2016年5月6日、アル・スチュワートの日本公演を観た。
場所は六本木、ビルボードライブ東京。
席を申し込む時、19時開始の第1部を私は選んだ。翌日も早朝から仕事だったから。
この公演のことを知ったのは、公演の数日前。
メールで教えて下さったかたのおかげだ。
そのへん、本当に感謝しています。情報ありがとうございました。
私がアルの音楽を初めて聴いたのは学生時代。当時アルは、「イヤーオブザキャット」という傑作アルバムでブレイクし、続いて出た「タイムパッセージ」もまた大ヒット。
どちらも名盤で、聴きまくったものだった。
私が初めてスキーに行った時に、初めて乗ったリフトの上で、「タイムパッセージ」という曲のイントロ部分を口ずさんでいたりした記憶があるものだから、「タイムパッセージ」を聴くと今でもそのリフトで見ていた風景を思い出してしまう。
その意味では、「タイムパッセージ」は私にとって、スキーの思い出がある曲なのだ(笑)。
また、当時、色んなお気に入りアーティストの、好きな曲を集めてオリジナルベストヒットのカセットを作る時、いつもラストの位置にはアルの「イヤーオブザキャット」を入れていたりもした。「ベルサイユ宮殿」という曲もマストだった。
そんな過去があるだけに、アルは私の若かりし頃の一部分を担ってくれていたアーティストだ。個人的にそんな思いがある。
アルはこれまでに2度ほど来日しているらしいのだが、そのどれにも私は行けていない。
なので、今回・・都合3回目の来日公演には、ともかく行っておかねばならないと思った。
アルももう70歳台というから、なおさら。
とにもかくにも、会場であるビルボードライブ東京のホームページに行き、とっとと会員になり、さらに電話で申し込んだ。
席を確保できてホッとした。
そのライブ会場はこれまで私は知らなかったのだが、ネットで調べてみたところ、決して大きな箱ではない。ということは・・・至近距離でアルを観れるかもしれない。
そう思うと胸が高鳴った。
ライブの予習がてら最近のアルのライブ映像を見ると、アコギ2本でのアコースティックライブの映像が多い。
ということは、今回もきっとそうなのだろう・・と思って、当日私は会場に向かった。
私が持っているアルのライブDVDは、若いころの映像で、バンドスタイル。
なので、今回のライブはDVDとは別物のライブになるだろう。
バンドスタイルでのアルも見てみたい気はしたが、アコースティックライブだとアットホームなライブになりそうな予感もあった。
実際会場に着き、席に座ってみるとステージが近い。これなら双眼鏡はいらない。
↑ 御覧の通り、最前列の席は、出演者の目の前だ。
客席で待つこと、しばし。
やがて場内が暗転し、いよいよライブが始まる。
↑ 場内暗転。さあ、始まるぞ。
↑ 夜景が見えていた大きな窓にカーテン(?)が、かかった。
開演時間の7時を数分過ぎた段階で、アルが登場。
私にとって馴染み深い1970年代後半から80年代頭あたりにかけてのアルの容姿とは違い、年齢に応じた容姿になってはいたが、あらかじめネットで最近のアルのライブの様子を見ていたおかげで、予想通りの姿。違和感なし。
もし最近の映像を観てなかったら、時の流れを感じただろうけど。
アルがステージに上がった瞬間、客席から「wellcome to japan!」の声がかかった。
アル最近のライブ映像を観てると、客席とやりとりするのがお好きなようで、ここでも客席からの声に軽く答えて、まず1曲。弾き語りで歌い始めた。
生でアルを観るのは私は初めてだったのだが、背が高く、スラッとしており、スタイルもいい。
とても70台とは思えない。シャキッと立って歌う。
遠目で見ると、どこかロシアのプーチン大統領をもっと長身にした感じにも見えた。
もちろん、近くで見たら違う印象だ。
プーチンさんは、その立場上、けっこう鋭い顔をしているが、アルの場合は、元々甘いマスク系の顔である。
全体的な雰囲気は、いかにも英国紳士という感じで、品がよくジェントル。
そして、鼻が高い。
