「充分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」
SF作家 アーサー・C・クラークの言葉から、メディアアーティスト・落合陽一さんは「映像の世紀」としての20世紀に対して、21世紀を「魔法の世紀」と名付けました。(「魔法の世紀」 / 落合陽一 より )
一方、これまでの落合さんの作品は、超音波で物質を空間に固定する「Pixie dust」や、フェムト秒レーザーを用いて空間に”触れる映像”を作り出す「Fairy Lights」など、見たことのない世界であるのと同時に、”この技術をこう組み合わせてこんな事が実現できるの面白い!”という、技術の明確さがひとつの魅力に感じていました。
(「Fairy Lights」 / 落合陽一
※ジャパニーズテクニウム展 by 落合陽一とデジタルネイチャーグループ (2017) にて)
そんな印象を持っていた中、今年2月に開催されたの「Medi Ambition Tokyo」で発表された落合さんの作品「Morpho Scenery」は、六本木ヒルズの展望台に、”フレネルレンズが吊るされているだけのシンプルすぎる作品”で、同展覧会の中で最も不可解で、これまでの作品からの変化にひどく戸惑うものでした。
(「Morpho Scenery」 / 落合陽一
※Media Ambition Tokyo (2018) にて)
落合陽一さんの今回の個展は、その「変化」を強く感じられる展覧会でした。
落合陽一、山紫水明 ∽ 事事無碍 ∽ 計算機自然 @EYE OF GYRE
今回の展示作品はどれも、技術はずっとシンプルに(技術に意識が向かうことなく)、コンセプチュアルな面白さと感性的な(マテリアルの)面白さの二面性を持っている作品ばかりでした。
入り口に置かれ、以前よりもプロジェクターの存在や超音波発生装置の音を意識することがなくなった「コロイドディスプレイ」。
(「コロイドディスプレイ」 / 落合陽一)
藤の花の強い香りを感じつつ、にじり口をイメージさせる小さな入り口から会場に入ると目に入ってくるのは、青魚の構造色にも「侘び寂び」を感じさせる風景絵画にも見える「波の形,反射,海と空の点描」や、モルフォ蝶の構造色を再現した「計算機自然、生と死、動と生」といった、生物を模倣するような作品。
(「波の形,反射,海と空の点描」 / 落合陽一)
(「計算機自然、生と死、動と生」 / 落合陽一)
それから、その場にいない魚の”存在”を”音”で体験する「魚鈴」は、目を開いているときには見えず、目をつぶると魚が”見えて”くる作品を体感し、
(「魚鈴」 / 落合陽一)
そして、動物の”網膜”を通じて見る景色を体感する「深淵の淵、内と外、人称の変換工程」を見た後に、「Morpho Scenery」を見ると、今まで不可解だったその作品が腑に落ちるように感じました。
(「深淵の淵、内と外、人称の変換工程」 / 落合陽一)
(「Morpho Scenery」 / 落合陽一)
目のレンズの前にもう1枚レンズをかませて目の前の風景を一変させるということ、それは例えばVRなどの世界を意識させるようなものにも見えてきました。
これらの作品の流れは、逃れられない「重力」から逃れ、作品の中に周囲の風景を取り込み、デバイス感も感じさせない「Levitrope」から繋がってる流れのように感じました。
(「Levitrope」 / 落合陽一)
(さまざまな形に景色を歪めて写し込む「Silver Floats」という作品も。)
今回の展覧会のタイトルにもあり、落合さんの主催する研究室の名称にも使われている「計算機自然(デジタルネイチャー)」という言葉の定義を、落合さんは著書の中で以下のように書いていました。
ユビキタスの後、ミックスドリアリティ(現実空間と仮想空間が融合する「複合現実」)を超えて、人、Bot、物質、バーチャルの区別がつかなくなる世界のことです。そして、計算機が偏在する世界において、再解釈される「自然」に適合した世界の世界観を含むものです。
コンピューターによって定義されうる自然物と人工物の垣根を超えた超自然のことです。デジタルとアナログの空間をごちゃまぜにしたときに現れうる本質であり、従来の自然状態のように放っておくとその状態になるようなコンピュータ以後の人間から見た新しい支援です。
(ともに 「日本再興戦略」 / 落合陽一 より)
また、先日行われた「小泉進次郎×落合陽一×夏野剛 POLITICS(政治)X TECHNOLOGY(テクノロジー)= POLITECH」という鼎談の中でも、「ソーシャル・アダプテーション」;社会が新しい技術にどう適応していくのかということ;について、印象的な言葉がありました。
「テクノロジーは”使う”ものではなく、”親和する”もの」
「テクノロジーは生態系のようなものである」
冒頭に書いた「魔法の世紀」の技術は、想像しやすい、人が”扱う”・わかりやすい「デバイス」ではなく、自然に”そこにある”環境のようになって生活に入り込んでくるものなのかもしれない。そんなことに思いを馳せる展示でした。
(GYREの吹き抜けには、「Morpho Scenery in GYRE: Optical Scale and Mind Scale」という大掛かりな展示も。こちらも6月28日(木)までです。)
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■落合陽一、山紫水明 ∽ 事事無碍 ∽ 計算機自然 @EYE OF GYRE
会期 : 2018年4月20日(金) - 6月 28日(木)
時間:11:00ー20:00
無休
会場 : EYE OF GYRE - GYRE 3F
メディアアーティストの落合陽一が、神宮前のGYREで個展を開催。近作や新作あわせて15点を、近年の制作のテーゼである「計算機自然」をモチーフに展示、構成する。
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