映画をぎっしりと詰め込んだ映画がやって来ました。その名も『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』(2021)。原題はそのまま『The Story of Film』なのですが、北アイルランドのベルファスト生まれのマーク・カズンズ監督(1965.5.3生まれ。57歳になったばかり)が見た、2010~2021年の映画で辿る映画宇宙の旅、という趣のドキュメンタリー映画です。まずは映画のメインヴィジュアルとデータをどうぞ。
『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』 公式サイト
2021年/イギリス/英語/167分/原題:The Story of Film: A New Generation
監督/脚本/ナレーション:マーク・カズンズ
配給:JAIHO(ジャイホー)
※6月10日(金)新宿シネマカリテ他にて全国順次ロードショー!
©Story of Film Ltd 2020
見終わって頭に浮かんだタイトルは、「My Own Story through Films」で、カズンズ監督が映画を切り貼りして作った現代の世界縮図とも言えます。一応、「映画言語の拡張」と「我々は何を探ってきたのか」の二部にわかれ、その中で「ミュージカル」「ホラー」「映画技術の進化:3D、VR」等々いろんなテーマを辿っていくのですが、下にリストアップした登場尺が長めの作品でそのテーマが解説されていく中に、登場尺が短めの作品が挿入され、さらには別の実写映像も入ってくる、というわけで、167分があっという間。私はアジア映画以外はほとんど見ていないのですが、シネフィルの方なら興奮ものの作品だと思います。予告編でちょっとだけ見ていただき、あとは長いリストを辿りながら、出会える作品をご確認下さい。
『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』予告編
◎本編に登場する 111 作品一覧(いただいたプレスを元に作りました。下線を施したのはアジア・中東映画で、cinetamaが勝手に付けたものです)
<登場尺がある程度長い作品>(86本)
『ジョーカー』2019. アメリカ. 監督:トッド・フィリップス
『アナと雪の女王』2013. アメリカ. 監督:クリス・バック、ジェニファー・リー
『FLAME(原題)』(未)2018. フィンランド. 監督:サミ・ヴァン・インゲン
『光りの墓』2015. タイ 監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン
『PK/ピーケイ』2014. インド 監督:ラージクマール・ヒラニ
『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』2019. アメリカ 監督:オリヴィア・ワイルド
『クレイジー・ワールド』2019. ウガンダ 監督:ナブワナ・IGG
『プティ・カンカン』2014. フランス 監督:ブリュノ・デュモン
『血の抗争』2012. インド 監督:アヌラグ・カシャップ
『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』2009. 香港 監督:ジョニー・トー
『ZAMA(原題)』(未)2017. アルゼンチン・ブラジル・スペイン・フランス・メキシコ・米国・オランダ・ポルトガル・スイス・レバノン 監督:ルクレシア・マルテル
『グッド・タイム』2017. アメリカ 監督:ジョシュ・サフディ
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』2015. アメリカ 監督:ジョージ・ミラー
バスター・キートンの『キートンの大列車追跡』(1926)を彷彿とさせる。
『ベイビー・ドライバー』2017. アメリカ、イギリス 監督:エドガー・ライト
『SMALL AXE LOVERS ROCK(原題)』(未)2020. イギリス 監督:スティーヴ・マックィーン
『レモネード』2016. アメリカ 監督:カリル・ジョセフ、メリナ・マツォウカス、マーク・ロマネク and ビヨンセ他
『銃弾の饗宴・ラームとリーラー』2013. インド 監督:サンジャイ・リーラー・バンサーリー
『ハスラーズ』2019. アメリカ 監督:ローリーン・スカファリア
『ムーンライト』2016. アメリカ 監督:バリー・ジェンキンズ
『百年恋歌』2005. 台湾 監督:ホウ・シャオシェン
『鳥類学者』2016. ポルトガル 監督:J・P・ロドリゲス
『XXY~性の意思~』2007. アルゼンチン 監督:ルシア・プエンソ
『エヴォリューション』2015. フランス 監督:L・アザリロヴィック
『ハイ・ライフ』2018. フランス 監督:クレール・ドゥニ
『I AM NOT YOUR WITCH(原題)』(未)2017. ザンビア/イギリス 監督:ルンガーノ・ニョニ
