第1章 日本の安全
第2章 価値観の外交の時代
第3章 グローバル・サウスと自由主義的国際秩序
第4章 安定と安全がもたらす国際社会の平和
第5章 対中大戦略の構築
第6章 台湾有事にどう備えるか
第7章 安保3文書と国家安全保障会議
第8章 新しい戦場
第9章 日本の領土問題と尖閣諸島
第10章 自由主義貿易の未来と地政学
第11章 経済安全保障
兼原信克氏が解説「キッシンジャーが見た『国際秩序』、その先へ進むために」
物事の本質をワシっと掴んでわかりやすく説明する力のある人だわね。
安倍晋三氏とウマが合ったのもムベなるかな。
◆印象的な指摘(確かに、こう説明すると理解が得られるでしょうな、みたいな?)
第2章 価値観の外交の時代
p64 日本の近代民主主義へのスタートは世界史的に見てもとても早い。1889年大日本帝国憲法、1890年帝国議会開設、総選挙。1925年男子普通選挙。
帝政ロシアからいきなり共産党独裁に進んだソ連はもとより、明治の終わる年に大清帝国が滅亡し、そのまま軍閥、国民党、共産党が入り乱れた内乱に入り、続く日中戦争を経て、レニニズム的共産党一党独裁を奉じる中華人民共和国建国へと進んだ中国も、そもそも民主主義が何かを知らない。
p65 私たちの世代の少し前には、情けない話だが、「民主主義は占領下でアメリカに与えられた」と思っている人がいた。
⇒はっはは。今でもいるんじゃないか、たくさん。
p69 アメリカ人が心の底から公論と選挙で民主主義が機能すると信じる思い込みの激しさは、日本人の想像を超える。アフガニスタンやイラクの民主化は成功していないが、43ブッシュやライス国務長官は、選挙さえすればインスタントラーメンのように瞬く間に民主主義国家ができると、本島に心の底から信じていた。
⇒はっはは。ナイーブにもほどがある。そんな連中が世界の警察(だったのよね一応、当時はさ)を牛耳っていたとは危険極まりなし。
p74 古代の中国、孔子や孟子の時代の政治思想は、実は18世紀の欧州啓蒙時代の政治思想にとてもよく似ている。
残念なことに、毛沢東以降の共産主義者が、強烈なイデオロギー臭のする個人崇拝と思想改造によって、中国古代の優れた政治思想を消去してしまった。
習近平の言う「法による支配」とは、権力者の意思がそのまま法であるという独裁思想なので、私たちの「法の支配」とは全く違うもの。
⇒ソノトーリ
第4章 安定と安全がもたらす国際社会の平和
p141 李克強のような共青団エリートではなく、狭隘なイデオロギーと強権政治で共産党の統制力復活を狙う復古主義型リーダーの習近平が最高指導者になったことは残念。
今の中国は、イデオロギー的には毛沢東時代に先祖返りしつつある。復古主義的な習近平は、市民社会やマーケットとの共存など考えたこともなく、強権しか共産党の支配力強化の方法を思いつかない。
⇒残念ながら、(彼らはそんなことないと主張するかもだけど)出てくる行動はその通り。
p144 中国に強い警戒感を抱き続けているインドとしては、ロシアの凋落と対中接近を見て、これからどうすべきか考えているはず。
インド人は自らを、グローバル・サウスのリーダーだと言ってきたが、その実、「我々はグローバル・サウス諸国の頂点にいて、もうすぐ先進国へと抜け出る国である。やがては先進国クラブの横綱になり、世界を睥睨するリーダーになる。早晩、アメリカ一強支配は崩れて,自由主義世界は多極化する。そのとき、アメリカに次ぐ国際秩序の柱はインドだ」と考えているのではないか。
⇒ふっふふ。
p146 ロシアにはいまだに国民に明確に規定された近代的アイデンティティがないので可哀想。
共産主義を掲げる多民族国家で、国民的アイデンティティが生まれたことはない。
⇒同上w
第5章 対中大戦略の構築
p163 胡錦涛派と江沢民派の激しい権力闘争下、一方に有利な指導者の選出には反対するので、いずれの派閥にも脅威にもならないと見込まれた平凡な習近平が選ばれた。
習近平はやがて本性をむき出しにして権力闘争の鬼に。共産党内の権力闘争に天才的な冴えを見せた。
⇒ソノトーリ。「冴えない平凡な人物を選んでみたら、権力闘争には天才的な冴え」というのは草
