Stelo☆ panero

変態ですがよろしくお願いします。更新は気分次第、気の向くままに。新題名は、エスペラント語で、星屑という意味だったり。

【風船魔導士 クオラ】 第九時限目 弱肉強食とかヒトが決めた枠組みですから3

2016-07-26 02:00:07 | 妄想小説
1)

 クオラは、目の前の光景に戸惑っていた。
 双頭の竜が目前で暴れていて、首同士が、言い争いでもしているかのように吠えながら、絡み合ってる。
 正確に言うならば、左の首が口から何かしらのブレスを吐いて、辺り一帯を無に帰そうとすると、右の首がそれを阻止しようと噛みついて、
それに怒った左の首が、右の首にブレスを吐いているという、どうにも、ややこしい状況に、クオラは相棒の風船タフィに相談することにする。

 「 ねぇ、タフィ。一応、言われるまま、来てはみたんだけれど、あれ…、何?」

 街から数キロ離れた森の奥に、ぽっかりと開けた草原に、親友のアイリスとニュベリア教のシスターが連れ立って入っていったらしいという
話を、門番のおじさんから聞いて、来てみれば、この訳がわからない状況である。

 「 あぁ、あれは、ズミューアだねぇ。ああやって、左右の首で死ぬまで争っているのよ。」

 「 ………。変なモンスターもいるものねぇ。」

 先ほどから、ここを中心に半径数キロのエリアで、天候が目まぐるしく変わっている。いきなり、砂漠のような暑さになったかと思ったら、
数分もすれば、ゲリラ豪雨が降ったり、そうかと思えば、豪雪になったりと、天候の神様に申し訳ないくらい忙しい。
 あまりの異常気象に、クオラとタフィは、ズミューアが争っている草原に、ぽつんと一つ開いている、近くの洞窟へと雨宿りをして、
どうしてこうなったのかを、思い返していた。

2)
 事の起こりは、三人で街へ遊びに行ってから数日過ぎた夏日のことだった。
 クオラが、テストの赤点による単位不足のため、夏期講習を受けていると、領地に帰省中のリルルから、
友人のアイリスが行方不明らしいと知らせが入った。
 リルルの領地は、アイリスの国と国境線を接しているため、夏休みには一緒に帰省していたらしいが、
今回に限って、一緒になることはなかった。エレカ端末で連絡しても、繋がらないので、異常事態と思って、
手がかりを探すために、クオラにも連絡を入れたらしいとのことだった。

 「 どういうこと?」

 確か、三人で遊びに行った翌日にあった一学期の終業式には、出席していたはずだ。クオラの隣の席だったから、それは覚えている。
 そこから夏休みに入って、クオラは夏期講習に、リルルとアイリスは、実家に帰省するからと寮を出て行ったのも覚えている。

