アリ@チャピ堂 お気楽本のブログ

日々の読書記録を勝手きままに書き記す

崩壊する時の流れ

2010-09-15 21:49:43 | フィリップ・K・ディック
「逆まわりの世界」 ディックの本領発揮


「逆まわりの世界」1983年初版
小尾芙佐訳 ハヤカワ文庫SF

腰巻にこうある
表に「崩壊する時間の流れ! 1986年-突如始まった時間逆流現象で地球は異様な世界へと変貌してしまった」
裏に「本書は鬼才の名を欲しいままにしたフィリップ・K・ディックが1967年に発表した力作長編である。
「火星のタイムスリップ」「ユービック」などにも見られる現実からの遊離感、正常ならざる時間の流れは、
本書においても顕著で、目の前に繰りひろげられる悪夢のごときディック・ワールドは、読者を完全な陶酔へと誘う。
まさに彼の面目躍如の作品といえよう。」とある

時間が逆行するために死体が蘇る
ディックの面白いのは、そうした事態に「現実的」に対処するための墓掘り屋を登場させ
それがさもありなんという現実感を感じさせることである
一方、灰だったものが煙草になりそれがケースに戻される
そういう世界なら人々の言葉や思考も逆行し意味あるものとならないはずではないか
時間逆転の絶対的な矛盾は「逆方向に前進している」ということ
物理的世界は時間の流れに「正逆」はなく、意識こそが時間の方向性を決めている
物理的世界で逆行は「確立」の問題であると読んだ気がする
ディックにとってこうした時間トリックは作品の主題を表現する装置であって
それが主題となるのではない
ディックがそうした装置を用いて再構成する世界は
眠りのごとに繰り返し訪れる「リアルな悪夢」が感覚として一番近いものだろう
そして彼は「悪夢」を白昼の下で読者に幻視させ
それが実は視点を変えた現実世界のバリエーションであることに気付かせる
そこにはまるとディックの小説から逃れられなくなるのだ


1971年初版 ハヤカワポケットブックSFシリーズ
小尾芙佐訳

 時間は常に一方向にしか流れていかないのか、それにも疑いを持つこと

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