第6章 台湾有事にどう備えるか
p192 台湾進攻における中国の勝ち目は、強大な米軍を相手にする以上、軍事的になかなか見えない。中国から見て一番脆弱なのは核問題に無知な日本の世論だろう。政治的に日本の腰を砕くことができれば、中国に勝ち目が出てくる。格の恫喝を行い、東京を政治的に混乱させて、内閣を吹き飛ばせばよい。
⇒これさ、実際に関係者が集まって役を割り当てられてシミュレーションしたうえで言っている筈なので、真剣に対策を講じておかないとね。
p198 日本政府は、アメリカ政府に対して、核搭載の中距離ミサイルを攻撃型原潜に再度配備してもらうことを求めるべき。
⇒まさに!(核廃絶などと唱えてキリっとして悦に入っている場合ではないということが分からない人の多いことはどうしましょうという…)
第7章 安保3文書と国家安全保障会議
p209 軍は戦うことが仕事と思われがちだが、もっと重要な仕事は相手に戦わせないこと。
⇒この基本中の基本がわかっていない向きが世の中に多数いて、「軍備増強など怪しからん(戦争したいから軍備増強するんだろ)!まず外交だろ」などと叫び、メディアがそれを肯定的に報じてきた日本の能天気ぶりの情けないこと。
p211 日本がこれまで、戦後3四半世紀も,国内冷戦の分断に翻弄されて、国家としてきちんとした安全保障戦略を策定してこなかったのは、(幣原喜重郎が否定した)手品で外交をしようとするのと同じだったわけで、とても恥ずかしいことである。
⇒まさに!
p227 防衛費と税金の問題
⇒なんか、不得意分野感?
第8章 新しい戦場
p238 憲法21条は中国人民解放軍の通信の自由も守っていることになり、世界的に見ても、とても信じられない
第二十一条
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
内閣法制局に軍事専門家が置かれておらず、軍事的常識のない経済官庁の法律専門家だけで安全保障問題を判断するから、こういうことが起きる。
内閣法制局は、将ないし将補クラスの自衛官を安全保障補佐官として採用すすべき。
⇒まさに!さっさと進めろ。
第10章 自由主義貿易の未来と地政学
p297 中国には、資源の最適配分を地球的規模で実現する自由貿易が人類共通の利益であるという発想がない。法の支配といった國際政治観が未熟で、まだ19世紀的な弱肉強食の世界観が残っている。あたかも中国皇帝を朝貢国が怒らせたかのようにして、突然、貿易を止めてくる事例が頻発。
⇒わかりやすい比喩だこと。ヒューヒユー!
第11章 経済安全保障
p318 戦後、軍事の「ぐ」の字も聞きたくないという世界で育ってきた日本のアカデミア。
学会の中は学術会議をはじめとして、依然として左傾化した雰囲気が強い。
時計が冷戦初期の1955年で止まっている。東側陣営に対する忌避感はないので、中國国防部との関係深い大学等との共同研究等は、結構、野放図に行われている。
⇒著しい問題なのだが、左傾化メディアは問題にしようとしないし、保守系メディアには力が足りない。
▼ご愛敬レベル
p176(2023/11/17 1版1刷) 上海コミュニケ(第12パラグラフacknowledge~キッシンジャーの傑作)の説明で、「米国は」とすべきところが、「米露は」に!
The US side declared: The United States acknowledges that all Chinese on either side of the Taiwan Strait maintain there is but one China and that Taiwan is a part of China.
なお、ざっくりバッサリと歴史の流れを説明する系は、著者に限らず人気を博しているようなのだが、各分野の専門家の見解が知りたい。
「専門家だと細かい点にこだわるのであそこまで大胆な割り切りができない」のかもしれないが、
「非専門家の強みということで、大目に見てやる」なのか、「あそこまで大雑把に説明するのは危険で許容範囲外」なのか、知りたい。