〈ふくしま集団疎開裁判〉 本裁判も視野に「避難プロジェクト」立ち上げへ
2013年 6月 20日 00:51
【取材ニュース】 <人権> <原発> <市民活動> <平和>
三上英次
◇◆◇ 「福島に来ないで!」―ある県民からの声― ◇◆◇
その日、東京・新宿にあるアルタビルの大画面には、「みんなで再生させる、ふるさと日本」「がんばっぺ東北」…といった、お決まりの“挙国一致”フレーズが次々にテロップで流されていた。そして、その道路1本隔てたアルタ前広場では、〈ふくしま集団疎開裁判〉のデモ参加者が集まっており、ある参加者のプラカードには、「福島に住んでいるから言います」に続けて次のような言葉があった。
「子供を被曝させたくないなら」
「あなたと家族が被曝で苦しみたくないなら」
「福島に来ないでください」
「福島の物を食べないでください」
福島に住む者が、わざわざ東京まで来て、そのようなプラカードを掲げるのはどうしてか――? ひとつ考えられるのは、国際的な原子力“推進”団体であるIAEAですら、放射能の被ばく許容量を年間1ミリシーベルト迄としているのに、日本政府は、その被ばく基準を〈3.11〉の原発事故後に一気に年間20ミリシーベルトにまで引き上げてしまったという、これまでの経緯だ。
2013年5月18日(土)、デモ参加に際して、ある福島県民が掲げたプラカード。 いわゆる“推進派”の手法は、「がんばっぺ東北」「ガンバレ日本」のように、個々の地域ではなく、被災地全体にアミをかけて一律に「復興!」「がんばれ!」「あなたも応援を!」とかけ声をかけるのである。そして、「低線量被ばく」や「内部被ばく」の危険性、避難の必要性を唱える声を“風評”として位置づけ、「風評被害にもめげずに、福島の人たちはがんばっている」と宣伝する。(撮影・三上英次 以下同じ)
もともと「1時間あたりに換算して0.6マイクロシーベルト」を超えるような場所は〈放射線管理区域〉にしなければならず、そこでは飲食禁止(当然、そこに人が居住することは出来ない)、一部の放射線技師などは職務上やむを得ずに立ち入ってもよいが用が済み次第直ちにそこから出なくてはいけないような場所が、〈放射線管理区域〉というところである。政府は、そういう場所に、幼い子どもをはじめ多くの人を住まわせたまま――住まわせるだけではなく、そこで市民マラソン大会や学校での運動会を開催して“復興ムード”を演出し――、“復興”予算を関係のないところにたれ流し、果ては福島の人たちの〈くらし〉も〈健康〉も、すべて二の次にされているのが、今の福島のありようだ。そんな中で現地の人から「福島に来ないで!」と声があがるのも当然だろう。
◇◆◇ 「緊急避難プロジェクト」都内で始動! ◇◆◇
そのような危険な場所に住まわされ、いまも被ばくし続ける子どもたちをどう救うか――、この難しい問題に対して、6月9日(土)、都内で〈ふくしま集団疎開裁判の会〉による「緊急避難プロジェクト・キックオフ会議」が開かれた。会議には「チェルノブイリへのかけはし」の野呂美加さんが北海道から、「福島原発告訴団・静岡」の長谷川克己さんは静岡県から、その他この問題に関心を寄せる多くの人が東京・新宿に集い、原発問題についてそれぞれ意見を述べた。
弁護団からは、去る4月24日に仙台高裁から出された「決定」を受けて、今後は裁判所の〈仮処分〉を求める裁判ではなく、「行政訴訟」も検討中であること、さらに、「山村留学」のような避難プロジェクトを進めていく方針が示された。
5月19日〈ふくしま集団疎開裁判〉新宿デモ プラカードより。6月9日の集会では、郡山在住の男性から「人々は放射能に対する不安を覚えても、それをおもてに出せない」、「医療界、商工会、そしてメディアが一体となって押さえつけるシステムができあがっている」と報告があり、その男性はそれを【被ばく戒厳令体制】と表現した。
◇◆◇ チェルノブイリ高汚染地区と現在の福島との比較 ◇◆◇
