奇岩ぶりもあって、非常にビジュアル的に心に残る風景だ。
なので、ドラマでは、この入り江の「絵になる」光景を、活かしたかったのであろう。
現実的に考えれば、小学生の紫郎が小舟を1人で漕いで、つぶやき岩までたどり着けるとしたら、つぶやき岩近くのヨットハーバーか、せいぜい三戸海岸あたりからぐらいではないか。
それをわざわざ、つぶやき岩からけっこう離れた荒崎のドンドン引きから行くという設定にしたのは、ドンドン引きのビジュアルゆえだったろうと思う。これは現地で実際にこの目で見て感じたことだ。
また、紫郎が三浦義澄の子孫であるという設定があったので、義澄の城があった荒崎のドンドン引きから船を出す・・というのは、それなりに繋がりがあることだったとは思う。
蛇足だが・・・以前NHKの大河を見てる時・・・確か「平清盛」だったとは思う・・・頼朝の配下に三浦義澄は出てきたように思う。ちょい役ではあったが。
その時は、義澄の名前を見て、思わず私は「つぶやき岩の秘密」の紫郎のことを思い出したものだった。お、「つぶやき岩の秘密」の紫郎の御先祖様だ・・・などと思いながら。
ともあれ、ドンドン引きに格別の思い入れがあった私は、展望台から見るアングルでもまだ飽き足らず、更に大周りして、海辺の岩場まで降りてみた。
で、ドンドン引きの入り口に出た。すると、目の前に切り立った岩が立ちはだかっていた。
ここまで来たら後にはひけない。
その岩を私はよじ登り、先ほどの展望台よりもより低いアングルで、ドンドン引きの入り口の部分から見てみた。
これ以上こだわるとなると、それこそ自ら船を用意し、ドンドン引きの入り口の海から写真を撮るしかなくなるので、このへんが限界かなと思った。
とりあえず、やれるだけやったので、ある程度自分で納得(笑)。
ドラマ「つぶやき岩の秘密」の主なロケ地は、三戸浜海岸近辺が中心である。
三戸浜海岸を拠点にすれば、主だったロケ地には行ける。地下要塞、諏訪神社、三戸浜海岸、などなど。
だが、ここ荒崎だけは、メインの三戸浜海岸からポツリと離れている。
なので、ドンドン引きを見るためには、三戸浜海岸近辺とは別の独立したルートになる。
とはいえ、ドラマ「つぶやき岩の秘密」のロケ地巡りをする場合、この荒崎のドンドン引きは絶対に欠かせない場所だと思う。
どこか秘密めいた「船の隠し場所」「船の秘密の発着所」にするには、もってこいの場所でもある。
ドンドン引きに入ってきては急いで引いてゆく波の行方を見ながら、私は「遠い海の記憶」という曲を心の中で鳴らし続けていた。
そう、ドラマ「つぶやき岩の秘密」の主題歌だった、その歌を。
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