 「 そういえば、寮の玄関で見送ったんだっけ…。」

 魔法理論がびっちりと板書された黒板を眺めながらクオラが独り言をつぶやいていると、タフィが念話で割り込んできた。

「 とりあえず、門番のおじさんに尋ねてみたら?」

 「 そうね。それが確実だわ。とりあ、講習終えてからね。」

 心配ではあるが、自分の進級もかかっているので、講習が終えた後、タフィもつれて捜索することにしたのだった。

3)
 アイリスの行方は意外とあっさりと判明した。
 馴染みがある門番のおじさん、バクスメイヤー氏の談によると、

 「 あぁ、その子ならよく覚えているよ。なにせ、目立っていたからね。
   確か、白衣のシスターと連れ立って、口論しながら、裁断の森の方へ向かったよ。」

 「 裁断の森?大変!禁忌の土地じゃないですかぁ。」

 「 あぁ、昔は何でも、訴訟の解決に使っていたらしいけどな。
   今でも解決できない問題があると、国の許可を得て行くことができる。」

 「 それじゃあ、簡単には行けないですねぇ。」

 「 あぁ、でも、嬢ちゃんの友達だかが、森に向かったとも限らねぇけどな。
   そちらの方角に行ったってだけで。」

 「 そうですかぁ…。困ったなぁ。」

 二人して、顔をしかめて、唸っていると、バクスメイヤー氏が思い出したように、

 「 そういえば、聖職者なら、森に行く許可も出たはずだなぁ。嬢ちゃんの友達の連れが、シスターだったし。」

 と、ぽつりとつぶやいた。クオラは、その話しを聞いて、表情を明るくさせる。

 「 ほんとですかっ!」

 「 あぁ、間違いねぇ。しかしな…。」

 「 ん?」

 「 いや、嬢ちゃんは、その子を探してるんだろ?嬢ちゃんは、森に入れないよ。一般人だからなぁ。」

 すまなそうな表情をしているバクスメイヤー氏に礼を言って、クオラは一旦、門番の駐留所から離れた。

4)
 門から離れて、クオラは、路地裏に入ると、その脇を、ふわふわとタフィがついていく。

  「 ふふふ…。これの出番ね。」

 その手の平には、しぼんだピンクの魔法の風船が乗せられている。

  「 それって?この間の、ファウナリアのときの?」

  「 うん、ファウナリアを倒した後に残っていた風船さん。」

 クオラが、前の戦いのときに、こっそりと回収しておいたらしい。その風船を見て、タフィが慌てだす。

  「 えぇっ!まさか、ふくらましたら、エロエロクオラちゃんになっちゃうのぉ。女の子の下着、集めたりしちゃうのぉ。」

  「 な、ならないわよっ!たしかに、アイツは、そうゆうヤツだったけど。
    これは、そんな効果じゃないのぉ。見てて。」

 そう言って、クオラは、タフィにウインクしてみせると、息を吸い込んで、風船の吹き口に愛らしい口びるをつけ、息を吹き込みはじめた。

5)

 すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
 すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~っ!!!!
 すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
 すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
 すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
 すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
 
 クオラが、ピンクの魔法の風船に、吐息をこめて、ふくらませている。
 彼女の背丈を超えるころには、クオラの正面にある風船の膜に、大きな魔方陣が展開された。

 すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
 すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~っ!!!!
 すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
 すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
 すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
 すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!

 更に膨らませていくと、スキャナーが情報を読み取るように、魔方陣が後方のクオラへ輝きながら迫っていく。
 そして、クオラに接すると同時に、彼女を光の繭に変化した魔方陣が包み込み…。

6)
 バクスマイヤー氏は、目の前の二十歳くらいの聖職者の恰好をした女性に、不思議に思いながら、森に行く許可証を発行した。

 「 ありがと。」

 にっこりと女性は、誰でも虜にしそうな笑みを浮かべ、許可証を受け取ると、駐留所から出て行った。

 「 はて?この街にあんな美人、居たっけか?……、まぁ、いっか。美人だったし。門を抜けても。」

 バクスメイヤー氏は、謎の修道女を見送りながら、門番らしからぬことを言い放った。

7)
 謎の修道女は、森に入ると杖に見せかけていたピンクの風船の空気を抜いた。

 ふしゅぅぅぅっと、風船がしぼむにつれ、修道女の姿も陽炎のように変わっていく。

  「 ふふんっ、どうよ。」

  「 すっごぉ~ぃ。クオラ。さすが、【変化】とは思わなかったわぁ。」

 宙からクオラの元に降りてきたタフィが、感心したようにクオラを褒めちぎった。

  「 エロエロクオラちゃんじゃなかったでしょ?」

  「 でも、ぼいんぼいんのところは、そうだったじゃない。お姉さん、負けると思ったわ。」

 そんな軽口を言いあいながら、クオラはアイリスとシスターを探して、森の奥の開けた場所で、問題の竜に出会ったのだった。

【つづk】

【風船魔導士 クオラ】 第七時限目 弱肉強食とかヒトが決めた枠組みですから2

2016-04-23 23:15:47 | 妄想小説
1)

 クオラたちは、新興宗教の勧誘らしい、純白のローブを羽織った清楚な雰囲気の少女を撒いて、路地裏に入っていく。
 はぁはぁと息を少し切らせながら、何とはなしに空を仰ぐと、四方から商店の屋根に取り囲まれ、切り取られた青を横切る一条の雲が見えた。

