44444hit記念萌え。はい、萌えです。
萌え。
「・・・・・・・ ・・・!」
名を、呼ばれたと思った。
だがそれは、自分の名だったろうか?
呉の大都督といわれる人が、乱戦の中、敵の矢を受けた。
・・・自分を庇っての事だった。
幸い大事には至らず、趙雲は胸をなでおろした。
しかし、周瑜のまわりは黙っていなかった。同盟とはいえ、助力を願ってきたのは劉備軍である、との考えを持つ呉の武将たちは、
自分たちの指揮官がその同盟軍のいち武将でしかない趙雲を、身を呈して庇ったことに対し大いに不満を抱いた。
もっともだ、と趙雲ですら思う。
呉の総司令官ともあろうひとが、前線に出て自ら敵兵と白兵戦をやってのけたというだけでも信じられないのに、
そのうえ、人を庇って怪我をした。
庇った相手は自軍の武将ではない。いや、自軍の武将であったとしてもかれは庇うべきではない。かれはこの戦いの総司令官で、
いまや呉の最重要人物であろう。
かれの生死にどれだけの意味があると思っているのか。
今、かれに何かあれば呉も、劉備軍もお終いだろうということぐらい自分にもわかる。
大将は、後ろにいればよい。いや、いてもらわなくては困る。
自分が主と選んだ劉備…大将を守るためならば、自分の命などまるで惜しいとは思わない趙雲にとって、
周瑜の行動は全く理解できなかった。大将を守るために、われらは最前線で戦う。当たり前だ。
その逆などありはしまい。
大将の首が取られればそれで勝敗が決まってしまう。
分らないわけはないだろう。なのになぜ。
自分が、劉備のために命をかける覚悟を持って戦に臨むと同じように、呉の武将たちも周瑜のために命をかけているはずだ。
武人とはそういうものだ。少なくとも自分はそうだ。
自分が守ると決めた大将が、たかが同盟軍の一武将を庇う。
・・・馬鹿な。そんな必要がどこにある?
うちの大将に庇われて、よくも平気でおれるな、ぐらいは思うに違いない。
まだ呉軍に合流して日こそ浅いが、周瑜という将軍と部下たちの結束の強さをみれば、周瑜が兵たちをいかに愛し、
兵たちも周瑜を心から敬愛しているのかは明白だ。
そんな大切な自分の大将に身体を張らせた・・・
刺すような視線も仕方ないだろう、と思う。頼んだわけじゃない、と心で強がってみたが、
ならばあの時自分は飛んでくる矢に気づいていたか?
・・・助けられたのだ。
むろん感謝しないわけがない。しかし、解らないのだ。
意味がわからない。なぜ、自分などを庇ったのだ。
もしも・・・、呉軍の武将を庇って劉備が怪我をしたら、自分はどう思うだろうか。
貴方が庇うことはありません、と言うはずだ。貴方だけは死んではならないのです、と。
それが当然のことだと信じてきたが、その趙雲の当然を容易く覆す周瑜の行動を思うと、それもひどく狭い心のような気がして、趙雲は俯いた。
乱戦を制し、赤壁の駐屯地へ戻るまで、趙雲は周瑜の傍を一瞬も離れず走った。
傷を負った周瑜は、駆けながら密かに(周囲に必要以上に心配をかけぬよう、だろうが)幾度か痛みに顔を歪めていた。
何か言わなければ、と思ったが、何を言い出すこともできず、趙雲は黙って並走することしかできなかった。
そして結局、何も言えぬままに到着してしまった。
楼台から見渡す江の向こう岸には、夥しい数の船が溜まっていた。
これほど多くの船が集まっているところを趙雲は見たことがない。これと闘うというのがどういうことなのか、趙雲には測りかねた。
水戦と陸戦では当然戦法も異なるだろう。
馬を駆けさせ槍をふるい敵をなぎ倒す、というわけにはいかない。
自分にできることなどあるのだろうか、と趙雲は前方の大船団を見遣って茫然となった。
水上での戦いが分らない分、不安は大きかった。しかも、けた外れの大軍だ。
これほどの軍団を相手に、戦をするのか?ほんとうに、勝機はあるのか?
「…で、孔明殿はどう思われる」
周瑜の声で趙雲は我に返った。
眼の前に立つひとは、自分と比べれば幾分小柄だ。
大きければいいというものでないということは、曹操という男を見ても解るが、それでも、この大軍を、
真正面から受けて立つにはあまりに小さい背ではあるまいか?
