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Retro-gaming and so on

シンセサイザーと言えば・・

龍虎氏の記事を読んでたんだけど、

「あれ、超人戦隊バラタックって何だったっけ?」

とかなってた(笑)。
聞いた事があるような無いような・・・・・・。ぶっちゃけ印象が薄い(笑)。
んで、調べてみたら、鋼鉄ジーグの後番組の後番組だったんだな。へぇ、と。コンセプトは同じ「磁石で合体するロボット」で、要は玩具メーカーであるタカラ(現タカラトミー)とのタイアップで作られている。「商品展開」が先に来ていて、言っちゃえばその宣伝目的として作られたアニメの一作だ。
ただ、スタッフが大幅に変更されていて、特に個人的には、作曲家の渡辺宙明センセが外れているのは至極残念だ。


渡辺宙明。大正生まれ(!)で2022年に亡くなる。「人造人間キカイダー」「マジンガーZ」「秘密戦隊ゴレンジャー」等の音楽で有名な人。人呼んで「特撮音楽の神様」。

日本だとシンセサイザーの第一人者、と言えば「富田勲」って答える人が多いだろう。1971年にMoog III/Cと言うモジュラーシンセを購入し、第一線を走ってきた人だ。


手前の木製ケースでコードがたくさん差し込まれてるのがMoog III/C。通称「タンス」。

しかし、ほぼ同時期(恐らく富田勲が購入したすぐ後)にシンセサイザーを購入している作曲家がいる。それが渡辺宙明氏だ。
渡辺宙明センセは富田勲と違って、確かMini Moogと言う機械を購入してる。世界初の「ライブ用」シンセサイザーだ。


Mini Moog。言わば今のシンセサイザーの原型となったマシン。

大正生まれなのにシンセサイザーに抵抗がなかったのか、っつーと多分なかった人なんだよな(笑)。
と言うのも、この人、キャリアは実は映画音楽でスタートしていて、映画音楽で電子楽器を使うのは別段不思議じゃなかったんだよ。具体的には特にホラー映画だ(笑)。
例えば1960年代の邦画のホラーの鉄板と言えば東海道四谷怪談とか(笑)だけど、いわゆる人魂の効果音、とかで主に使われてたのがテルミンとかオンド・マルトノと言われる電子楽器だ。


テルミン


オンド・マルトノ

渡辺宙明センセ作曲、ではないがウルトラQのテーマ曲。時々挿入される「ヒヨヒヨヒヨ」的なSEがテルミンあるいはオンド・マルトノの音で(どっちかは不明・※1)、いずれにせよ、こういう「人魂系効果音」にはこれらの電子楽器が使われていた。

んで、繰り返すけど、渡辺宙明センセは元々こういう「映画音楽の世界」の人なんで、特に電子楽器に抵抗はなかった筈なんだよね。
それでついついMini Moogを買っちまった、と(笑)。

1970年はシンセサイザーの歴史としては1つ目の分水嶺だったんだ。
前にも書いたけど、元々シンセサイザーはあくまでスタジオ内で作業する楽器として設計されてる。世代的には富田勲氏の方が遥かに若いんだけど、言っちゃえば富田勲はシンセサイザーのコンセプト的に言うと渡辺宙明センセより「前の世代」の発想の人なんだ。
この「スタジオ用シンセ」をライブに持ち込んだのがEL&P(エマーソン・レイク&パーマー)と言うイギリスのロックバンドでキーボードをプレイしてたキース・エマーソンで、かつEL&Pは1970年にデビューするが、それ以前からMoog社のシンセサイザーのモニターをやっていたらしく、「初のライブ用シンセサイザー」Mini Moog開発に助言を行ってたらしい。


エマーソン・レイク & パーマー。3人組のバンド(キーボード、ベース、ドラム)でなんとギターレス。バンド名はメンバーそれぞれの名字で、日本風だと「細野、高橋、そして坂本」的ななんともはやなアレ、だ(笑)。

なお、このキース・エマーソンが角川初のアニメ映画、「幻魔大戦」のサウンドトラック(の半分)を作った人だ。この人はこの時代には日本のKORGのシンセサイザーのユーザーになっていて、KORGの販促用ビデオで、映画「幻魔大戦」のサントラから二曲を演奏している。多重録音なんだけど、キース自身が「幻魔大戦」の音楽を奏でる、と言うかなり貴重な映像となっている。