  「 あ…。変わった雲。なんだろ?」

 それは、クオラにも、見たことのない雲だった。
 クオラの右隣りで、同じように空を見上げていた親友の一人が、訳知り顔で得意げに、クオラに語りかける。

  「 あぁ。あれは、カノン…、なんだっけ?」

 と、彼女の右後ろから二人についてきた長い髪をポニテに束ねた大人びた少女に、フォローを求めた。

  「 珍しいわね。あれは、カノンフリューゲルね。」

 その少女は、好奇心に瞳を輝かせながら、クオラに話しかけた。

  「 何?そのカノンなんとかって?」

  「 なんでも、最近発明された空を飛べる乗りものらしいわ。魔素圧縮砲のマギオカノンを応用してるらしいけど…。」

 マギオカノンというのは、魔素を極限まで圧縮した光弾を打ち出す魔素機関を応用した兵器で、先の大戦では、ただの一発で絶対不利な戦局をかえたという代物だった。

  「 よく知ってるわね…。アイリス。マギオカノンとか、極秘っぽい内容なのに。」

 アイリスと呼ばれた大人びたポニテ少女は、クオラのあきれたような問いかけに、満足したのか、クオラの左横に並び、話を切り出した。

  「 私の本家が、技術立国のフメルティア公国なのは、知ってるでしょ。
    せっかくの技術を戦争だけに使うのも不毛だからって、お兄ちゃんが先頭に立って開発したのよ。
とは言っても、まだまだ実用化にはほど遠いけど。でも、珍しいわね…。公国の外で、あれを見るなんて。」

  「 えっ?あれって、アイリスのお兄さんが発明したの?すっごぃ。すっごぃねぇ。リルルん。」

 クオラが、アイリスの話に感心して聞き入って、彼女の右隣に並んで歩いていたリルル・ラルル・リルルに同意を得ようと、話題を振ったのだが、

  「 あれ?リルルん?どこに行ったの~?」

 隣に居たはずのリルルが、いつのまにか、居なくなっていた。
 きょろきょろと辺りを伺いながら、リルルの姿を見渡してみると、先ほど撒いた純白のローブを羽織った少女の前に、リルルが居た。

2)

 クオラとアイリスが、リルルの傍まで近寄ると、彼女は珍しく興奮した様子で、ローブの少女の演説に聞き入っていた。

  「 何度も言いますように、弱肉強食とか、人が決めた枠組みですから。人は、それを破ることもできるはずです。
    弱い者が、強き者の贄(にえ)となる今の世界は、楽園を望まれた神のお創り給うた世界と、かけ離れてしまっているのです。
    我が教祖、ニュベリア様は、憂いました。どうすれば、この弱肉強食の修羅の世界に、楽園を作ることができるのだろうかと。」

  「 ふむふむっ。」

 なんだか、顔を赤らめてリルルは、修道女らしい少女の演説に耳を傾けているようで、クオラとアイリスが近くまで寄っても、まるで気づきもしていない。

  「 ずいぶん、あの子は、熱心に聞き入ってるようだけど。おもしろいと思う?クオラ。」

  「 ん~???難しくて、私にはわからないよ。」

 熟慮の後、クオラはアイリスに、苦笑いを浮かべながら、曖昧に答えた。
 クオラ的には、退屈な日常の暇つぶしができるだけの情報があれば、他はどうでもよかったので、そんな返答になったのであるが、これは何も彼女特有の思考ではなく、彼女の同年代の少年少女にとっては、普通の感覚だった。そういった意味では、リルルの反応は変わっているといえるが、同時に常日頃から、他人の役に立ちたいと宣言している彼女らしいともいえた。リルルのその様子を眺めながら、アイリスは呆れたように、

  「 しっかし、よくもまぁ、あんな偽善を語れるものだわね。あのシスターは。」

 などと、不敬な一言を宣(のたま)った。他との差別化をはかって、悦に入る人が居る以上、差別も争いも無くならないし、他との差別をつけたがるのは、人に備わった本能だと、アイリスは考えている。それがゆえに、この演説も気に入らないし、本能をとりつくろった偽善だと考えるのだ。それは、ある意味、思慮が浅いともいえるし、無理だと決めつけて、未来の可能性を自ら投げ出しているとも言えるが、家族と魔法学院の中の社会しか知らない彼女たちに、その経験不足を責めても、今は致し方あるまい。そのことは、ローブの少女にも当てはまることではあるのだが。それに気づかないローブの少女は、アイリスの言動に苛立ったらしい。

  「 そこのあなた、偽善とは聞きづてなりませんね。」

 瞳を潤ませて、少女はリルルの隣に並ぶアイリスに語りかけた。アイリスは、さも当然といったように、少女に食って掛かる。

  「 だって、そうじゃない。弱肉強食が無くなるなんて、ありえないわ。」

  「 ありえます。そこまで、人は愚かではありません。」

  「 ありえないわ。人は愚かで、弱いもの。」

  いや愚かだ、愚かじゃないと、少女とアイリスは言い争いを始めた。

  「 ちょっ。二人とも言い争いは。街中じゃない。」

  「 そうだよ。アイリス、そっちのシスターも。」

  クオラとリルルで、言い争いを止めようとするが、二人とも頭に血が上って、二人の意見に耳をかさないし、そのうえ、少女の意見を支持する派閥と、アイリスの意見を支持する派閥に、ただの野次馬だった聴衆が分かれ、暴動に発展したので、たまらない。街の警邏に回っていた騎士団が止めに入るまで、暴動は続いた。