アルはスチュワート王朝の末裔らしいが、知的で上品で、貴族っぽい雰囲気が漂っている。
というか、世が世なら、彼は王族であり、貴族ということになる・・。
「House of the clocks」のあと、アルは今回の来日公演の相棒をステージに呼び出した。
その名はマーク・マシッソ。不勉強ながら、私はマシッソのことは知らなかった。
てっきりアコギ奏者が相棒として出てくるのかと思ったが、マシッソは管楽器奏者。
ライブ前にステージにセットされた楽器に、パーカッションや管楽器が並んでいて、サポートギターらしきものが置いてなかったので、「あれ?サポートギターは?」と思っていた私。
そうか、ネットで見ていた最近のアルのライブでお馴染みのサポートギター奏者ではなく、今回のサポートは管楽器奏者なんだ。
アルと管楽器奏者との2人だけのライブは私はまだ見てないので、その編成でのライブは私は初めて見ることになる。
今回のライブは、第1部が19時開演で、その後に入れ替えで第2部が21時から始まる。
客はチケットを買う時、第1部の公演にするか第2部の公演にするか、選ばなければならない。1枚のチケットではどちらかしか見れないのだ。
なので、1ステージごとの所要時間はあまり長くないだろう。
店にしてみれば、客を入れ替えて、客席のテーブルの食器なども片付けないといけないだろうし。
ということは1ステージあたり1時間ちょいぐらいしかないのではあるまいか。
仮に1時間半以上やってしまったら、第2部のステージへの準備があわただしすぎるだろう。
だとしたら、やれる曲の数にも限りがあるはず。
・・という思いもあり、実は心配ごとが私の中にあった。
私が大好きな「あの曲」はやってくれるのだろうか・・という心配が。
もちろん看板曲である「イヤーオブザキャット」や「タイムパッセージ」や「オンザボーダー」などはやるだろう。
だが、「あの曲」は・・・?
持ち時間が2時間から2時間半ぐらいであれば、多分やってくれるだろうが、1時間ちょいのステージでは「あの曲」をやれる余地はあるのだろうか。
もしも私にアルへのコネでもあれば、「あの曲」をやってほしい・・と嘆願したいぐらいだった。
だが・・その心配は無用であった。
やってくれた!「あの曲」を。
その曲はイントロが非常にキャッチーなので、もしもレコード通りの旋律のイントロを弾いてくれればすぐにわかる。
マシッソがフルートを持ち、「あの曲」のイントロを吹き始めた時、私は歓喜した。
そう、「あの曲」とは・・「ベルサイユ宮殿」という曲だ。原題「Palace of Versailles 」。
ある意味、アルのライブで一番聴きたかった曲で、私にとっては「思い出の曲」であり、「心の曲」である「ベルサイユ宮殿」。
これは、フランス革命のことを題材にした曲だ。インテリジェンス溢れる、哀愁の名曲。
よかった・・。
来てよかった。これが聴きたかったのだ。
このイントロは途切れなくメロディが続くので、フルートで吹く場合、息継ぎが大変そうだった。
曲の合間では、アルはよくしゃべる。
実はネットでアルの最近のライブ映像を観るまで、私はアルは寡黙な人なのではないかと思っていたが、少なくてもステージではそんなことはない。
英語圏の国でのライブではよくしゃべっているし、客とのやりとりも多い。そこには大爆笑も生まれ、家族的でなごやかなムードが漂っていたし、時には曲の最後に、曲とは関係のないビートルズの曲のギターリフを弾いたりして、ちゃめっけを出していた。
だが言語が英語圏ではない日本では、あまりしゃべらないのではないかと思っていた。だが、日本でもよくしゃべり、客とコミュニケーションをとろうとしてきていた。
その姿勢が嬉しかった。
トークの中では、寿司の話もしていたし、日本生まれのヒットソング「スキヤキ(上を向いて歩こう)についても触れていた。
ギターで「スキヤキ」のメロディを弾いたりもしていた。もちろん、喜ぶ日本人客。
そのへんサービス精神あるねえ。このへんのくだりは、場所が日本であるからこそであろう。
ライブはアルの醸しだす家族的なムードの中で進む。