キース・エマーソンの書く「メロディ」はかなり不可思議なラインになっていて、モロに近代あるいは現代音楽的な「調性がハッキリとしない」モノになっている。そしてヴォイシングも独特だ。なお、ここで主に使用されている楽器はKORG Mono/Poly、KORG Polysix、そして海外仕様のKORG TRIDENT MK IIの三台だ。


KORG Mono/Poly

KORG Polysix

KORG TRIDENT MK II

さて、1960年代のアート・ロックから1970年代前半のいわゆる「プログレッシブ・ロック」(キース・エマーソンの音楽もここに含まれる)になるに従って、ロックは複雑化するんだ。特にクラシック音楽の影響を受け重厚長大化し、テクニシャンの為のテクニカルな音楽へと変わっていくんだよ(端的に言うと1970年代後半に起きた「パンク・ムーヴメント」は音楽的にはこの潮流への反発、だ)。
結果、ポピュラー音楽、って意味でのポップスとしてはロックは市民権を失っていくんだ。それまでは「軽いノリで聴けた」音楽だったんだけど、この時代は「マジメに"鑑賞"せねばアカン」音楽に変わっていた。
特に「ステージに上がった」シンセサイザーは結果イメージがあんま良くなく、当時は「恐竜バンド」(※2)の使うツールって印象になってたんだ。
「シンセサイザーを使うとポップにならない」と。要は「富田勲な」使い方がシンセの正統な使い方であって、ポピュラー・ミュージックにはそぐわない、ってカンジだったんだよ。
実際、1970年代初期までのシンセサイザーを使ったヒット曲って「ポップコーン」くらいしかなかったんだ。

恐らく聴けば誰でも「知ってる!」って言うだろう曲、ホット・バターの「ポップコーン」(1972年)。なお、これはカヴァー曲で、オリジナルは1969年のガーション・キングスレイに依る曲。

そんな状況で、1974年にドイツのクラフトワークが「シンセサイザーを使ったポップスの可能性」を世に問うわけだが。
しかし、前にも書いたが、ポップコーンが「大ヒット」してた1972年、つまり同時期に、「プレ・テクノ」にも関わらずテクノを既に演ってた音楽家が日本にいた、って言って良い。
それが渡辺宙明センセだ。
これはすげぇ事、なんだよ。
あくまでサウンドトラックの話になるんだけど、1972年の「人造人間キカイダー」の変身シーンで流れる音楽を聴いてみろ。ビックリすっから。


テクノだろ(笑)?しかも音質的には1990年代に入ってからの「スタティックな」、アンビエントなテクノを彷彿とさせるサウンドだ。

明らかに、年齢は富田勲氏よりも上にも関わらず、シンセサイザーの「使い方」としては渡辺宙明センセは「次の世代の人」なんだよ。

渡辺宙明センセは天才だ。良く1972年時点でこんなサウンドを「Mini Moogで」作り上げたよな、と。時代を20年くらい先取りしてやがる(笑)。
そしてシンセサイザーを「使いこなして」いる。
恐らく和音部分はハモンドオルガンにエフェクターをかけて録ったモノだと思ってるんだけど、無機質に鳴ってるバスドラムなんかもMini Moogなんじゃないか、とか思う(そもそも「ドラムマシン」が当時はまだ存在しない)。要はサウンドの殆どをMini Moogで作り上げて多重録音してて、「機械らしさ」を演出してんだ。
言っとくけど1972年だ。パソコンは無い(笑)。自動演奏装置なんつーのもまず無かった時代なんで、そんな時にこういう「機械くせぇ」サウンドを作れてた、って事なんだよな。
繰り返すけど、渡辺宙明センセは天才だし、先進的で、殆どオーパーツのような人だと思ってる(笑)。

まぁ、渡辺宙明センセの作る曲ってのはある意味「ワンパターン」って言えばワンパターンだ。後のニュー・ミュージックブームで出てきた作曲家なら「個性」って言っていいんだけど、職業作曲家としてはある種致命的とは言えるんだよね。「カラーが出過ぎてる」。
それでも、例えば「鋼鉄ジーグ」の主題歌とか、全部が全部「美味しすぎて」たまらない。どこを取っても無駄なトコが無いクセに遊び心が満載、って、アニメ音楽主題歌だと全部考えても1〜2位を争うような「楽曲のデキ」だと思う。