3)

 数時間後。クオラとアイリスとリルルとローブの少女は、騎士の駐在所で、そろって取り調べを受けていた。

  「 ニュベリア教の布教ねぇ…。で、そっちが、魔法学院の生徒?」

 取り調べの騎士にも聞いたことがない宗教名を語るシスターに、魔法学院の生徒。暴動のきっかけは、価値観の違いということのようだ。

  「 まぁ、宗教の自由も価値観の自由も、この国では認められているけれども。暴動の自由はないからね。」

 彼は難しい顔をしながら、四人の少女を見ていた。

  「 別に、暴動を起こしたくて、起こしたわけじゃ。」

 納得いかないのか、アイリスがふてくされたように、独り言をつぶやいた。

  「 それは、こっちのセリフだわ。とにかく、偽善って言ったことは訂正して。」

 シスターは、憤った態度で、アイリスを責めたので、またぞろつかみ合いの喧嘩がはじまる。

  「 はふぅ…。」

 学院でも、教師から、価値観の違いは認め合うように、言われてはいるが、それがこれほど難しいとは、思ってもみなかったと、アイリスの態度を横目で見ながら、クオラは感じた。ほんと、この二人は、犬猿の仲ね…。まったく、嘆息するしかない。すると、

 「 いい加減にしないかぁ!」
  



 二人のつかみあいに、業を煮やした騎士が、大声で二人を制した。あまりの迫力に、アイリスもシスターも喧嘩をやめる。
 彼は、同僚の騎士を呼ぶと、アイリスとシスターを拘束し、 

  「 その二人は、頭が冷えるまで、別々に牢に入れておけ。」

 と、指示を下し。クオラとリルルは、お咎めなしとして、解放する。
 なんで二人だけ?とも思ったが、納得いく部分もあったので、クオラはリルルと女子寮への、帰路についた。

4)

 牢の中で、アイリスとシスターは、闇を育てることとなる。
 その闇は、モンスターとして具現化することとなるのだが、そのことを二人は知ることはなかった。

【つづく】
  

 

 

【風船魔導士 クオラ】 第七時限目 弱肉強食とかヒトが決めた枠組みですから1

2016-01-01 14:01:13 | 妄想小説
1)
  あふっ…。っと、眠気を噛みしめながら、クオラは睡魔と戦っていた。場所は、アネモネ魔法学院の魔法科の教室に据えられた窓際の彼女の席。
時刻は、朝のホームルームを過ぎ、一時限目の魔法理論の時間のことだ。チョークが黒板に叩く単調なカツカツという音が、クオラの睡魔に活力を与える。

  「 魔法の使用には、大気中の三分の二を占める魔素(マギオン)を体内に取り入れ、活性化させる必要があります。」

 いかにも、インテリ魔女と言う感じの女教師が、教壇に上り、教鞭をとっているが、その熱弁は、クオラの耳には届かなかった。

 Zzzzz―――

  「 ……ですが、近年では、大気中のマギオンの量が極端に減っていますので、従来の魔法理論では、通用できない現象も起きています。代表的なのは、いわゆる、【魔女の狩場】ですね。
    原因としては、魔素機関を取り入れた発電所、車、冷暖房機器の普及と関係があるのではという仮説もありますが、これは、社会科の授業になるので、この授業では割愛します。
    では、教科書の21ページ…。クオラさん、読んでみてください。」