びっくりしたのは、アルが突然ボブ・ディランの歌をアカペラで一節歌いだしたこと。
アルが突然歌いだしたディランソングは、「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」であった。
この曲は、ラップの元祖ともいわれている曲で、メロディの起伏がほとんどなく、韻を踏みまくった歌詞をマシンガンのように歌う曲。
そういや、アルは若いころ、ディランやポール・サイモンの影響も受けていたはず。
実際、アルのアルバムを聴きまくっていたころ、その歌い方に多少なりともディランの影響を感じたこともあった私。
ディランの声質は基本的にはダミ声。だが、アルの声質はレコードで聴く限り、繊細でやや細めで、品があって甘く優しい声質。
なので、ディランの影響はあまり感じにくいが、でも、歌い方の一瞬一瞬に影響らしきものは感じていた私。
それを、この日本公演ではっきり出してくるとは。
ディランソング「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」のすぐ後に、アルは自作曲を歌い始めた。その曲は「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」を明らかに意識した曲であった。
残念ながらアルのその自作曲のタイトルは私にはわからなかった。でも、ディランソングのすぐ後にその曲を歌い始めたくだりは、楽しかった。
先ほど、アルの声は「繊細でやや細め」と書いたが、それはレコードの中でのことで、生で聴くアルの声は、思ったほど細くはなかった。
とはいえ、あの上品な声質は、そのまま。なので、安心して聴けた。
「ああ、今まさにアル・スチュワートを聴いてるなあ」と実感。
さすがに、昔ほどの高い旋律は辛いのか、メロディの流れが一気に高くなる箇所では、メロディを多少変えて歌っていた。
それにしても、今回の公演の相棒であるマシッソは忙しそうだった。
フルート吹いたり、ハモニカ吹いたり、サックス吹いたり、時にはパーカッションを叩いたり。
曲によって、演奏する楽器を変えていた。
実に多才な人だ。
特にハモニカとサックスは見事だった。
ライブ前、私は、「イヤーオブザキャット」はライブの最後にやり、「タイムパッセージ」はアンコールでやるんじゃないかと思っていた。
だが「タイムパッセージ」はライブの中盤で披露。
その辺は少し意外だった。
「タイムパッセージ」は、「イヤーオブザキャット」の大ヒットの後にレコード制作する時、レコード会社から「イヤーオブザキャット」みたいな曲を再び要求されて作った曲だったらしい。そのせいか、アル自身は「タイムパッセージ」は当初あまり好きになれなかったらしい。
確かに、その両曲は、レコードバージョンではアレンジの流れは似ている部分はあった。
特に間奏のあたりが。
メロディは似ていない。第一、「イヤーオブザキャット」は短調の曲で、「タイムパッセージ」は長調の曲だ。
だがアレンジの構成には通じるものはあった。
間奏部分での楽器の入り方が。
「イヤーオブザキャット」での間奏は、まずアコギのリードギターが入り、その後アコギのリードを引き継ぐようにエレキギターが入り、その後サックスが引き継いでいく、かけあいだ。
「タイムパッセージ」での間奏は、まずアコギのリードが入り、サックスが引き継ぎ、その後にエレキギターのリードがハモリで入ってくる構成。
入ってくる楽器の順番は違えど、間奏でドラマチックに展開していく構成という意味では共通していた。
「タイムパッセージ」をライブのハイライト的な位置に持ってこなかったのは、当初アル自身が「タイムパッセージ」に複雑な思いを持っていたからなのだろうか。
ちなみに私は、「タイムパッセージ」は「イヤーオブザキャット」に勝るとも劣らないぐらい大好きだったりする。
今回はアンプラグドライブだったせいもあり、その両曲をはじめとする披露曲は、主にマシッソがレコードバージョンでのアレンジのポイントになるメロディ部分を、あれこれ楽器を持ち替えて再現していた。