集会では、北海道在住の松崎道幸医師もスカイプ(テレビ電話中継)で参加し、松崎医師は、今月5日に福島の県民健康調査検討委員会で報告された「小児甲状腺がんが(2月の報告時から9名増えて)12人〔平成23度…7人、平成24度…5人〕、その疑いのある者が(同・8名増えて)15人〔平成23度…4人、平成24度…11人〕」という数字について、強い懸念を示した。
松崎医師は、上記検査結果について、「もともとあった癌を早く見つけたのか、それとも原発事故による放射線の影響で癌が増えているのか、慎重な見極めが必要である」としながらも、以下のような事情から、事態が相当差し迫っていることの危機感がうかがえた。
まず、松崎医師は5ミリ以上のしこりが甲状腺に見つかった子どもたちがすでに1000人以上にのぼること、さらにまだ甲状腺に大きなしこりがあっても精密検査で結果が確定していない子どもたちが相当数いることに着目する。そして、今後も6月5日の発表と同じ比率で甲状腺がんが発生すると仮定すると、さらに甲状腺がんの発生数が今の4倍近くになる可能性を示唆した。
また、松崎医師は、山下俊一氏らのグループが〈事故当時10歳以下だったチェルノブイリ近郊の約5万人の子どもたちを対象に、事故後5~7年後に甲状腺超音波検査をおこなった報告〉も紹介した。それによれば、その検査では「1万4千人に1人」の割合で小児甲状腺がんが見つかり〔注:小児甲状腺がんの発生率は通常、100万人に1人と言われている〕、高汚染地域では「4500人に1人」の割合であった。そこから、松崎医師は、まだ不確定要素があることをふまえて言葉を選びつつも「福島の子どもたちに、事故から数年後のチェルノブイリと同程度、あるいはそれ以上の割合で、小児甲状腺がんが発生しているとの仮説を立てることができる」と警告を発した。
実際に、福島では事故から2年経っていない段階での17万4千人のうち、小児甲状腺がんが12名、その疑いのある子どもが15名――つまり最大で27名の子どもたちが甲状腺がんになっている可能性がある。これを単純計算で「がんの疑いの強い15名」を含めて17万4千人(人)を27で割ると約6400(人)。と言うことは、県民健康調査の途中段階で「6400人に1人」の割合で、福島の子どもたちに甲状腺がんが発生していることになる。
◎ 事故からまだ2年、
◎ しかも、いまなお、複数の地域で甲状腺検査が行なわれず、
◎ さらに、次回の検査が2年も先(=ていねいな追跡調査が行なわれず、言わば“放置”された状態)であること――を考えると、松崎医師の懸念通り、いまの福島の小児甲状腺がん発生頻度は、「チェルノブイリ原発事故から5年後の高汚染地区〔注:ゴメリ地区〕」の〈4500人に1人〉に迫るもの」と言えるだろう。
会場写真。会場では「チェルノブイリ事故からいちばん学んで(その戦略を立てて)いるのは、原発推進派だ」という声もあがった。さらに「チェルノブイリでは土地が国家のもので資産補償をしなくて済んだ」「日本中で集団自己破産をするべきだ」「黙っている人たちは推進派と同じ。もっと多くの人が声をあげるべき」等の意見も聞かれた。
◇◆◇ 「検査機器がよくなった」への疑問 ◇◆◇
松崎医師はまた、「チェルノブイリのときよりも、検査機器の性能がよくなって、かつては見落とされていた病巣が見つけられるようになった」といった福島県立医科大学グループからの意見についても、チェルノブイリ事故でピックアップされた「のう胞やしこり」と今回の福島県でひろいあげているものとが同程度のものであることを指摘し、「今回の検査で、とりわけチェルノブイリの時よりも小さい異常を見つけ出しているわけではない」として、そうした意見に疑義を示した。
◇◆◇ 英医学誌『British Medical Journal』から考察する ◇◆◇
被ばくの影響について、松崎医師は『British Medical Journal』という医学専門誌に載った被ばくによる影響追跡調査についても言及した。それは、CTを受けた約1100万人への10年間にわたる追跡調査の結果である。
