(承前)
マリアンヌ嬢:アジア法の世話してる、腰の曲がった爺やが居るでしょ?
ゲルマニア嬢:ええ。
マリアンヌ嬢:あの爺や、
ムッシュ・チューオーガクイン付きの使用人(注:専任教員)なの。
ゲルマニア嬢:存じ上げてますわ。
マリアンヌ嬢:爺やをアジア法のトコに差し回して、一軒家を管理させてる。
ゲルマニア嬢:そうらしいわね。
マリアンヌ嬢:ちなみにアタシん家・科目「フランス法」も、
ムッシュ差し回しの太目のヒトが管理してる。
ゲルマニア嬢:わたしのおうち・科目「ドイツ法」は、任に適した方をおソトから呼んで
(注:非常勤講師を指す)、お手入れさせています。
マリアンヌ嬢:へえ。
ゲルマニア嬢:お給金はもちろんチューオーガクイン〈大先生〉の払いになってますけど。
マリアンヌ嬢:ソコなんだな、モンダイのホンシツは。
アジア法を捨てると爺やの仕事がなくなっちゃう。
ゲルマニア嬢:はい。
マリアンヌ嬢:だから〈経費削減〉をおダイモクに掲げても、
科目として「アジア法」を切れないの。
一軒家を構えさせ続けなきゃならないの。
ゲルマニア嬢:でも、それは理が通らないんじゃないかしら?
マリアンヌ嬢:情において忍びない、ってヤツ?ムリが通ればドーリが引っ込む、かな?
ゲルマニア嬢:とにかく理に適(かな)いません。
マリアンヌ嬢:家を新築するんじゃなし、
管理人を学外から非常勤のバイトとして新たに雇うんでもないから、
余計なオカネは一切かからない。現状維持ってワケ。
ゲルマニア嬢:本末転倒だわ。
マリアンヌ嬢:世の中、そんなモンよ。
ゲルマニア嬢:でもマリアンヌ、あなたのおうち・科目「フランス法」をお手入れしてる
太目の方も、あちらの使用人(=専任)なんでしょう?
マリアンヌ嬢:そうよ。
ゲルマニア嬢:「フランス法」の科目を無くしたら、その方、お困りにならない?
マリアンヌ嬢:そのヒトは他にも「法学」だの「債権法」だのを管理させられてるから、
やらなきゃなんないオシゴトは、イッパイあんの。
ゲルマニア嬢:どうもそのようね。
マリアンヌ嬢:なもんで、アタシん家・科目「フランス法」の面倒みなくてよくなるダケ。
ゲルマニア嬢:あら、いいわね。
マリアンヌ嬢:ムッシュ付きのヒト(注:くどい様ですが専任教員です)だからさ、
負担するオシゴトの量が減るダケで、失業の心配は一切ナシ。
まったくオッケー。
ゲルマニア嬢:それはなにより。
マリアンヌ嬢:あ、代わりに新設される「情報と法」とやらに配転されるんだっけか?
ゲルマニア嬢:してみると、チューオーガクイン〈大先生〉付きの使用人でないのは、
わたしのおうち・科目「ドイツ法」のお手入れをしてくれている
ヒゲおじさんだけだわ。
マリアンヌ嬢:経費削減対象にはおあつらえ向き。
外注の非常勤バイトなんかイッパツで切捨て御免さ。
ゲルマニア嬢:え、どうしてよ?
マリアンヌ嬢:これまでは「ドイツ法」・「フランス法」として各々一家を構えていたぶん、
管理人もベツベツに雇ってお手当てをあげなきゃ、だった。
ゲルマニア嬢:おっしゃる通りです。
マリアンヌ嬢:でもこれからはアタシらをヒトカラゲにして、
タコ部屋「外国法(大陸法)」に押し込めるんだ。
で、管理人はひとりで済むというアンバイ。
ゲルマニア嬢:ちょっと待って…。
マリアンヌ嬢:イマまでアタシん家・科目「フランス法」の面倒をみてたムッシュ付きの
太目のヒト(注:しつこい様ですが専任教員です、念のため)に、
改めてタコ部屋の管理を任せりゃイイってわけよ。
ゲルマニア嬢:それが、チューオーガクイン〈大先生〉の思し召しなの?
マリアンヌ嬢:ゲルちゃんさ、アンタのトコのヒゲおじさん、もう用済みだよ。
「大陸法」ってくくりも、案外それを見越してるのかも。
ゲルマニア嬢:まあ非道(ひど)い!だいたい、「フランス法」を管理してきた方に
「ドイツ法」のお手入れが務まる、と本気でお思いになって?
マリアンヌ嬢:それについては「適当でいい」と言われたらしく、
当人も面食らってる様子だって、うわさが流れているわ。
ゲルマニア嬢:なんですって!!
マリアンヌ嬢:使用人の寄り合い「教育戦略委員会」で、そういう発言があったってさ。
ゲルマニア嬢:ウソでしょ?
マリアンヌ嬢:疑うんなら、その委員会とやらの議事録でも見せてもらえば?
ゲルマニア嬢:シャイセ(=クソッ。ドイツ語)!ああ、ごめんなさい。
でも許せない(憤怒)。
マリアンヌ嬢:アタシだってオカンムリさね。
ゲルマニア嬢:ドイツ法やフランス法の精髄を知りもしないくせに、身の程知らず!
(つづく)