良く「歌詞がヒドい」ってぇんでお笑い対象として取り上げられる事も多いこの曲なんだけど、いや、色々「詰め込まれてて」聴きどころ満載、っつっていい曲だと思う。っつーかむしろ聴きどころしかない
Mini Moogの出番は「ビルドアップ!バンバンバンバン」って二回奏でられるフレーズの後ろだ。キューン、とか鳴ってるヤツ。如何にも「ロボットです凄いでしょ」なサウンドで、こういう「遊び心」が宙明サウンドの一つの特徴だった。ガンガンMini MoogのSEが入ってくるんだよな。
いや、この人多分SE好きなんだよね(笑)。ティンパニとかもガンガン入れる、ってのがこの人のサウンドの特徴なんだけど、それもやっぱある意味SEなんだよ。「鋼鉄ジーグ」だと他に、エレキギターでさえハワイアンギターみてぇに加工されてて「なんでやねん!?」とツッコミたいサウンドになっている(笑)。いや、だから遊び心って言っただろ(笑)?「マジメに遊んでる」んだよな。
編成も随分と大掛かりだ。いや、当時の曲だと不思議じゃないんだけど、それでもこれ再現する、ってばどうなんだ、って編成だよな。ブラスもあるしストリングスもいる。ダン池田とニューブリード、って規模じゃないと演奏出来ないだろ(笑)。どーすんだ、これ(笑)。
当時だと割にあったんだけど、短調->長調->短調って曲の構成になっている。こういう「凝った構成」って今じゃ見かけなくなったよなぁ。そして最後のサビに入る前の「転調」部のストリングスがまたカッコいい。B♭->Bって移動するヤツ。この辺の緊張感の煽り方がまたタマラン。
オープニングのブラスがまたカッコいい。特にダンダダダダンってスキャットに入る前なんだけど、コード的にはE♭7->A♭7->G7sus4->G7って流れになってんだけど、そもそもその最初のE♭7ってブラスの最高音であるCとぶつかってんだよな(笑)。

  • E♭7の構成: E♭-G-B♭-D♭
E♭7の最高音はD♭、つまりCと半音で隣り合ってるし、E♭7の構成音じゃない。ハッキリ言えばここは不協和音なんだわ。ところが宙明センセのサウンドだと割にこういうヴォイシングをヘーキでやってて、そこがまた「宙明サウンド」の要だし、かなりモダンな響きになってんだ。
ハッキリ言うと近代音楽や現代音楽、そしてジャズのやり方だ。ガキになんてモン聴かせやがるんだ、ってくらい「本気の」コーディングだ。宙明センセはガキ相手でも容赦しない(笑)。「チューリップ」みたいな単純な構成の曲はまず書かない。
G7sus4なんつーのも凄い選択で、いわゆる「テンション」を形成する。

  • G7sus4の構成: G-C-D-Fと言う構成でCとDが「ぶつかっていて」ここも不協和音

ここまでで「タメ」て、G7で開放、と。こういう事出来る人って少なくなったよなぁ。
いずれにせよ、この部分は半分は「不協和音」で構成されていて、それにも関わらずカッコいい。たまんないんだよ。っつーか俺の耳は宙明サウンドで育てられている(笑)。
ベースもカッコいい。誰やねん、このプレイヤーは、ってほどカッコいい演奏だ。当時はこのテの音楽だとクレジットが無かったから勿体ないよなぁ。凄いプレイヤーだし、このノリはホント凄いと思う。また、こうやってベースが遊べるのも、「楽曲の完成度」が桁違いだから、だ。
鋼鉄ジーグのテーマ、マジで音楽的完成度はかなり高い曲だと思ってる。ついついボーカルの水木一郎だけに意識が行くかもしんないけど、ホント、隙が無いくらい完成度が高くって「色々と詰まった」楽曲なんだよ。

と言うわけで、シンセサイザーを積極的に取り込んだ偉大な作曲家、渡辺宙明センセの代表作「鋼鉄ジーグ」を振り返って、この項は終わる事とする(※3)。
ご清聴、あんがと。

※1: ・・と言うのも、オンド・マルトノ自体がテルミンの「改良版」として設計された経緯があり、回路構成等も基本的にこの2つは変わらない。

※2: いわゆるプログレッシブロックの「重い」「デカい」音楽を奏でるバンド、の意。当時のプログレッシブロックだと「アルバムは二枚組」、「一曲でLP片面全部を使った曲」(つまり、演奏時間が20分を超える・笑)とか、フォーマットがとんでもない事になっていた(笑)。

※3: ちなみに3番のラスト、「科学の力だ」ってのがカッコよくって、ガキの頃、「科学の力って凄いんだな」とか刷り込まれた(笑)。科学賛歌だ(笑)。
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