CTは、1回あたりおよそ「4.5ミリシーベルトの外部被ばく」であるという。同誌によれば、1回CTを受けた子どもは10年間で約20%、CTを3回受けた子どもでは10年間で50%程度、小児がんの発生するリスクが増えることが、その調査からあきらかになっている。
松崎医師は、日本政府の「年間100ミリシーベルト程度では、がんが増えるかどうかわからない」という見解にふれながら、「福島の原発以後、半年程度でCT1回分に当たる4.5ミリシーベルト程度の外部被ばくをしていた子どもたちがいたこと」を考えて、「子どもたちへの今後のていねいな追跡調査」や「北関東のホットスポットエリアに住む人たちをも含めた避難や移住」について「真剣に考えるべき」と会場の参加者に呼びかけた。
今後、「避難プロジェクト」を進めていく上で、さらなる人的支援、財政面での支援が必要となる。〈ふくしま集団疎開裁判の会〉は、ともに活動をするスタッフ等を随時募集中である。
◇◆◇ 伊達市在住の母親からの訴え ◇◆◇
集会では、伊達市に住む母親からも切実な声が聞かれた。
◇ 今までは「100万人に1人」と言われていた〈小児甲状腺がん〉が、福島県であんなにたくさん出ているのに、それを「原発事故と関係ない」という医療関係者の発言が信じられない。
◇ いま目の前で多くの〈小児甲状腺がん〉が出ているなら、どうしてもっとその原因を調べないのか、あまりにも言い方が「ひとごと」である
◇ 福島県民の中にも、医療関係者が言うように「子どもたちの甲状腺がんと原発事故とは関係ない」と言ってもらいたい人もいると思うが、その〈本当の原因〉について知りたい人もたくさんいる。
◇ 県がおこなう健康調査の「機械(の性能)がよい」と福島県立医科大学の人たちはしきりに言うが、検査は1分そこそこ、あっという間に終わってしまう(ので、その言い方はあまり信用できない)。
◇ 甲状腺検査は、次の検査まで「2年待つ」のではなく、(これだけ多くの小児甲状腺がんが出て来ているのだから)直ちに追跡検査をしてほしい
◇ 一部の人からは「福島県立医科大学の人たちのことを疑っているのか?」とか「過敏すぎる」などと言われることもあるが、そうではない――。自分の家族に関することだから、あれだけの事故があって、そのように考えるのが当然だ。
◇
当初、福島県立医科大学の関係者らは「チェルノブイリ事故では、小児がんの増加は4年後から」として、いま見つかっている小児甲状腺がんと原発事故との因果関係を否定している。それでは、もうすぐ訪れる〈事故後4年〉経ってからの小児甲状腺がんについては、原発事故との因果関係を認めるのだろうか。それよりも何よりも、それまでの間、私たち大人が、子どもたちを低線量被ばくの危険にさらしたままにしておいてよいはずがない。
6月9日の集会では、〈ふくしま集団疎開裁判〉弁護団からは次のような言葉も聞かれた――「今回の原発事故は、福島の子どもたちにとって、本当に一生にあるか無いかのようなひどい事故だが、この事故をひとつのきっかけとし(て、山村留学等を実現させ)て新しい人生をきり拓いてもらうぐらいのつもりで、私たちも今後のことを前向きに考えている」
〈ふくしま集団疎開裁判〉の弁護団や支援者らの素晴らしいところは、「1mmでも事態を好転させるチャンスがあれば、それに賭けて行動を移していく」というところである。福島の子どもたちを、小児甲状腺がんのみならず、白血病、心臓疾患等から救うために、より多くの人たちの連帯を期待したい。
(了)
都内の地下鉄にて。写真のわきにはこんな文章が添えられている。「とくに、この時期の野菜は彩りも味わいも、とっても豊か!みずみずしくて爽やかで、心も晴れやかになる味わいです」
《関連サイト》
◎〈ふくしま集団疎開裁判〉公式ブログ
http://fukusima-sokai.blogspot.jp/
◎ BMJ〔British Medical Journal〕公式サイト
http://www.bmj.com/
◎ チェルノブイリへのかけはし
http://www.kakehashi.or.jp/
◎ 福島原発告訴団・静岡
