ドイツとフランスが統一?
「外国法(大陸法)」という不可解な科目設定の非合理性を衝く!
寸劇:女神たちのタコ部屋と遁走(とんそう)
はじめに(解説):
2013年度より、これまで別個に開講されていた法学部専門科目
「ドイツ法」並びに「フランス法」を、
「外国法(大陸法)」
として統合する新カリキュラムが施行される。
ドイツ法は、日本の憲法・刑法に大きな影響を与えた。
フランス法は、日本の民法に大きな影響を与えた。
両法は、ローマ法に由来するものの、固有の歴史と法体系を有しており、
一つの講義に同居させるというのは、前代未聞の珍事である。
我が国の法学部において、かかる素っ頓狂な科目編成は他に例を見ない。
この所業は、「財政再建」の掛け声の下、現法学部長を旗頭とした法学部の素人集団、
(法律とは無縁の語学:5名、体育:2名、自然科学:1名、教職科目:2名)の大半と、
これに付和雷同する若手・中堅教員の大半によってなされたものである。
法学部教授会の総数は27名程度であるが、まさに法律の何たるか、法教育の何たるかを
知らない者による暴挙としか言いようがない。
なお責められるべきは、自らの経営・教育戦略の失敗を省みぬまま、
「財政再建」のために「カリキュラム改革」を実施せよという珍妙な通達を
発した、理事会に陣取る
吉椎三(即ち吉野理事長・椎名学長・三友常務理事の御三家)であろう。
もとより見識ある法学部長であれば、こうした事理を弁(わきま)えない通達なぞ一蹴し、学の殿堂を擁護してしかるべきである。
にもかかわらず現法学部長は、その使命を放棄し、かえって法学部の「亜・法学部」化
を一層進めてしまった。
彼の罪業は、教育水準の低下やそれに伴う向学心に富む志望者の減少等、由々しき悪影響をもたらしかねない。
この意味で現法学部長たる〈大先生〉は、
大学崩壊を招く元凶であり、中央学院にとってまさに獅子身中の虫である。
登場する女神
ゲルマニア嬢: 女神。ドイツ法の化身。
マリアンヌ嬢: 女神。フランス法の化身。
言及される神および人物
チューオーガクイン:法の世界を総(す)べる主神?
俗世では「中央学院大学法学部」又は「同学部長」の形で顕現する。
斯界では〈大先生〉として振舞い、ウィキペデイア上で知らない者はいない。
両嬢のパトロンである。本編には登場せず、両嬢の語りを
通してその在り様が明らかにされる。
エウロパ :ゼウスが略奪したテュロスの王女(ギリシャ神話)。
英語表記では Europe〈ヨーロッパ〉。
本編には登場せず。
落ちぶれて、天界のカフェ「EU法」を切り盛りする
年増(としま)の雇われマダムとなった。
〈ある昼下がり、天界のカフェ「EU法」にて〉
ゲルマニア嬢:どうもマリアンヌさん、ごきげんよう。
マリアンヌ嬢:あらゲルちゃん、しばらくぶりねぇ。すこぅし太った?
ラインのほとりでジャガイモばっかり食べてちゃダメよ。
ゲルマニア嬢:マリアンヌ、あなたのようにクロワッサンだけでは、ね。
マリアンヌ嬢:アタシのカラダにはこれがイチバン合ってんの。あと、セーヌの水もね。
ゲルマニア嬢:ところで最近お変わりなくて?
マリアンヌ嬢:オオアリのコンコンチキよ。
アタシらのパトロン、ムッシュ・チューオーガクインのタクラミ、
まだ聞いてない?
ゲルマニア嬢:ええと、なにかしら?
マリアンヌ嬢:ムッシュの〈法世界・再創造計画〉(注:法学部カリキュラム改悪)よ。
ゲルマニア嬢:詳しくはまだ何も…。
マリアンヌ嬢:彼、ゲルちゃんとアタシとにめいめい呉(く)れてた一軒家
(注:カリキュラム上で独立した科目としての位置づけ)、
イマになって取り上げるんだとさ。
ゲルマニア嬢:なんですって!?
マリアンヌ嬢:もう「外国法(大陸法)」ってフラット(=アパート)を借りて、
ソコにアタシらを同居させる腹づもりよ。
ゲルマニア嬢:わたしのおうち(注:独立科目「ドイツ法」)と、マリアンヌ、
あなたのおうち(注:同「フランス法」)は、一体どうなるの?
マリアンヌ嬢:イマんトコはソノママだけど、おっつけ解体(注:科目統廃合)される運び。
ゲルマニア嬢:無節操極まりない遣(や)り口ね(激怒)。でも、それ本当なの?
マリアンヌ嬢:そ、メンドーな段取りはもうみんな済ませて、早けりゃ3年後かな、解体。
ゲルマニア嬢:そもそも「大陸法」ってくくり方、いささか乱暴じゃありません?
マリアンヌ嬢:ムッシュ自身、テキトーだから(笑)。
ゲルマニア嬢:ドイツ法とフランス法は、共にローマ法を継受しているけれど、
各々固有の歴史を経て発展してきた法体系なのに…
(悲憤慷慨:ひふんこうがい)。
マリアンヌ嬢:アタシら、性格も違うしタマにケンカするけど、
お互いにイイトコとワルイトコ認め合ってて、
なお「オノレの道をゆく」って間柄だもんね。
ゲルマニア嬢:ええ、まさしくその通りだわ。
マリアンヌ嬢:ムッシュ・チュウオーガクインは、ソコんトコが分かってないんだ。
ゲルマニア嬢:あなたのフランス法、ことにナポレオン法典に見られる市民法精神は、
ボアソナード先生を通じてヤーパン(=日本)の法形成にも思想的な影響を
随分与えたのに…。
マリアンヌ嬢:そうねぇ(遠い眼)。
ゲルマニア嬢:わたしのドイツ法にしても、ヤーパンが憲法や刑法をこしらえた時分には
色々と尽力したはずなのに…(サメザメ)。
マリアンヌ嬢:ゲルちゃん、泣くのはお止しよ。
アイツにとっては外国法や基礎法なんて、ドーデモいいんだ。
ゲルマニア嬢:え?
マリアンヌ嬢:なにせ「比較法」や「法社会学」も廃止する、ってんだからさ。
ゲルマニア嬢:あんまりだわ。
マリアンヌ嬢:ムッシュ曰く、「この程度の大学には実定法だけで十分」なんだと。
学生さんがカワイソウだねぇ。
でもアイツ、エラぶってる割りに、基本六法に何法が含まれてるんだか、
答えられない。
(注:コレ実話。憲法・民法・刑法しか挙げられず、商法・民訴・刑訴を
知らなかった)。
(つづく)