最近、ケメこと佐藤公彦さんの曲を聴き返している。
私が持っているケメのアルバムは、LPではファーストから4枚目まで、そしてライブアルバム。
そして近年、CDでケメのアルバムが復刻された時、持っていなかったアルバムはもちろん、持っていたアルバムも全てCDで買い直した。いわゆる「大人買い」だ。
ベストアルバムも。そしてオムニバスライブアルバムもすべて。
つまり、CDで復刻されたケメのアルバムは全て入手したことになる。一部のコンピレーションアルバムは除いて。
ケメはエレックレコードからデビューしたが、やがてレコード会社を移籍した。
レコード会社移籍後のアルバムはCDとしては未だに復刻されていないので、移籍後の曲を聴くには、ユーチューブで聴くしかない。
ただ、ありがたいことに、移籍後の曲は多数ユーチューブでアップされており、かなりの数の曲を聴くことができる。
中には未発表曲や秘蔵音源などもアップされており、ありがたい限りだ。
熱心なファンのおかげだろう。そのへん、ほんとに感謝。
ケメの音源を一気に聴き返すことを繰り返していると、後半ケメがいかに初期のアイドルイメージを払拭しようとしていたかがよくわかる。
曲調も、歌詞も、歌い方も、ジャケットの表情やファッションも。
私が持っているスタジオアルバムの中で特にそういうものを感じるのは、アルバム「片便り」という作品。
ここにきて、私が持っているケメの全てのアルバムの中で一番聴き返すことが多いのが、このアルバムだ。
「片便り」でのケメは、初期のようなアイドルのような姿はない。
ここにあるのは、アイドルではなく、シンガーソングライターとしてのケメ。
もちろん、初期のアイドル時代もケメはシンガーソングライターだったのだが、初期はアイドルとしてのオーラも感じる楽曲も多かった。
だが「片便り」の中では、内省的で、けっこう硬派な曲も目立つ。
自身のことを「ボク」と言わず「俺」と言っている歌詞もある。初期のケメでは歌の中で自身のことを「俺」と称している曲はなかった。
なので、アイドルとしてのケメしかしらない人がいきなりこのアルバムを聴くと、とまどうかもしれない。
ちなみに私は、初めてこのアルバムを手にした時、ジャケットの色や、ジャケットに映っているケメの姿や表情などから、このアルバムに対して「落ち着き」と共に「暗さ」を感じた。
特にケメの表情に。
でも、このアルバムを聴き進むうちに、ジャケットをああいう感じにした意図は分かる気がした。
例えばデビュー作「午後のふれあい」みたいなジャケットは、このアルバムには似合わない。
「片便り」は楽曲の傾向だけでなく、ジャケットそのものにも脱アイドルの意思が出ている気がした。
楽曲のほうは、ロック系や骨太フォーク系の男性シンガーが歌ってもおかしくない傾向の曲もあった。
内省的な心情を吐露した曲には、リスナーの心に染み込んでくるような曲も多かった。
サウンドは初期のようなカラフルで明るい感じではなく、洗練されたサウンドだった。
初めてケメのアルバムを聴く人は、アルバムを発表順に聴いていくのが一番その変遷がわかりやすいが、全部のアルバムを聴くような時間的な余裕がない人は、まずは初期のアルバムを押さえたうえで、続いてこのアルバムも聴いてみたほうが、ケメをとらえやすいと思う。
初期のアイドルイメージだけでケメを判断すると、彼の音楽性の振り幅や奥行きを勘違いしてしまう気がする。
「片便り」を聴き返していて私が思うことは、レコード会社移籍後の彼のアルバムも、CDで復刻してもらいたい・・・・ということ。
移籍後のアルバムにも、良い曲は多数あるので。
ザ・ビートルズも、そうです。
初期・前期は、可愛らしい容姿の4人組が、後期・末期には超ロングヘアに聖職者か海賊かを思わせる顎髭。
そして、当時としてはアバンギャルドな前衛楽曲の数々。
私は、ショック受けましたよ(^^;)
ケメさんの場合も同じですが、容貌の変化と伴なって、楽曲も変わるのですね。
しかし、「真に才能がある者は、常に変化し続ける」と考えられます。
デビュー当初・前期ケメは、女性ファンが圧倒的大多数であった事実は、彼の可愛らしい容貌・声色・雰囲気・楽曲を確認すれば、よくわかります。
中年期以降ケメは、何を求めて、楽曲をも変化させていったのでしょうか?
ケメもまたそうでした。
どんなミュージシャンも、デビュー時に大ブレイクすると、そのイメージはあとあとまで尾を引きがちですが、音楽性の成長にともなって、そのイメージも変えていかないといけなくて、そこで苦労する人は多いと思います。
ケメの初期の映像が残されてますが、その映像でのケメは本当に女の子みたいです。
ルックスも声も曲も。
当時、女性ファンの数では、ケメは拓郎以上だったと思います。
でもいつまでも同じところにはミュージシャンとしてはいられないでしょうね。
「片便り」では、男っぽい曲も目立ちます。
ビートルズ同様、ケメもまた成長を求めていったのだと思います。
アイドル性の奥にあった、彼の作曲の才能が私は大好きでした。