 Zzzzz―――

  「 クオラさん?」

 Zzzzz―――

 睡魔に負けて爆睡しているクオラに、後ろの席の女生徒が、親切からか小声で彼女の背を何度かつついた。

  「 くぅちゃん、せんせ~呼んでるよぉ~。くぅちゃん。」

 Zzzzzz―

  「 クオラさんっ!」

 あまりにも起きないクオラに業を煮やした女教師が、大声で彼女を怒鳴ると、ようやく、もぞもぞと彼女は目を覚ました。

  「 ふぇ…???? (ノД`)・゜・。乙れふぅ~。ごめ~ん、寝落ちしたった~。」

 クオラは、寝起きのとろんとした顔で女教師を見つめ、寝ぼけた声で要領を得ない返事をした。

  「 寝落ちしたった~じゃありませんっ!授業中ですよ。」

  「 ひっ!せんせ~っ!ごめんなさいっ!うち、朝までチャッ…。いや、そうじゃなくて、睡眠学習。そう、睡眠学習中だったの~。」

 怒髪天という表情でクオラをにらむ女教師に、彼女は、慌てて言い訳をした。

  「 ほぉ?いい心がけですね?なら、教科書のどこを読むかもわかるでしょう。読んでくださいね。」
 
  「 へっ?????」

 そんなことを言われても、熟睡というより爆睡していたクオラには、分かりようもなく、動きが固まってしまった。

 案の定といった表情で、女教師は嘆息すると、クオラにかかづりあうのをやめて、後ろの席の女生徒を指名する。

  「 まったく、そんな態度じゃ、この弱肉強食の社会では生きていきませんよ。じゃあ、後ろのあなた。お願いね。」

 そうして、クオラは、一日バツの悪い思いをすることとなった。

2)

 それから、何日か立った日の夜、女子寮のクオラの部屋では、タフィの笑い声が響いていた。

 「 きゃははははははははっ!やるじゃない。さっすが、私の後継者っ。」

 「 た、たふぃ。笑うことないじゃない?それに、後継者っていうのは、やめて。」

 いつものように、ベッドの上で、意思を持つ風船のタフィを対面に、その日の出来事を聞かせていたら、なぜか、ツボにはまったらしく、この仕打ちである。
 全くをもって、恥ずかしいったらなかった。

  「 何をふさぎ込んでいるのかと思えば、朝日が出るまで、エレカネットで、連日、チャットしてるほうが悪いんでしょ?」

 電気を操ったり、発生させたりする魔法エレカは、現代の生活を支える必須魔法の一つとなっていたが、それを通信に利用した最新技術が、エレカネットで、この世界においてはインターネットのような役割をはたしている。
 その昔、魔杖を媒体としていた魔法は、今では、板状の携帯端末に移行していた。この端末に、起動キーとなる、最高十二桁の起動番号を入力して、画面に系列のボタンを表示させ、画面の任意のボタンをタッチするだけで、
魔法は起動する。風系の情報伝達魔法ネットもその一つで、それを利用した全世界にひろがる情報網は、世界を支配するにたるものだった。

  「 だって、おもしろい店が繁華街にできたって…。」

  「 あぁ。なんか、クオラがよろこびそうなお話だったわねぇ。」

 何か、繁華街に変わった雑貨屋ができたらしいので、冬休みの年明けに出かけることにしたのだった。

  「 それは、それで、楽しみなんだけどねぇ。」

 ふぅっと物憂げに、クオラはため息をついた。何か悩みがあるのか、特徴的なオッドアイが、悲しげに曇って見える。

  「 ねぇ?タフィ。」

  「 なぁに?クオラ。急にふさぎ込んじゃって。」

  「 今日、先生に、私は、この弱肉強食の世界では生きていけないって言われた…。」

 教師が放った一言を、気にしていないように見えて、実は、結構、気になっていたらしいクオラが、ぽつりとつぶやいた。

  「 まぁ、まぁ。そう言わずに、初もうでに行くんでしょ?」

 落ち込むクオラに、タフィが、答えにならない答えを返してくる。
 クオラは、それも、そうよねと考え直し、タフィを割らないように抱きしめながら、床につくのだった。

3)

 「 あけおめ~。ことよろ~。」

 クオラは、教会の入り口で待ち合わせをしていた親友たちに、新年のあいさつをした。

 「 あけおめ~。ことよろ~。年末チャット、盛り上がったねぇ。」

 「 あけおめ~。雑貨屋の初売り行くの~。」
 
 なんて、少女三人盛り上がりつつ、教会の敷地の中へ…。

  彼女たちが、新年のミサを済ませ、繁華街についたのは、午後からになる。

4)

 「 弱肉強食とか、人が決めた枠組みですから。人は、それを破ることもできるはずです。」

 繁華街に居並ぶ店をクオラたちが物色していると、辻説法でもしているのだろうか、独りの純白のローブを着た人影が、街中で説教をしていた。
 声からすると、クオラと同年代の少女のようなので、近くに寄って確かめてみようと、野次馬をかき分け、先頭へ行くと、清楚そうな少女が、説法をしていた。

 「 ・・・というわけで、ニュベリア教を、不戦の宗教ニュベリア教をよろしくお願いしま~す。」

 と思ったら、勧誘だった。

 「 あっ。私、もう宗徒ですので…。」

 そう断りつつ、友達と例の雑貨屋に急ぐクオラだった。
 

【いつか、つづく】

  

