アジア映画巡礼

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『普通に死ぬ~いのちの自立~』で世界がぐん!と広がる

2020-11-14 | 映画一般

30年来の友人梨木かおりさんがプロデューサーとなって作られたドキュメンタリー映画、『普通に死ぬ~いのちの自立~』が公開中です。私が10月30日(金)にFILMeXの合間を縫って見に行ったキネカ大森での上映は、残念ながら終了してしまったのですが、今後も日本全国のあちこちで上映される予定です(下の公式サイトの「全国での上映日程」をご参照下さい)。このドキュメンタリー映画、見ると自分の世界が広がるような思いがし、登場する人たちと友達になったような感覚が持てる作品で、何度でも見たくなります。まずは、映画のデータからどうぞ。

『普通に死ぬ~いのちの自立~』 公式サイト
2020/日本/長編ドキュメンタリー映画/HD/カラー/119分
 監督・撮影・構成・編集:貞末麻哉子
 プロデューサー:梨木かおり、貞末麻哉子
 録音:中山隆匡
 音楽:木-Kodama-霊
  ナレーター:余貴美子
 製作:motherbird・Cinema Sound Works
 配給:motherbird

※写真はすべてmotherbird提供

本作は、以前同じスタッフによって作られたドキュメンタリー映画『普通に生きる~自立を目指して~』(2011年/83分)の続編として作られました。『普通に生きる』では、静岡県富士市にある重症心身障害児者のための通所施設「でら~と」(2004年開所)を舞台に、2番目の通所施設が作られるまでの5年間を描いた作品でした。その施設建設活動の中心になっていた人たちの1人が小沢映子さん(上写真)で、車イスに乗った長女の元美さんと共に、『普通に生きる』で強く印象に残ったご家族の一つでした。当時から富士市市議会議員だった小沢さんたちが、2009年に2番目の通所施設「らぽ~と」の完成を祝うところで前作は終わり、今回の『普通に死ぬ』は「らぽ~と」開所から8年たった時点から始まります。

この「でら~と」と「らぽ~と」を利用している人とその家族が今回の中心になるのですが、その中には前作にも登場した小澤夫妻(上写真)もいました。お子さんの小澤裕史さん、美和さんという兄妹のどちらもが重度の障害者なのですが、美和さんが明るくて、一家のムードメーカーという感じでした。ところが、美和さんは23歳という若さで、心筋梗塞のため亡くなってしまいます。本作を見る前には、親御さんたちが亡くなるケースを想像していたので、美和さんの逝去にはびっくりしてしまったのですが、亡くなっても小澤夫妻の身近に美和さんがいるような雰囲気がある中で、小澤さんはこれまで挑戦できなかったことに挑戦していきます。

そして2012年4月、「でら~と」「らぽ~と」から、また形態が異なる施設「Good Son(ぐっさん)」が誕生します。こちらはグループホームで、何人かの障害者が共同生活を送る場所として作られたのです。この「ぐっさん」誕生は個人の力によるところが大きく、「でら~と」の副所長で看護師長も兼任していた坂口えみ子さん(上写真中)が、元は食べ物屋さんだった建物を買い取って2階は自宅とし、1階をグループホームにできるよう、大改造したのでした。「ぐっさん」は「さかぐちさん」がなまったニックネームで、ここでは5人の人が生活できます。入居者の1人となったのが、前述の小澤裕史さんでした。

一方「でら~と」では、メンバーの1人向島育雄さん(上写真右)の母親(同左)にがんが見つかり、治療に専念しないといけなくなったのです。育雄さんには兄が2人いるのですが、今は別の場所に住んでおり、同居の母親が家での面倒を見ていたのでした。こうして、変則的な生活を強いられることになった育雄さんは、その影響が出て、普段の魅力的なイケメンスマイル(下写真)も出なくなってしまいます...。

そして、「でら~と」「らぽ~と」に続く3番目の施設も建設が決まっていたのですが、地域住民の反対があって着工がストップしていました。やっと工事が始まった時、沖茉里子さん(下写真)のお母さんが、やはりがんで急逝してしまいます。ずっと熱心に建設運動に取り組んでいて、「あそ~と」と名付けられる予定の施設の、翌年開所が決まった矢先でした。その後、紆余曲折があり、茉里子さんの姉も一人暮らしをしていた名古屋から自宅に戻って、施設の人々といろいろ協議を重ねていきますが、茉里子さんの生活はなかなか安定しません...。

と、次々と登場人物をご紹介してきましたが、それぞれの物語に重みがあり、引き込まれてしまいます。さらにこの後、本作の貞末監督らは、坂口えみ子さんを関西への旅に誘い、兵庫県伊丹市で有限会社「しぇあーど」を運営する李国本修慈さん(下写真)と、西宮市社会福祉協議会「青葉園」の元園長清水明彦さんらに引き合わせます。

そこにはまた違った見方、違った捉え方で取り組んでいる人たちがいて、多くの重度障害者が普通に地域の中で毎日の生活を送っていました。「青葉園」の元園長清水さん(下写真)は、その1人である沖田典子さんと学生時代に出会い、大きな衝撃を受けてこの世界に飛び込むことになります。素晴らしい本を読んだ時のような、あるいは優れた映画を見た時のような表情で、目をキラキラさせたおっちゃんが語るその出会いの話は、こちらの心もグッと掴んでしまいます。

本当にたくさんの人が登場する映画で、それぞれの人が持つ物語が、こちらを豊かにしてくれる作品です。もちろん、我々が普段接することの少ない重度障害を持つ人たちに関する知識も与えてくれる(胃ろうの実態とか)のですが、それ以上に、いい人たちに出会えて世界がぐーんと広がっていく感覚が味わえて、見終わったあと多幸感すら感じさせられます。惜しむらくはあまりにもたくさんのエピソードが盛り込まれていることで、それで上映時間も長くなっています。もう少し整理されてもよかったのでは、とも思いますが、観客としては、たくさんの人に出会えてラッキーでした。

見ているうちに、もちろんいろんな方が亡くなるシーンも出てくるのですが、『普通に死ぬ』ではなくて、『普通に生きる<2>』とかでもよかったのでは、という思いがしました。これに関しては貞末監督(上写真)が、パンフレットでこのように語っています。「『死』は決して忌み嫌うべきものではなく、むしろ正面から描いてこそはじめて『生』の意味と向き合えるのではないか。この作品に登場する人々の優しく強いちからを借りて、そう主張する本作の使命に正直に、タイトルは『普通に死ぬ』に決める勇気を得ました」タイトルがふさわしいか否か、ぜひご覧になって決めて下さい。予告編を付けておきます。

「普通に死ぬ~いのちの自立~」予告編(Newダイジェスト版)

 

本作は自主上映もできます。こんな時なので、たくさんの人が集まるのは難しいとは思いますが、ぜひこちらをもとに企画してみて下さい。難点は、見終わった後いろいろな感想を人といっぱい話したくなる点で、マスクをして、ソーシャルディスタンスをしっかり取って、思い切り感動を話し合いましょう。きっと、元気が出ると思いますよ。

 


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