http://kokusoshizuoka.wordpress.com/
2013年 6月 20日 00:51
【取材ニュース】 <人権> <原発> <市民活動> <平和>
三上英次
◇◆◇ 「福島に来ないで!」―ある県民からの声― ◇◆◇
その日、東京・新宿にあるアルタビルの大画面には、「みんなで再生させる、ふるさと日本」「がんばっぺ東北」…といった、お決まりの“挙国一致”フレーズが次々にテロップで流されていた。そして、その道路1本隔てたアルタ前広場では、〈ふくしま集団疎開裁判〉のデモ参加者が集まっており、ある参加者のプラカードには、「福島に住んでいるから言います」に続けて次のような言葉があった。
「子供を被曝させたくないなら」
「あなたと家族が被曝で苦しみたくないなら」
「福島に来ないでください」
「福島の物を食べないでください」
福島に住む者が、わざわざ東京まで来て、そのようなプラカードを掲げるのはどうしてか――? ひとつ考えられるのは、国際的な原子力“推進”団体であるIAEAですら、放射能の被ばく許容量を年間1ミリシーベルト迄としているのに、日本政府は、その被ばく基準を〈3.11〉の原発事故後に一気に年間20ミリシーベルトにまで引き上げてしまったという、これまでの経緯だ。
2013年5月18日(土)、デモ参加に際して、ある福島県民が掲げたプラカード。 いわゆる“推進派”の手法は、「がんばっぺ東北」「ガンバレ日本」のように、個々の地域ではなく、被災地全体にアミをかけて一律に「復興!」「がんばれ!」「あなたも応援を!」とかけ声をかけるのである。そして、「低線量被ばく」や「内部被ばく」の危険性、避難の必要性を唱える声を“風評”として位置づけ、「風評被害にもめげずに、福島の人たちはがんばっている」と宣伝する。(撮影・三上英次 以下同じ)
もともと「1時間あたりに換算して0.6マイクロシーベルト」を超えるような場所は〈放射線管理区域〉にしなければならず、そこでは飲食禁止(当然、そこに人が居住することは出来ない)、一部の放射線技師などは職務上やむを得ずに立ち入ってもよいが用が済み次第直ちにそこから出なくてはいけないような場所が、〈放射線管理区域〉というところである。政府は、そういう場所に、幼い子どもをはじめ多くの人を住まわせたまま――住まわせるだけではなく、そこで市民マラソン大会や学校での運動会を開催して“復興ムード”を演出し――、“復興”予算を関係のないところにたれ流し、果ては福島の人たちの〈くらし〉も〈健康〉も、すべて二の次にされているのが、今の福島のありようだ。そんな中で現地の人から「福島に来ないで!」と声があがるのも当然だろう。
◇◆◇ 「緊急避難プロジェクト」都内で始動! ◇◆◇
そのような危険な場所に住まわされ、いまも被ばくし続ける子どもたちをどう救うか――、この難しい問題に対して、6月9日(土)、都内で〈ふくしま集団疎開裁判の会〉による「緊急避難プロジェクト・キックオフ会議」が開かれた。会議には「チェルノブイリへのかけはし」の野呂美加さんが北海道から、「福島原発告訴団・静岡」の長谷川克己さんは静岡県から、その他この問題に関心を寄せる多くの人が東京・新宿に集い、原発問題についてそれぞれ意見を述べた。
弁護団からは、去る4月24日に仙台高裁から出された「決定」を受けて、今後は裁判所の〈仮処分〉を求める裁判ではなく、「行政訴訟」も検討中であること、さらに、「山村留学」のような避難プロジェクトを進めていく方針が示された。
5月19日〈ふくしま集団疎開裁判〉新宿デモ プラカードより。6月9日の集会では、郡山在住の男性から「人々は放射能に対する不安を覚えても、それをおもてに出せない」、「医療界、商工会、そしてメディアが一体となって押さえつけるシステムができあがっている」と報告があり、その男性はそれを【被ばく戒厳令体制】と表現した。
◇◆◇ チェルノブイリ高汚染地区と現在の福島との比較 ◇◆◇