時には、客席に降りてきて、会場を歩きながら演奏したりして、盛り上げていた。
ライブの終盤近くの段階では、アルが一時ステージを降り、ステージはマシッソ1人だけになり、マシッソのソロのコーナーも用意されていた。
その時アルはステージを降りた後、客席の階段を昇って行ったのだが、働いている店のスタッフや客と階段ですれ違ったりしていた。
なんか、今ステージでライブをやってる最中のスターが、会場内で店のスタッフや客と階段ですれ違うってのは、面白い光景に見えた。
で、最後の曲は、やはり「イヤーオブザキャット」。
レコードで聴けたピアノの印象的なリフはアコギでアルが自ら再現。
この曲でマシッソは、当初はレコード通りのサックスメロディをサックスで再現していたが、途中からライブらしく少しアドリブが入っていき、ライブの最後を盛り上げていた。
まさに熱演。
そして・・・アンコール。
前述の通り「タイムパッセージ」はライブの中盤でやってしまったので、アンコールでは何をやるのかな・・と思ってたら、やった曲は「Almost lucy」。
これは嬉しかった。
実は、この曲も私は密かにライブで聴きたいと思っていたお気に入り曲だったから。
「ベルサイユ宮殿」をやってくれただけでも嬉しかったのに、半分あきらめていたこの曲をやってくれるとは。
贅沢を言えば、「戦士マーリン」なども聴きたかったが、アンコールを含めて1時間15分くらいのステージなら、そこまで我がままはいえないだろう。
ライブを観て改めて思ったのだが、アルの曲には、マイナーキーの・・短調の曲に名曲が実に多い。
彼のことをマイナーキーの曲のキングという人もいるようだが、若かりし頃の姿は、「マイナーコード王子」という感じだったのではないか。
日本では「○○王子」という形容が多いことを考えれば、特に。
そういえば、第2部終了後には、サイン会とかあったのだろうか。
サイン会の噂は確かにあった。
だが、実際にはどうだったんだろう。
もしあったのだとしたら・・・多少無理してでも、第2部を選んで、サイン会に参加したかったなあ。
帰りの道すがら、私はそれが気になっていた。
アル・スチュワートのサインなど貰ったら・・・私にとっては家宝になるなあ。
ファンというものは欲張りなもので、今度はバンド編成でのアル・スチュワートの来日公演も観てみたい。
だが、そうなると、会場はもっと大きな会場になってしまい、今回のような至近距離では見れないのだろう。
アルは、日本では知名度はさほど高くないかもしれない。
もしもアルが、ボブ・ディランやポール・サイモンやビリー・ジョエルほどの知名度があったなら、今回のような至近距離でのアットホームなライブは日本では無理だったろう。
知る人ぞ知る・・そういう存在であってくれたおかげで、今回のようなアットホームな至近距離のライブが実現したようなものだ。
そういう意味では、アルが知る人ぞ知るミュージシャンであったことを天に感謝したい。
大好きなミュージシャンを、至近距離で見れるコンサート・・・これって何物にも代えがたい幸せな空間であるのだから。
今は
いつかバンド編成で日本にまた来てくれる日のために・・・
私自身元気でいたい。
そしてもちろん、アル・スチュワートにも元気でいてほしい。
アル、また来てください。
セットリスト
1. House of Clocks
2. Antarctica
3. Flying Sorcery
4. Palace of Versailles
5. On the Border
6. Night Train to Munich
7. Time Passages
8. Broadway Hotel
9. Midas Shadow
10. Warren Harding
11. Fever
12. Soho (Needless to Say)
13. Year of the Cat
アンコール
14. Almost Lucy
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