【風船魔導士 クオラ】 六時限目 笑顔

2015-11-21 11:10:11 | 妄想小説
1)

 その女の子の視線までに、私は腰を落として、はずませるように手の平で、幼女の頭をなでながら、安心させるように、笑顔を見せた。
「おねがいなの。」なんて、泣きそうに頼まれちゃったら、仕方がない。私は、ため息を一つ、吐いて、彼女から革のポシェットを受け取ると、

     「 うん、わかったわ。何とかしてみるね。」

女の子の瞳を正面から安心させるように見つめ、ロックを外す。中から出てきたのは、オレンジ色の風船だった。

2)

 この世界の七不思議の一つに、モンスターの発生要因の問題がある。そもそも、モンスターの発生については、生物から生じる様々な負の因子を核として、その核が大量の魔素をまとって具現化した存在がモンスターであるという、王立魔学分析院の魔学者アリスティアの負核因子仮説を主張する非生物派と、生物学者ヴェンデが唱える、モンスターとは、魔素が少ない環境が生んだ、大量の魔素の元となる新種の生物であるという生物派の二派閥に分かれて、喧々囂々(けんけんごうごう)の論戦が行われているということは、授業で聴いて知ってはいたものの、そのとき、更衣室にたむろする女生徒の集団の中で、少女は、まさかという思いに捕らわれていた。現在、寮生活で相部屋に住んでいる彼女の実家の個室には、女子の下着がたくさんある。それだけ聞くと、何だ当たり前じゃないかと思われる読者諸氏もいるかと思われるが、その全てが盗品だと言ったら驚かれるだろう。その盗品の下着を見ながら、自慰行為に耽(ふけ)るのが、少女の密かな楽しみだったし、まず疑われるのは男性でばれることもなかったのだが、今は相部屋ということもあって、かなり禁欲的な日々を送っていた。ファウナリアが現れるまでは、少女はウツウツとした日々を送っていたのだが、ファウナリアが現れてからは、不思議と、そのストレスからは開放されている。

「 まさか、この痴漢騒ぎは、私のストレスのせいじゃないわよね。」

 と、自らを安心させるように呟くが、あのファウナリアとかいうモンスターの上半身、しかも、顔の部分は、よく見ると少女に生き写しだったりしてるので、彼女の知己なら、すぐに気付かれるかもしれないと、嫌な汗が背中を伝った。
 まずいっと思った瞬間。少女と相部屋をしている女生徒に、ファウナリアが襲い掛かった。

3)

  「 きゃああああぁっ!」

 更衣室に裂帛の悲鳴が響き渡り、たちまち少女たちはパニックを起こした。だが、更衣室のカギは、痴漢防止のためのロックが、外から勝手にかけられて、脱出不可能の状況だったため、必然的に出入り口近くに女生徒たちが密集することとなる。

  「 なんだ?こいつ、急に凶暴に…。」

 そんな中、背中に、ファウナリアに襲われそうになった女生徒を庇いながら、痴漢と間違われた少年は、大剣を盾にその幻獣に応戦していた。

  「 ま、魔法が出ない…。」

 少年の背後にいる少女たちから絶望的な声が伝わってくる。

  「 ちっ!幻獣が現れると生じるという【魔女の狩場】か。」

 少年は、舌打ちながら、大剣を薙(な)ぎ、ファウナリアを牽制しつつ、正眼に構えなおした。

  「 ここは、勇者の出番だな。」

 少年は、好戦的に微苦笑した。

4)

すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!

 下着フェチの少女が、悶々とし、少年が大剣を構え、ファウナリアと戦おうと火蓋を切ったとき、クオラは、風船に息を吹き込んで、丸く大きくふくらませていた。

すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!

 やがて、上半身を隠すほど、巨大にふくらんだ風船から、一旦、口を放して、クオラは、タフィに尋ねた。

 「 ねぇ、タフィ。これくらいの大きさでいいの?」

 「 ん~?もっと、いいわよ。クオラちゃんの背丈を越えるくらい。」

 「 り(ょうかい)。」

 クオラは、再び、深呼吸をすると、風船の吹き口に愛らしいくちびるを密着させた。

すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!