集会では、北海道在住の松崎道幸医師もスカイプ(テレビ電話中継)で参加し、松崎医師は、今月5日に福島の県民健康調査検討委員会で報告された「小児甲状腺がんが(2月の報告時から9名増えて)12人〔平成23度…7人、平成24度…5人〕、その疑いのある者が(同・8名増えて)15人〔平成23度…4人、平成24度…11人〕」という数字について、強い懸念を示した。
松崎医師は、上記検査結果について、「もともとあった癌を早く見つけたのか、それとも原発事故による放射線の影響で癌が増えているのか、慎重な見極めが必要である」としながらも、以下のような事情から、事態が相当差し迫っていることの危機感がうかがえた。
まず、松崎医師は5ミリ以上のしこりが甲状腺に見つかった子どもたちがすでに1000人以上にのぼること、さらにまだ甲状腺に大きなしこりがあっても精密検査で結果が確定していない子どもたちが相当数いることに着目する。そして、今後も6月5日の発表と同じ比率で甲状腺がんが発生すると仮定すると、さらに甲状腺がんの発生数が今の4倍近くになる可能性を示唆した。
また、松崎医師は、山下俊一氏らのグループが〈事故当時10歳以下だったチェルノブイリ近郊の約5万人の子どもたちを対象に、事故後5~7年後に甲状腺超音波検査をおこなった報告〉も紹介した。それによれば、その検査では「1万4千人に1人」の割合で小児甲状腺がんが見つかり〔注:小児甲状腺がんの発生率は通常、100万人に1人と言われている〕、高汚染地域では「4500人に1人」の割合であった。そこから、松崎医師は、まだ不確定要素があることをふまえて言葉を選びつつも「福島の子どもたちに、事故から数年後のチェルノブイリと同程度、あるいはそれ以上の割合で、小児甲状腺がんが発生しているとの仮説を立てることができる」と警告を発した。
実際に、福島では事故から2年経っていない段階での17万4千人のうち、小児甲状腺がんが12名、その疑いのある子どもが15名――つまり最大で27名の子どもたちが甲状腺がんになっている可能性がある。これを単純計算で「がんの疑いの強い15名」を含めて17万4千人(人)を27で割ると約6400(人)。と言うことは、県民健康調査の途中段階で「6400人に1人」の割合で、福島の子どもたちに甲状腺がんが発生していることになる。
◎ 事故からまだ2年、
◎ しかも、いまなお、複数の地域で甲状腺検査が行なわれず、
◎ さらに、次回の検査が2年も先(=ていねいな追跡調査が行なわれず、言わば“放置”された状態)であること――を考えると、松崎医師の懸念通り、いまの福島の小児甲状腺がん発生頻度は、「チェルノブイリ原発事故から5年後の高汚染地区〔注:ゴメリ地区〕」の〈4500人に1人〉に迫るもの」と言えるだろう。
会場写真。会場では「チェルノブイリ事故からいちばん学んで(その戦略を立てて)いるのは、原発推進派だ」という声もあがった。さらに「チェルノブイリでは土地が国家のもので資産補償をしなくて済んだ」「日本中で集団自己破産をするべきだ」「黙っている人たちは推進派と同じ。もっと多くの人が声をあげるべき」等の意見も聞かれた。
◇◆◇ 「検査機器がよくなった」への疑問 ◇◆◇
松崎医師はまた、「チェルノブイリのときよりも、検査機器の性能がよくなって、かつては見落とされていた病巣が見つけられるようになった」といった福島県立医科大学グループからの意見についても、チェルノブイリ事故でピックアップされた「のう胞やしこり」と今回の福島県でひろいあげているものとが同程度のものであることを指摘し、「今回の検査で、とりわけチェルノブイリの時よりも小さい異常を見つけ出しているわけではない」として、そうした意見に疑義を示した。
◇◆◇ 英医学誌『British Medical Journal』から考察する ◇◆◇
被ばくの影響について、松崎医師は『British Medical Journal』という医学専門誌に載った被ばくによる影響追跡調査についても言及した。それは、CTを受けた約1100万人への10年間にわたる追跡調査の結果である。
