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Retro-gaming and so on

悪霊島

ハリソンさんが映画「この子の七つのお祝いに」で盛り上がっている(笑)。
懐かしい(笑)。

さて、こっちの方でもちと説明しておこう。いや、「この子の七つのお祝いに」そのものの話じゃあない。当時の角川映画のちとした「揺らぎ」の話だ。

角川書店が手がけた角川映画、と言うのは、そもそも作家・横溝正史の作り上げたキャラクター、金田一耕助を主人公とした(怪奇趣味の)ミステリ映画を軸として発展してきた。
これが間違いない事実だ(※1)。
ところが1980年辺りを境に、角川書店は「横溝正史以外の映画の軸になりそうなもの」を探し始める。
別に角川書店が横溝正史を見限ったわけではない。単に横溝正史が(当時既に)高齢だった為である。
そこでポスト横溝正史を育てる為に1980年に審査員に横溝正史自身を迎えた横溝正史ミステリ&ホラー大賞を創設する。これの第一回受賞作が「この子の七つのお祝いに」だったのだ。

なお、角川の予想通り、ってワケでもねぇんだろうけど、横溝正史は横溝正史ミステリ&ホラー大賞設立の翌年、1981年に亡くなる。
んで、「この子の七つのお祝いに」のストーリーがどーの、ってワケじゃないんだけど、正直言うと、横溝正史を失った後の角川映画、は精彩を失っていく。っつーかやっぱ「映画製作業は横溝正史と言う中心柱があったからやってられたんだよなぁ」と言う印象だ。暫く角川映画は横溝正史作品に代わる「ポスト横溝正史作品」を探してたような気がするが、正直その辺は上手く行ってなかったような気がするんだよな。
そう、「この子の七つのお祝いに」に続いて何本か「ポスト金田一耕助」を目指したような映画を撮る試みが成されたんだが、ぶっちゃけ、あまり性交成功した印象がない。どれも単発で終わってるし。
やっぱ横溝正史は特別だったのだ。そして金田一耕助も唯一無二の存在だったのだ。
そうそう簡単にこのポストなんざ探せなくて当然だったのである。

さて。映画「この子の七つのお祝いに」。
ハリソンさんのブログでも色々書かれてるんだけど、正直言うと、ミステリとしてはサイテーなのね(笑)。Who is killing the Great Chefs of Europe?と同じくらい酷い(笑)。
何故か。もう岩下志麻が出てきた時点で「こいつが犯人だ」って分かるから、なんだよ(笑)。
なんつーんだろ、たとえばミステリです、って宣伝した映画があって、出演者の中に佐野史郎がいたら、そいつが犯人で確定だろ、ってくらいあからさまなキャスティングなんだよな(※3・笑)。大体、極道の妻なんで、人殺すくらい平気だろうし(※4)。
んで、「この子の七つのお祝いに」って何だろね、単純に言うとホンマそのまんま岩下志麻の映画、なのね。この人の不思議な存在感、ってのがキーポイントになってて、出オチで犯人が分かろうとなんだろうと、この人抜きじゃ成り立たんでしょ、って映画になってると思う。

そもそもだ。岩下志麻って女優自身がかなりミステリアスな存在なんだよな。
実の事言うと、僕が大好きな女優なんですが。



この人、若い時見ても分かるんだけどメチャクチャ美人なんだよ。顔もメチャクチャ小せぇしな。
ところが、不思議な事に、美人なんだけどアイドル性がねぇって言っていい人なんだ。この人の何歳かの年下に、亡くなった美人の代名詞、大原麗子とか、あるいはタモリが大好きな吉永さゆりなんかがいるんだけど、そっちの2人は割に騒がれてたイメージがあるだろ?ところが岩下志麻にはそういう「志麻ブーム」ってのがまるで無かったようなカンジなのね。聞いたことがない(※5)。
だってさ、同じように岩下志麻のちょっと年下にウルサイおばさんの代名詞的だった加賀まりこなんかもいる。彼女もちょっとチャーミングで不良なカンジの「アイドル」として持て囃された時期があるわけなんだけど、そういうものも岩下志麻には全くと言って良いほど無いんだ。
言い換えると謎の美人が岩下志麻なんだわ。そして、消え去る事もなく、いつの間にやら「中堅女優」としてそこそこの異彩を放っていた、と言う。
マジで謎の存在でこんなヤツ他にはいねぇだろ、ってカンジなんだよな。だってドラマにでも殆ど出てこない。でも映画で出るといきなり異彩を放つ、プライベートは謎に包まれている、と。
ぶっちゃけ、仮にガラスの仮面の月影千草が実在したとしたら、吉永さゆりでも大原麗子でもなく、圧倒的に岩下志麻だろう。美人なだけじゃなくって存在感が桁外れなのだ。そして言っちゃえば、彼女はアイドル性なんつー「軽はずみさ」とは縁がない。そう、岩下志麻の存在感から言うと彼女は圧倒的に重いんだよ。