5)
 クオラが呑気に風船をふくらましているころ、少年ヴォルフガング・ユグフレイアは苦戦していた。
 ファウナリアは、自由を奪う魔奏と、猛毒の蹄(ひづめ)による力技を交互に織り込みながら戦っている。

  「 こいつ、ただの幻獣じゃ…。」

 それは、野生の幻獣ではありえない。どうみても、知能がある戦い方だった。

  「 くそっ!魔法が使えたら。魔法剣で止めがさせるのにっ!」

 次第にヴォルフガング・ユグフレイアは、追い詰められていく。

6)
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
ぷぷぷ…っ!ぷはっ!

 「 ふぅ、ふぅ。ぜぇ、ぜぇ。これで、どうよ。」

 クオラは、息切れを起こしながら、自分の背丈を越えるほどに成長したオレンジの風船を、タフィに示した。

 「 充分よ。んじゃ、風船のどこでもいいからキスをして。」

 タフィに言われるままに、オレンジの風船の大きく膨らんだ腹に、チュッっとキスをすると、キスした個所を起点に大輪の花が咲くように魔方陣が展開していき、ふわりと重力を無視して巨大な風船が宙に浮いていく。

 「 ふわっ!浮かんだぁ。」

 「 うん、魔法の風船さんにキスすると、宙に浮くわよ。今度は、あの剣士さんの元に飛んでいくよう念じてみて?」

 「 うん…。(あの剣士さんの元へ、飛んでけ~~~。飛んでけ~~~~。)」

 クオラの念を受けた魔法の風船が、少年剣士に向かって飛んで行った。

7)

 ふわりふわりと、宙に浮かんでいたオレンジ色の風船が、戦闘中のヴォルフガングの大剣の切っ先に、その死角から当たった。
 ぱぁんと音をたてて割れるかと思いきや、フラッシュを焚いたように、オレンジの光の奔流が、少年もファウナリアもまとめて飲み込んでいく。

8)

 その戦いの一部始終を、下着フェチの少女も見ていた。
 ファウナリアが止めを刺そうとした瞬間。少年ヴォルフガングとファウナリアを飲み込んだオレンジの光の球が、豆粒大に収縮し、少女の胸を刺し貫いた。

 「 あっ!あああああっ!」

 とてつのない多幸感が、少女の心を満たしていくと、ぷつりと少女の意識は途絶えた。

9)

 一段落がついて、クオラが幼女の手を引いて、少年の元に駆け寄ると、無理もないことだが、鳩が豆鉄砲をくらったような表情を、その剣士の少年はしていた。

 「 いったい、何が起きたんだ?止めを刺そうとしたファウナリアが消えた…。」

 どうやら、オレンジの光球に捕らわれたことは、彼の記憶にないらしい。

 「 ばるふらぁん。」

 幼女は、舌足らずな声で彼の名を呼ぶと、感極まって、駆け寄っていく。

 「 お嬢?」

 クオラも二人の様子を見守りながら、幼女に声をかけた。

 「 よかったわね。無事で。」

 「 ありがとぉなの。おねえちゃん。ふーせんさん。」

 そうして、女の子は、この日一番の笑顔を見せたのだった。

【来週につづく】
 

【風船魔導士 クオラ】 五時限目 えろえろ不協和音 

2015-11-14 00:44:09 | 妄想小説
1)
 安眠を破るけたたましい音が、アネモネ魔法学院の敷地内にある女子寮の中に響きわたる。

  「 な?何?」

  「 あぁ、ついに、私にも後継者が…。うふ、うふふふふ。」

 この騒がしい状況でも、自分の世界から戻ってこないタフィに、呆れた視線を送りつつ、クオラは、確認のために部屋の外に出ようとする。

  「 ちょっと、確認してくるわ。タフィさんは、ここにいて。」

 当学院中等部一年ウンディーネ組のクオラ・バロニア・ティルル・ポエニカは、室内にしゃべる風船で自称、大魔導士のタフィ・テックス女史を残し、部屋から廊下へと飛びだした。
 夕食過ぎのこの時間にしては、やけに女子の人口密度があがっている廊下に、氾濫した川のように、無防備のクオラを巻き込みながら、人混みの波が通り過ぎる。