孔明と周瑜が話すのを、趙雲はほとんど聞いていなかった。
ぼんやりと視界のうちにあったその後ろ姿が、不意に向きを変えた。
急に振り返られて、趙雲の体が周瑜を遮る形になる。
自分の立場を思い出し、趙雲は前を通り過ぎようとする周瑜にどうにか声をかけた。
「―…大都督、」
引きとめられた周瑜が歩を止め声の方へ振り返る。戦のあとの張り詰めた鋭い気を孕んだままの眼に見返され、一瞬圧される。
声をかけたことを後悔してしまいそうになったが、同時に、否応なく目に入ってくる周瑜の鎧に付いたままの血のあとが、趙雲を我に返らせた。
(これは、自分を庇って流された血、だ)
「矢傷は・・・大丈夫ですか」
声が、ふるえたかもしれない。顔も、強張ったかもしれない。
一瞬が、ひどく長い時間に思えた。
「心配ない」
ほんのかすり傷だ、と答えた周瑜の声は,予想していたものよりもずっと柔らかいものだった。
先ほどまでその身を覆っていた張り詰めた気も鋭い眼も、もうそこには無い。
穏やかな笑顔で自分を見つめているこのひとは、本当にさっきまでそこにいた、鋭い気を周囲に漲らせていたあの大都督なのだろうか?
一変した周瑜の気に戸惑いながらも趙雲は、今度こそ何か言わねば、と言葉を探した。
「この・・・御恩はいつか、必ず」
……探したのだが、出てきたのはそんな言葉でしかなかった。
(もっと気がきいたことを言えないのか、俺は)
それは実際、趙雲のありのままの気持ちではあったが、もっと他に言いようがあるのではないのかと思ったのだ。
(・・・俺は、孔明殿のようには、話せん)
思いつめた表情を崩さない趙雲の強張ったままの心情を察したのか、周瑜はほんのわずか真剣な表情に戻り、
趙雲の眼を真っすぐに見つめ言い聞かせるように
「気にすることはない」
と言った。
言って、趙雲の肩の力を抜かせるように殊更軽い調子で腕をぽんぽん、と叩いた。
(気を使ってくれている・・・)
そう感じた趙雲は、その気持ちに応えねばと自分もなんとか笑顔を作ってみた。
(・・・駄目だ、引き攣った・・・)
軽い挫折感を味わったが、それでも周瑜は柔らかい笑顔を返してくれた。
息をのんで見守っていた皆もその笑顔に解されたようだ。趙雲の挙措を刺すように見つめ続けていた甘興も、
周瑜の言葉に気を収めてくれたようだった。
趙雲もようやく、ふ、と息を吐いた。何か、久しぶりに息をしたような気分だった。
趙雲の緊張が解けたことを見てとったのか周瑜は、もう一度笑みを返すとその脇を通り抜けた。
…通り過ぎる瞬間、周瑜が柔らかな表情から厳然たる総司令官の顔に戻ったのを、趙雲ははっきりと見た。
勝利の歓声を上げる兵たちに片手を高く掲げて応える周瑜の姿にはもう、先ほどの柔らかさの面影もない。
近寄りがたいとさえ思える、圧倒的な威風を纏っている。そしてその彼が放つ気に煽られるように兵たちの歓声もまた高くなっていくようだ。
大きい、と思った。
つい先ほどまでは、小さい背中だと思って見ていた。それがこのように大きく見えるとはどうしたわけだ。
そして・・・なぜこのように自分をも高揚させるのだ。
体中の血が、自分の預かり知らぬところで勝手に沸騰しているようだった。
惹き付けられる。そうだ、惹きつけられている、自分は。今、このひとに。
歓声を収め、兵たちに労いの言葉と祝いの振舞い酒を赦し、周瑜は楼台を後にした。
傷を心配した程普将軍たちがその後を追い、なにか一言二言文句めいたことを言いながら、周瑜を医務局へと急がせているようだが、
周瑜自身はまるで意に介していないようだ。
趙雲の傍を通り過ぎようとするとき、驚いたことに周瑜はもうあの柔らかな表情に戻っていた。
本当にもう気にするな、と趙雲の肩を叩き、食い下がる部下たちの苦言に対しては「次からは気をつけるよ」
と言って笑うと、さっさと邸へ帰ってしまった。
「次などあってもらっては困ります!」と、誰かが文句を言っていた。まったくだ。
55555hit記念萌えに 続く。(えっ)
そこ、もう少し詳しく!!もうちょっと突っ込んで!! と思ったんです!それだけなんです!(笑)
いやもう、文章書くって難しかったです・・・・(笑)