長女の結婚式で思った。
娘が、父親と式場に入ってくる。
大勢の温かい祝福の拍手が起こった。
私は、そこで娘を挟んで、一緒に立って、
3人揃って深々とお辞儀する。
ああ、隣にいる子は、私の娘なんだ。
そんな気持ちだった。
早くに家を出て、そのまま帰らずに、この日を迎えたけど、
彼女は紛れもなく、今でも私の娘。
そしてゆっくりと体を起こすと、
今度は、娘と私が、向かい合う。
彼女の表情は、今まで見た中で、1番幸せそうだった。
私は、思わず、娘の頭を撫でた。
あなたは、いい子でしたって。ありがとうって。
子供の頃みたいに…。
そして、花嫁の最後の身支度を、してあげた。
娘のくちびるに、仕上げの紅を指す。
私が、自分の娘にしてあげる最後の役目。
色んな思いが込み上げてくる。
優しく、そっと、くちびるに筆を添わしながら、
母は、ここでは、泣けないと、自分に言い聞かせていた。
さあ、出来たよ。行っておいで。
私は、昔と同じように、「行ってらっしゃい」と、笑って彼女の背中を押した。
幸せになってね。
娘は、父親のエスコートで、
お婿さんの待つ場所まで歩いたら、
やがて、父親からも離れて行った。
ここにいるすべての人が、立会人となり、
2人の婚姻は、完全に成立した。
私は今、犬の散歩をしながら、彼と共に夜道を歩いている。
私は、少し疲れていた。
彼も、疲れていた。
それでも、2人が見上げた空には月があって、
偶然、おなじ方向へ、歩いていることを知ったら、
そういうのって、いいね。と、笑い合った。
手を繋ごう。
それなら、いっそのこと、求め合いたい。
今夜の月は、眩しいほどに光っていたのに、
半分だけ。
私みたい。
私は、そんな風に思いながら、見えない方の月を見ていた。
そして、
今日の結婚式が、
今の私のように、彼女を苦しませるものになりませんように。
最後まで、二人が愛し会えますようにと、願った。