国立新美術館で開催中の「アーティスト・ファイル 2015 隣の部屋 ―日本と韓国の作家たち」展。
「アーティスト・ファイル」は、いまもっとも新鮮で充実した活動を行っている現代美術家を、個展の集合体の形で紹介するグループ展で、2008年から開催されているそうです。今年は、日韓国交正常化50周年ということで、韓国と日本のアーティスト、各6名が紹介されています。
展示室には全く解説がなく、初めて見るアーティストや新しい表現にチャレンジした作品が多いため、作品だけを見てもつかみどころがなく途方に暮れてしまいそうでしたが、鑑賞のヒントをくれる子ども向けのガイド「ちいさなアーティスト・ファイル2015」(入り口でいただけます) を片手に見ていくと楽しむことができました。
ジャンルもテーマも様々なアーティストが紹介されているので、好きな作品とそうでないものが分かれる展示じゃないかと思います。
「面白い!」という作品と、「うーん、分からない…」「言いたい事は分かるけど、あまり好きじゃないなぁ…」という作品が入り交じる展覧会でしたが、その中で自分が面白いなぁと感じた作品を3つご紹介します。
●ヤン・ジョンウク 양정욱 YANG Junguk (b. 1982-)
(ヤン・ジョンウク《あなたと私の心は誰かの考え》2015年 (写真は「小さなアーティスト・ファイル」より))
会場に入ってまず目にする作品はヤン・ジョンウクさんの「あなたと私の心は誰かの考え」。木製の古い農具のような機械ですが、ゆっくりと動きながら、時折鐘や鈴の小さな音を奏でます。
真ん中には電球が置かれて、四角い部屋の壁に機械の骨組みがうつしだされて、自分が機械の内部に入り込んだ気分にもなります。
でもこの機械、とても大がかりだけど何も生産していないんですね。何も生産していないけれど、そのゆったりとした動きや静かな音が心地よく、この中にいつまでもいたいなぁという気分になります。
機械も人も、常に何かを生産し続けることが求められがちですが、何も生産しないことにも価値があるんじゃないか?と考えてしまう作品でした。
●冨井大裕 TOMII Motohiro (b. 1973-)
(冨井大裕《4 jeans (on wall and floor)》2013年 (写真は「小さなアーティスト・ファイル」より))
冨井大裕さんの作品はこれまでに東京都現代美術館のコレクション展などで拝見して面白い作品だなぁと好きだったのですが、個展形式で(部屋まるごと)冨井さんの展示を見るのは初めてで、この展示が見られただけでも来て良かったなぁと思える良い展示でした。
冨井さんの作品はどれも日用品が普通と少し違う様子で"ただ置かれている"だけ。それも凝ったデザインの日用品ではなく、ティッシュペーパーに、紙袋、エアキャップ(プチプチ)といった、本当に変哲もない日用品。
でも見慣れた日用品をこんな視点でみたことなかった!と、新鮮な驚きのある作品です。
特に印象的だったのはジーンズを8枚壁に貼った「4 jeans (on wall and floor)」という作品。ジーンズを天井まで一直線に貼り付けると、まるで大きな白い壁一面をキャンバスとした絵画のように見え、部屋そのものが作品になってしまうようにも見えました。日用品をただ置いただけなのに。本当に面白いです。
●キ・スルギ 기슬기 KI Seulki (b. 1983-)
(キ・スルギ《Unfamiliar Corner 02》2012年 (展覧会HPより))
こちらは写真の作品です。「Unfamiliar Corner」シリーズは都会の風景に人が映り込んだ作品ですが、どの写真も人の体の一部だけが写っていて、表情は見えません。
(キ・スルギ《Poast Tenebras Lux_01》2014年 (写真は「小さなアーティスト・ファイル」より))
こちらの「Poast Tenebras Lux」というシリーズも、森の中になにか人のような動き回る何かが写っていますが、輪郭がつかめずまるで幽霊のようです。
これらの写真を見ていると、写真自体は美しいのに漠然とした不安を感じてしまいます。そこに誰かがいる、という気配だけがあって表情が見えないことに怖さを感じました。そして、表情が見えないと悪い方向のことが起こっているように受け取ってしまうようにも感じました。
写真に映っている風景とは全く違うシチュエーションですが、例えば顔の見えない相手とメールのやりとりをしている時に文面をつい良くない方に受け取ってしまう感覚だったり、疑心暗鬼になってふと漠然とした不安に襲われたり…といった、日常でふと感じる”怖さ”や生きづらさが作品の中に現れているようにも感じました。
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どのアーティストも自分が生きているのと同じ時代に生きていて、隣の国でも同じような問題や悩みがあることを知り、部屋ごとの緩やかなつながりを感じる一方で、アーティストによって問題の捉え方や主張、それを世の中に示す表現方法が大きく異なるんだなぁと、近いようで遠くも感じる「隣の部屋」の距離感を感じる展示でした。
何を表現しているのか?どこが新しいのか?など作品を見るのに頭を使う展示で、さらにボリュームもあったので、ぜひゆっくりとお時間をとって行ってみてください。10月12日(月・祝)までです。
※国立新美術館では、9月18日(金)からニキ・ド・サンファル展もはじまりました。こちらも楽しみですね。
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■DATA■
「アーティスト・ファイル 2015 隣の部屋――日本と韓国の作家たち」
毎週火曜日休館 ただし、9月22日(火)は開館
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