松竹のシネマ歌舞伎シリーズ新作、『天守物語』と『海神別荘』の試写を見に行ってきました。この2本と『高野聖』を合わせた3本が、1月から順次全国で公開されていきます。いずれも泉鏡花の原作で、坂東玉三郎が主演と演出を兼ねています。シネマ歌舞伎特別篇『牡丹亭』 (2009)に続く、玉三郎づくしの3本です。
3本のデータと公開予定日は次の通り。
『天守物語』 1月21日(土)全国公開
泉 鏡花 作
成井 市郎 演出
坂東玉三郎 演出
<出演>坂東玉三郎、市川海老蔵、中村勘太郎、中村獅童ほか
『海神別荘』 2月18日(土)全国公開
泉 鏡花 作
成井 市郎 演出
坂東玉三郎 演出
<出演>坂東玉三郎、市川海老蔵ほか
『高野聖』 3月17日(土)全国公開
泉 鏡花 作
石川 耕士 補綴・演出
坂東玉三郎 補綴・演出
<出演>坂東玉三郎、中村獅童ほか
3本の予告編はこちら。さらに今回の作品は、いずれも本編上映前に10分程度の「坂東玉三郎 特別映像」が付きます。試写では、『天守物語』の特別映像を見せていただきましたが、玉三郎の泉鏡花作品に対する解釈・解説が素晴らしく、本編を見るのに大いに助けになりました。
泉鏡花作品について玉三郎は、「どろどろしたものばかり強調されますが、鏡花の作品は最後に白い光の中に入っていくんですね」と語っています。鏡花作品には変なところがいっぱいあり、例えば『天守物語』のトップシーンは天守閣から釣りをしている、という場面になっています。それも魚を釣るのではなく、秋草を釣る、という人を喰ったシーンです。そのほか、生首が出てきたり、その生首をなめる老婆がいたりと、グロテスクなシーンもあります。でも、最後には魂が浄化されるような高みへと行き着くのだ、というのが玉三郎の解釈なのでしょう。
演出に関しては、「『天守物語』は封建時代の話なのでその様式を保ちつつも、その前後の時代の感覚も持ち合わせないといけない」と語っていましたが、なるほど作品を見てみると、舞台は白鷺城、つまり姫路城でありながら、主人公は異界の主である富姫(玉三郎)、空を飛ぶ駕籠に乗って訪ねてくるのは、猪苗代湖に住む亀姫(勘太郎)や、そのお供で隈取りをした山伏のような朱の盤坊(獅童)に生首ナメナメの舌長姥、というように、いつの時代とも知れぬお話が展開していきます。後半、藩主播磨守の家臣図書之助(海老蔵)が登場し、封建時代色が強くなりますが、古代から現代までの記憶がすべて詰まっている物語と言っても過言ではありません。
ですので演出も、「固定概念を壊すこと、それがないと入って行けない」し、「抽象的なことを言っているけど、それを具体的に見せなくてはいけない」一方、「具体的なことの中に抽象性を持たさないといけない」というわけで、たいそう難しいと思われます。でも、ご承知のように玉三郎は1973年代に鏡花作品「滝の白糸」の主演を務めて以降、多くの鏡花作品に出演してきました。「天守物語」の初主演は1977年で、さらに1994年の「海神別荘」で初めて演出を担当してからは、映画『天守物語』 (1995)の監督も含めて、今回の3作品の演出を何度も手がけています。そんなわけで、鏡花作品は玉三郎にとっては最も親しみのある自家薬籠中の演目ながら、その難しさゆえに最もやりがいもある作品、というように見受けられました。
玉三郎は最後に、「鏡花パビリオンに入った、と思って見て下さい」と素敵な笑顔でほほえみながら語っていましたが、『天守物語』パビリオンは小道具や大道具の小技も効いていて、めくるめく楽しさでした。勘太郎の亀姫もかわいらしくて、とってもチャーミング。海老蔵の図書之助は、控え目な芝居なので美しさだけが目立ちましたが、いろんな出演者の芝居がアップで見られるのもシネマ歌舞伎ならでは。『海神別荘』の見事な大道具や衣装も、たっぷりと堪能できてお腹いっぱいになります。ただ、『海神別荘』はちょっとセリフがくどくて、見ていて疲れました~。
『高野聖』は未見ですが、予告編を見るとこちらはまた違った演出になっているような。こういった形で歌舞伎の名舞台が映画として残され、日本全国どこでも楽しめるのは素晴らしいですね。歌舞伎や日本舞踊を撮ることから始まった日本の劇映画。来年、2012年は、日本活動写真株式会社が発足してからちょうど100年です。