CTは、1回あたりおよそ「4.5ミリシーベルトの外部被ばく」であるという。同誌によれば、1回CTを受けた子どもは10年間で約20%、CTを3回受けた子どもでは10年間で50%程度、小児がんの発生するリスクが増えることが、その調査からあきらかになっている。
松崎医師は、日本政府の「年間100ミリシーベルト程度では、がんが増えるかどうかわからない」という見解にふれながら、「福島の原発以後、半年程度でCT1回分に当たる4.5ミリシーベルト程度の外部被ばくをしていた子どもたちがいたこと」を考えて、「子どもたちへの今後のていねいな追跡調査」や「北関東のホットスポットエリアに住む人たちをも含めた避難や移住」について「真剣に考えるべき」と会場の参加者に呼びかけた。
今後、「避難プロジェクト」を進めていく上で、さらなる人的支援、財政面での支援が必要となる。〈ふくしま集団疎開裁判の会〉は、ともに活動をするスタッフ等を随時募集中である。
◇◆◇ 伊達市在住の母親からの訴え ◇◆◇
集会では、伊達市に住む母親からも切実な声が聞かれた。
◇ 今までは「100万人に1人」と言われていた〈小児甲状腺がん〉が、福島県であんなにたくさん出ているのに、それを「原発事故と関係ない」という医療関係者の発言が信じられない。
◇ いま目の前で多くの〈小児甲状腺がん〉が出ているなら、どうしてもっとその原因を調べないのか、あまりにも言い方が「ひとごと」である
◇ 福島県民の中にも、医療関係者が言うように「子どもたちの甲状腺がんと原発事故とは関係ない」と言ってもらいたい人もいると思うが、その〈本当の原因〉について知りたい人もたくさんいる。
◇ 県がおこなう健康調査の「機械(の性能)がよい」と福島県立医科大学の人たちはしきりに言うが、検査は1分そこそこ、あっという間に終わってしまう(ので、その言い方はあまり信用できない)。
◇ 甲状腺検査は、次の検査まで「2年待つ」のではなく、(これだけ多くの小児甲状腺がんが出て来ているのだから)直ちに追跡検査をしてほしい
◇ 一部の人からは「福島県立医科大学の人たちのことを疑っているのか?」とか「過敏すぎる」などと言われることもあるが、そうではない――。自分の家族に関することだから、あれだけの事故があって、そのように考えるのが当然だ。
◇
当初、福島県立医科大学の関係者らは「チェルノブイリ事故では、小児がんの増加は4年後から」として、いま見つかっている小児甲状腺がんと原発事故との因果関係を否定している。それでは、もうすぐ訪れる〈事故後4年〉経ってからの小児甲状腺がんについては、原発事故との因果関係を認めるのだろうか。それよりも何よりも、それまでの間、私たち大人が、子どもたちを低線量被ばくの危険にさらしたままにしておいてよいはずがない。
6月9日の集会では、〈ふくしま集団疎開裁判〉弁護団からは次のような言葉も聞かれた――「今回の原発事故は、福島の子どもたちにとって、本当に一生にあるか無いかのようなひどい事故だが、この事故をひとつのきっかけとし(て、山村留学等を実現させ)て新しい人生をきり拓いてもらうぐらいのつもりで、私たちも今後のことを前向きに考えている」
〈ふくしま集団疎開裁判〉の弁護団や支援者らの素晴らしいところは、「1mmでも事態を好転させるチャンスがあれば、それに賭けて行動を移していく」というところである。福島の子どもたちを、小児甲状腺がんのみならず、白血病、心臓疾患等から救うために、より多くの人たちの連帯を期待したい。
(了)
都内の地下鉄にて。写真のわきにはこんな文章が添えられている。「とくに、この時期の野菜は彩りも味わいも、とっても豊か!みずみずしくて爽やかで、心も晴れやかになる味わいです」
《関連サイト》
◎〈ふくしま集団疎開裁判〉公式ブログ
http://fukusima-sokai.blogspot.jp/
◎ BMJ〔British Medical Journal〕公式サイト
http://www.bmj.com/
◎ チェルノブイリへのかけはし
http://www.kakehashi.or.jp/
◎ 福島原発告訴団・静岡
http://kokusoshizuoka.wordpress.com/