『ゼロ・グラビティ』2013. アメリカ 監督:アルフォンソ・キュアロン
『失くした体』2019. フランス 監督:ジェレミー・クラパン
『サスペリア』2018. イタリア 監督:ルカ・グァダーニノ
『ババドック ~暗闇の魔物~』2014. オーストラリア 監督:ジェニファー・ケント
『NOVEMBER(原題)』(未)2017. エストニア 監督:ライナー・サーネット
『ミッドサマー』2019. スウェーデン/アメリカ 監督:アリ・アスター
『イット・フォローズ』2014. アメリカ 監督:デヴィッド・ロバート・ミッチェル
『コロッサル・ユース』2006. ポルトガル 監督:ペドロ・コスタ
『ライフ・ゴーズ・オン:彼女たちの選択』2016. アメリカ 監督:ケリー・ライカート
『北(ノルテ)―歴史の終わり』2013. フィリピン 監督:ラヴ・ディアス
『象は静かに座っている』2018. 中国 監督:フー・ポー
『ユーラ ごみ捨て場の少女』2014. ポーランド、デンマーク 監督:ハンナ・ポラック
『娘は戦場で生まれた』2019. シリア 監督:ワアド・アル=カティーブ
『THE 3 ROOMS OF MELANCHOLIA(原題)』(未)2004. フィンランド 監督:プルヨ・ホンカサロ
『真珠のボタン』2015. チリ 監督:パトリシオ・グスマン
『理性』2018. インド 監督:アナンド・パトワルダン
『心と体と』2017. ハンガリー 監督:イルディコ・エニュディ
『アッテンバーグ』2010. ギリシャ 監督:アティナ・ラシェル・ツァンガリ
『神々のたそがれ』2013. ロシア. 監督:アレクセイ・ゲルマン
『ザ・スーベニア 魅せられて』2019. イギリス 監督:ジョアンナ・ホッグ
『ABOU LEILA(原題)』(未)2019. アルジェリア 監督:アミン・シディ・ブーメディアン
『ホーリー・モーターズ』2012. フランス 監督:レオス・カラックス
『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』2013. イギリス 監督:ジョナサン・グレイザー
『10 話』2002. イラン 監督:アッバス・キアロスタミ
『リヴァイアサン』2012. アメリカ、フランス、イギリス 監督:ルーシァン・キャステーヌ=テイラー&ヴェレナ・パラヴェル
『ハッピーエンド』2017. オーストリア 監督:ミヒャエル・ハネケ
『タンジェリン』2015. アメリカ 監督:ショーン・ベイカー
『さらば、愛の言葉よ』2014. フランス 監督:ジャン=リュック・ゴダール
『ハート・オブ・ドッグ』2015. アメリカ 監督:ローリー・アンダーソン
『ブラック・ミラー : バンダースナッチ』
『蘭若寺の住人』2017. 台湾 監督:ツァイ・ミンリャン
『CAMERAPERSON(原題)』(未)2016. アメリカ 監督:キルステン・ジョンソン
『アクト・オブ・キリング』2012 デンマーク、インドネシア、ノルウェー、フィンランド、イギリス 監督:ジョシュア・オッペンハイマー
『ルック・オブ・サイレンス』2014 デンマーク、インドネシア、ノルウェー、フィンランド、イギリス 監督:ジョシュア・オッペンハイマー
『PROPAGANDA(原題)』(未)2012. ニュージーランド 監督:スラヴコ・マルティノフ
『猿の惑星:聖戦記』2017. アメリカ 監督:マット・リーヴス
『アイリッシュマン』2019. アメリカ 監督:マーティン・スコセッシ
『DAU.退行』2020. ロシア 監督:イリヤ・フルジャノフスキー&イリヤ・ペルミャコフ
『FRANK フランク』2014. アイルランド、イギリス 監督:レニー・アブラハムソン
『サウルの息子』2015. ハンガリー 監督:ラースロー・ネメシュ
『野蛮人として歴史に名を残しても構わない』2018. ルーマニア 監督:ラドゥ・ジューデ
『アス』2019. アメリカ 監督:ジョーダン・ピール
『パラサイト 半地下の家族』2019. 韓国 監督:ポン・ジュノ
『TLAMESS(原題)』2019. チュニジア 監督:アラ・エディンヌ・スリム
『アトランティックス』2019. セネガル、フランス、ベルギー 監督:マティ・ディオプ
『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』2014. アイルランド 監督:トム・ムーア
『ブラックパンサー』2018. アメリカ 監督:ライアン・クーグラー
『ボーダー 二つの世界』2018. スウェーデン 監督:アリ・アッバシ
『フェアウェル』2019. アメリカ 監督:ルル・ワン
『アイダよ、何処へ?』2020 ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、オーストリア、ルーマニア、オランダ、ドイツ、フランス、ノルウェー、トルコ 監督:ヤスミラ・ジュバニッチ
『万引き家族』2018. 日本 監督:是枝裕和
