置かれた場所で咲く

教育のこと、道徳のこと、音楽のこと、書籍のこと、つれづれ、あれこれ

また逢える日まで

2007-09-01 21:46:59 | インド旅行記

最後の日に半日過ごしたデリーは、同じ街とは思えぬ活気に満ち溢れていた。

多くの人たちに話しかけられた。
きっと、わたしたち二人は典型的なお人好し顔だからだろう。w
敵意を感じさせないと言われたこともあるこの顔には、どの国でもだいぶ助けられてきた。
彼女もきっと同じであるに違いない。

日本人?韓国人?

どこ行くの?連れてくよ?

いい店があるんだ。

連絡先教えて??


どんな振りも、余裕をもって受け流せるようになっていた。

ちょっと困ったのは、ネパール人よ、と答えて、急に知らない言葉で話しかけられたときくらいだった。
自業自得ってやつだ。でも、楽しかった。


多くの想いを受け、それらを抱えたまま、わたしたちは再び日本に帰った。
スーツケースの中には入りきらない思い出と想いをたくさん抱えて。


インドって国は実に寛容で、どんな人も、どんなことも、美しいものも汚れた感情も、すべてを受け入れてくれる。善人も罪人も、聖者も邪悪な感情も、すべてを飲み込んで、そのまま還してくれる。


インドには、こんな喩えがあるそうだ。

深い森を歩く人がいるとしよう。
その人が木々のざわめきを、小鳥の語らいを楽しく聞き、
周りの自然に溶け込んだように自由に歩き回れば、
そこで幸福な一日を過ごすだろう。

だがその人が、たとえば毒蛇に出合うことばかりおそれ、
歩きながら不安と憎しみの気持ちを周りにふりまけば
それが蛇を刺激して呼び寄せる結果になり、
まさにおそれていたように毒蛇に噛まれることになる



学生のときからずっと行きたかった、憧れの国インド。
やっと願い叶った、今日。

日本に帰ってきたばかりなのに、もう次の出逢いを心待ちにしている自分がいた。


インドはいつだって、わたしたちに呼びかけていたんだ。

“さぁ、いらっしゃい!!わたしは実はあなたなのだ!”

参考・一部抜粋;地球の歩き方「インド」



2007-09-01 14:17:17 | インド旅行記
「おっちゃん!!!」

どちらともなく、声を出した。

「おっちゃん、おっちゃん!!!」


大きく手を振るおっちゃんは、何かを叫んでいたようだった。
時間は本当に無情で、列車の時刻は既に迫っていた。
車は砂埃をあげて走り出した。



50mほど先の路地を折れ、彼の姿はあっという間に見えなくなってしまった。

明日、この時間にバラナスィーを発つって話したこと、憶えていてくれたんだ。
最後の見送りに、来てくれた。

このときの感情は・・・未だ自己消化できずにいる。


ふと横をみると、うつむく彼女がいた。


彼女は泣いていた。
わたしが見る、初めての涙だった。



繊細で、情に厚くて、人と触れ合うことが大好きで、人との繋がりを何よりも何よりも大切にする彼女が、あの事実に傷ついていないはずはなかった。

彼女が大きな信頼を、おっちゃんに寄せていることは解っていた。


どこまでも寛恕な彼女の心。
時に生き難いのではないかと思えるような胸の内の純粋さ。
素直さと謙虚さ。そして、曝け出す勇気。

気づいたら失くしていたもの、わたしがもたざるものたちを、彼女はたくさん持っていた。


虚勢と強がりで塗り固められたフィルムに護られているつもりで、いつの間にか見失っている。
強すぎる自己顕示欲。どんどん不透明になってゆく自分。


偽りも嘘もない彼女は、心の底から旅を楽しみ、どんなときでも本気で向き合っていた。
どんなときでも、キラキラと輝いて見えた。

事実、今目の前にいる彼女は、とても美しかった。
涙も出ないわたしは・・・冷たすぎるのだろうか。。。



出立

2007-09-01 08:55:41 | インド旅行記
翌日、いつもより遅い朝食をとったわたしたちは、大きな荷物はホテルに預けたまま、郵便局と観光局に向かって歩き始めた。
時刻は午前11時をまわっていた。


仏教縁の地、サールナートを訪れ、現地の子どもたちと一緒に喋ったり写真を撮ったりする。
虫除けベープが大人気だった。子どもたちにくるくる回るベープを見せると、小さなファン(ミニ扇風機)だ、欲しい!と口を揃えて言われ、軽率だったかな、と少し反省しながらも大いに笑った。


この後は寝台列車でデリーに向かう。半日観光した後、いよいよ帰国だ。
これで、帰国となる。


ホテルマンは、いつもと変わらぬ笑顔で送り出してくれた。
フロントの素敵なジェントルマンも健在だ。


スーツケースをタクシーに乗せ、出ようとしたそのとき。
バックミラーにちらりと青いシャツが見えた。


見慣れた青いシャツ。
おっちゃんだった。



最後の夜

2007-08-31 23:41:26 | インド旅行記
「・・・・・・わかった。」

彼は頷いた。今までにない、重い表情だった。
疲れた青いシャツは、ホテルの明かりに照らされて少し泣いているように見えた。


明日の約束も、自分たちで行きます、と断った。

また、無言で、彼は頷いた。


引き止めることはなかった。
わたしはきっと、彼を・・・傷つけてしまったんだ。



インドのどこよりも印象的で、大好きだった街、バラナスィー。

そんな街での最後の夜は、離れ離れになる恋人同士の甘い夜とはかけ離れた、暗示された別れを待つ二人のような、ココロ不安定な夜だった。

また逢いたい。そんな想いを、抱くことができるのだろうか・・・。
頭の中では、無意味な思考がとどまることなく駆け巡っていた。



告白

2007-08-31 22:24:57 | インド旅行記
「サー、さっきの話なんだけど。」

唐突に話を始めたわたしの表情に、おっちゃんは軽く驚いたようだった。


「日本ですごく有名で出回ってるガイドブックに、こんなことがかいてあるの。

“日本語の手紙を持つリクシャーワーラーには要注意。本当かどうかわからない。”って・・・。
わたしはあなたのことを信頼しているし、今日も一日とっても楽しかった。
わたしが手紙を書くことは簡単だけど、それであなたの信頼が失われるのは嫌だ。ガイドブックにはこう書いてあるって、多くの日本人は文字を信じるの。

だから・・・手紙は書けません。ごめんなさい。」



頭の中で必死で組み立てた文章を、苦手な言葉でゆっくり伝えた。

彼は、黙ったままだった。


友達が、少し補足してくれた。

ようやく、おっちゃんは重い口を開いた。