そんな彼女だけど、1982年制作のこの角川映画で、唐突に(裏の)主役を演ったわけではない。
前年に公開された角川映画で、彼女はその「隠された」エロスを武器にやっぱり「裏の」主役を演じてる。しかもネタバレ覚悟で言うけど金田一耕助が追い詰める犯人で、だ。ここでも岩下志麻は、ハッキリ言うとイッちゃった犯人を、それこそ嬉々として演じている。
んで、ネタバレ・・・っつーかハッキリ言うけどネタバレになってないだろ(笑)。ここでもキャストに名を連ねてるだけで犯人ケテーイなんだよ(笑)。もう宣伝ポスターがそもそもネタバレになってる、っつーの(笑)。
その映画を「悪霊島」と言う。横溝正史最後の作品であり、角川映画の横溝作品としても最後の作品だったんじゃないだろうか。
前フリで書いた通り、角川のドル箱、金田一耕助の推理モノの1つであり、そしてこれを最後に角川映画はポスト金田一耕助映画を探しに迷宮へと迷い込んでいくのである。
そして要するに、金田一耕助と対峙した「最後の犯人」を演じたのが、天才美人女優、岩下志麻なのだ(※6)。

正直言うと、この映画自体は横溝正史ファン・・・原理主義的な?人たちにはあまり評判が良くない。そもそも「悪霊島」って聞いた事がある人でも誰が金田一耕助演じたんだか全く印象にないんとちゃうんか、って思う(※7)。



そう、ところが岩下志麻だけは誰でも一回で印象に残るんだわ。この映画も岩下志麻の映画なの。



しかも、当時のオッサンを喜ばせたのは、岩下志麻のオナニーシーンが見れる、と(笑)。確か当時の週刊ポストなんかでも特集記事組まれてたんじゃなかったっけ(※8)?






大女優なのにこういう役柄でもヘーキで請けるのが岩下志麻の怖さなのである
そしてエロいだけではない、なんかこいつヤバいってのが観客にも良く分かるのだ(※9)。

そう、悪霊島は、実のトコ言うと金田一耕助もクソも関係なく、岩下志麻を楽しむ映画である。シャムの双生児のミイラとか何とか、横溝正史らしいおどろおどろしいギミックも登場するが、それも関係ない。何故なら岩下志麻が一番おどろおどろしいからである(笑)。




この子の七つのお祝いに」を楽しんだ人は是非この「悪霊島」も観て欲しい。
そして岩下志麻、と言う女優が如何に優れた女優なのか味わって欲しいと思うんだ。
これだけ「狂いっぷり」ってのを体現出来る女優なんつーのはなかなかいないと思う。
是非とも岩下志麻の「希少性」を味わって欲しい。
日本には、岩下志麻がいてくれてよかった、と僕なんかは思っている。

※1: 正確に言うと、それ以前は「お堅い(ぶっちゃけ、岩波書店と同類だと思われていた)出版社である、角川書店の一般認知度を上昇させた、と言った方がいいかもしれない。
しかし映画として見ると、金田一耕助シリーズは映画会社にとってはドル箱であったのは事実だが、実の事を言うと、「金田一耕助」のフランチャイズと言うのは一社に限った話ではなく、東映・東宝・松竹全部がそれぞれ関わっている。
「祟りじゃ」のCMで有名になった「八つ墓村」は松竹がライセンシー、そして一番有名な「石坂浩二」のシリーズは、最初の「犬神家の一族」だけは角川制作なのだが、2作目(悪魔の手毬唄)、3作目(獄門島)、4作目(女王蜂)、5作目(病院坂の首縊りの家)は東宝主導で制作されて、角川映画扱いになってるが、実は厳密には角川映画ではない。
そして残りの映画は東映と角川が組んで作っていて、数年(70年代後半から80年代初期)の間、全く別々の映画会社が同時期に「金田一映画を撮っていた」わけで、当時の金田一バブルがどのくらい盛り上がっていたのか良く分かるだろう。

※2: こっちの探偵役「浅見光彦」はすっかりテレビの2時間観光地ミステリの常連になっちまったが、その映画が制作された当時は、角川映画で「ポスト金田一耕助」としてメチャクチャ期待されてた探偵主人公だった。

※3: 佐野史郎は「警察の役」なんかもあるんだけど、「出てきただけで怪しいキャスティング」と言う印象が昔はもっと酷く、名作ドラマ「沙粧妙子−最後の事件−」なんかは、ストーリーは確かに面白かったんだけど、実際、殆ど出オチだった(結局ドラマ上も最後の犯人だった)。

※4: 大嘘(笑)。と言うか岩下志麻の当たり役でシリーズ化された「極道の妻達」は1986年に第一作が制作されたので、実はここで取り上げた映画よりもあとの映画である。

※5: あったのかもしれんがマジで聞いたことがない。僕の世代だとそういう「現象」があった、ってのは全く聞いたことないんじゃないか。
岩下志麻より一世代年上の美輪明宏でさえ、当時の腐女子(笑)にキャーキャー騒がれていたのを「知ってる」のに、岩下志麻に関しては全く知らんのだ。

※6: 厳密に言うと、この後、映画としては「八つ墓村」のリメイクや「犬神家の一族」のリメイクがあるが、「純粋な新作」と言うのは「悪霊島」以降は無いはずだ。

※7: 多分、鹿賀丈史が一躍有名になって一般認知度が上がったのはこの映画「悪霊島」で金田一耕助を演じてから、だろう。それまでは無名の役者、だと言って良かった。
しかしそれでも、映画の印象では岩下志麻に完全に食われているのである。
なお、石坂浩二ではないので、当然東宝制作ではなく東映絡みの映画だ。
 
※8: 80年代当時の週刊ポストも週刊現代も「マジメなだけ」の雑誌ではなく、グラビアにヌードが踊ってるような、まさしく「雑誌」だった(色んな記事が載ってるから「雑多な物事を纏めたモノ = 雑誌」と言うのである)。

※9: だから犯人がすぐ分かるのだ(笑)。
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