  「 やけに騒がしいけどぉ?どうしたの~?」

 あまりに戻らないクオラを心配して、タフィが廊下に出たときは、すでにもぬけの殻となっていて、寮内は静寂を取り戻していた。

「 あ?あれれ???」

 そんな戸惑うタフィに、あっ、ふ~せんさんだぁという幼い少女の声が掛かり、ぽてぽてと声の主が、タフィに向かって近寄ってきた。


2)
 その一方で、人の波に巻き込まれたクオラといえば、なぜか、寮住みの女子のほぼ全員が集っている 大浴場の更衣室に流されてきていた。

  「 ぃ…、痛たたたた…。何だってのよ?みんな。」

 クオラは、非難するような視線で、近くにいる女生徒に、事の次第を問いただした。

  「 あ、クオっち。痴漢だって。」

 そうか、そうか、モンスターでも侵入したのかと思ったら、ただの痴漢かぁ。よかった、よかった。と、クオラは気が抜けたような笑みを、彼女に見せて、思いを口に出した。

  「 なぁんだ。痴漢かぁ~…。」

  「 なぁんだじゃないわよ。クオっち。ちかんよ?痴漢。」

  そう女生徒に窘められて、しばしの沈黙の後で、事の重大さに今更ながら気が付いたクオラは、

  「 ……って?!ぇえっ!痴漢~っ!!!」

  と、思わず叫びそうになったのだが、

  「 私たちのパンツ、盗んだでしょ…。」

  「 知らないよ。」
 
  やめて、これ以上は、命の危険が…という少年の声がしばらく続き、少年にリンチをすませて落ち着いた少女たちの声が聞こえてくる。

  「 じゃあ、何で更衣室に隠れてたのよ~?」
  
  「 だから、お嬢を探してたんだって…。」
 
  「 誰よ?お嬢って…。」

  などと漏れてくる言葉の断片から、何らかのボタンの掛け違いがあったようだ。

  「 じゃあ、盗まれた下着は、誰が盗ったのよ?」

  女生徒の一人が、少年に問いただしていると、再び、緊急アラームのような不協和音が、寮内に鳴り響いた。
  今までのヘタレた様子から一転して、少年は少女たちに対して、不協和音に対抗するように叫ぶ。

  「 全員、耳を塞げっ!」

  少女たちは戸惑いながらも、彼の指示通りに耳を塞いだが、彼の支持を守らなかった少女たち数名には異変が生じる。
  そして、少年を、問い詰めていたリーダー格の少女も例外ではなかった。  

  「 ぃや…。何?なんか、ぃい。」
  
  顔が火照ったように赤く染まり、挑戦的で勝気な視線が、扇情的で蠱惑な視線へと変化していき、自ら、衣服をはぎ取って、少年の目の前で、ストリップを演じていく。

  「 ちっ!奴の魔奏にやられたか。」

  そう言って、少年は、更衣室の天井に視線をうつした。

3)
  耳を塞ぎながら、クオラも少年の視線を追って、更衣室の天井へと目を移すと、そこには異形が仁王立ちで、逆さまに立っていた。

  「 やっぱり、ファウナリアか。」

  山羊の下半身と、一本角が額から延びた金髪の美少女の上半身を持った怪物ファウナリアは、片手に特徴的なアーチ橋のような楽器を、もう片手に大きな袋を抱えて、
 ストリップを演じる少女たちを、その清楚な上半身に似合わぬ、エロいおっさんじみた粘着質の視線で、鑑賞しているようだった。

  「 ファウナリア?」

 ちょうど、不協和音も止んだみたいなので、塞いでいた耳を開放させたクオラが、少年の言葉を疑問をくわえて反芻させると、

  「 女性版のパーンみたいなものね。女性の下着を好んで、収集するクセがあるらしいわよ。」

 と、隣で聞き覚えのある声がする。タフィの気配だけを感じ、彼女を見ずに声をかけるクオラは、

  「 え?タフィ?部屋から出てきちゃって、大丈夫なの?」
 
 なんて、思わず大声を出しそうになったが、チュニックの裾を引っ張る感触で、クオラは、タフィともう一人を視界に捕らえた。
 
  「 ばるふらん、たしゅけてなの。おねぇちゃ。」

 瞳を上目づかいに潤ませてクオラを見つめる幼女の手に、タフィがしかと握られていた。
 しかも、たすき掛けに、例の風船魔法とかいう謎の術に不可欠な革のポシェットも、小さな肩から掛けてもいる。

 「 みんな、ファウナリアに、視線が集中しているからね。部屋から出ても、平気よ。」

 幼女の視線までにクオラは腰を落として、はずませるように手の平で、幼女の頭をなでながら、安心させるかのような笑顔で答える。

 「 おねがいなの。」

 幼女は、泣きそうな、こそばゆそうな表情から、肩に掛けていた革のポシェットを外して、クオラに手渡した。

  「 うん、わかったわ。何とかしてみるね。」

 決意の瞳で、クオラは革のポシェットを受け取り、ロックを外すと、中から風船を取り出した。

【来週あたりに、つづく】