『WHITE MAMA(原題)』(未)2018. ロシア 監督:エヴゲニヤ・オスタニナ&ゾーシャ・ロドケビッチ
『足跡はかき消して』2018. アメリカ 監督:デブラ・グラニック
『幸福なラザロ』2018. イタリア 監督:アリーチェ・ロルヴァケル
『ナチュラルウーマン』2017. チリ、ドイツ、スペイン、アメリカ 監督:セバスティアン・レリオ
『13th 憲法修正第 13 条』2016. アメリカ 監督:アヴァ・デュヴァネイ
『テセウスの船』2012. インド 監督:アーナンド・ガーンディー
『燃ゆる女の肖像』2020. フランス 監督:セリーヌ・シアマ
『COLD WAR あの歌、2つの心』2018. ポーランド、フランス、イギリス 監督:パヴェウ・パヴリコフスキ
『スパイダーマン : スパイダーバース』2018. アメリカ 監督:ボブ・ペルシケッティ
<登場尺が短い作品>(25本)
『グリース』1978. アメリカ 監督:ランダル・クレイザー
『キートンの大列車追跡』1926. アメリカ 監督:クライド・ブラックマン&バスター・キートン
『今晩は愛して頂戴ナ』1932. アメリカ 監督:ルーベン・マムーリアン
『LA FORMULA SECRETA(原題)』1965. メキシコ 監督:ルベン・ガメス
『セントラル・リージョン』1971. カナダ 監督:マイケル・スノウ
『限界』1931. ブラジル 監督:マリオ・ペイショット
『真珠のボタン』1975. フランス、チリ、スペイン 監督:パトリシオ・グスマン
『貝殻と僧侶』1928. フランス 監督:ジェルメーヌ・デュラック
『2001 年宇宙の旅』1968. アメリカ 監督:スタンリー・キューブリック
『オーソン・ウェルズのフォルスタッフ』1965. アメリカ 監督:オーソン・ウェルズ
『詩人の血』1930. フランス 監督:ジャン・コクトー
『黒い眼のオペラ』2006. 台湾、フランス、オーストリア 監督:ツァイ・ミンリャン
『郊遊<ピクニック>』2013. 台湾、フランス 監督:ツァイ・ミンリャン
『ラ・シオタ駅への列車の到着』1896. フランス 監督:オーギュストルイ・リュミエール
『白雪姫』1937. アメリカ 監督:デヴィッド・ハンド
『歩く人』1897. アメリカ 監督:エドワード・マイブリッジ
『RAZA(原題)』(未) 1942. スペイン 監督:ホセ・ルイス・サエンツ・デ・エレディア
『DEVI(原題)』(未) 1960. インド 監督:サタジット・レイ
『ゲット・アウト』2017. アメリカ 監督:ジョーダン・ピール
『裁かるゝジャンヌ』1928. フランス 監督:カール・テオドア・ドライヤー
『ラ・ポワント・クールト』1955. フランス 監督:アニエス・ヴァルダ
『バルタザールどこへ行く』1966. フランス 監督:ロベール・ブレッソン
『フリークス』1932. アメリカ 監督:トッド・ブラウニング
『麦秋』1951. 日本 監督:小津安二郎
『テオレマ』1968. イタリア 監督:ピエル・パオロ・パリゾーニ
私個人の感想としては、よくまあ、こんな気の狂うような作業をやったものよ、というあきれた感(笑)が一番強いのですが、このドキュメンタリー映画にはそもそもの元になったステップが2つあります。それはマーク・カズンズ監督が2004年に出版した著書「The Story of Film」と、この本をきっかけに2011年に作られたイギリスのドキュメンタリーTVシリーズ「ストーリー・オブ・フィルム」(日本では映画配信サイトJAIHOで配信中)です。その続編というか後日編というか、その後の映画に関してまとめられたのが本作で、1編が60分強のTVシリーズの方はまったく様相を異にした、じっくりと映画の歴史が語られていくドキュメンタリーです。いろんな映画人へのインタビューもあり、今は故人となった人もいて、本作と併せてぜひご覧いただきたい作品です。
最後に、本作で取り上げられたインド映画の中から、『銃弾の饗宴・ラームとリーラー』(2013)のシーンを付けておきましょう。ラーム(ランヴィール・シン)のエントリー・シーンで、『銃弾の饗宴』の中で一番多幸感をふりまいてくれるシーンです。ここを使うとは、マーク・カズンズ監督、ただ者じゃありませんね、というところですが、引用されている作品の中で一番輝いていると思います。
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ラームが後ろ髪をいじる振付を、カズンズ監督が何と言っているかは映画をご覧になってのお楽しみ。言い得て妙ですが、インド映画ファンとしては蹴りも入れたくなってしまう...ボカッ。これら映画のクリップのほか、TVシリーズ撮影時に世界各国に行った時撮られたと思われるインドの風景(コルカタの古い映画館なども登場)や香港の町並み(路面電車が気に入ったらしい)、そして日本の私鉄から撮った映像(ひょっとして、カズンズ監督は鉄ちゃんでもある?)なども素敵です。いろいろ楽しめる『ストーリー・オブ・フィルム』、ぜひ大画面でご覧下さい。