前回のファラー・カーン監督インタビューの続きです。
Q:監督のお子さんたち(息子さんと2人の娘さん)は、今いくつになられたんですか?
監督:9歳よ。息子の一番好きな作品は、『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』なの。あの映画を見てあの子は、「輪廻」に魅せられてしまったのよ。それで、「輪廻転生って、特別な人にしかできないんだよ。火事で死んだ人だけが生まれ変われるんだ」とか、ヒンドゥー教神話でもシヴァの妃パールヴァティーが一度火の中で焼け死んでから生まれかわったとか、いろいろ私に教えてくれるの。
日本でこの映画が公開された時の配給会社、アジア映画社のパク社長は、阪神淡路大震災で息子さんを亡くされたのよね。あの方が日本でこの映画を公開したいと思ったのも、「輪廻」という概念を描いているからだ、と聞いたわ。息子さんは亡くなったけれど、それで終わりじゃない、どこかで息子とまた会えるかも知れない、という希望が出て来た、だから公開に情熱を傾けたんだ、と言ってらした。これも、この作品を通じて教えられたことの一つね。
Q:監督は「輪廻」を信じておられるのですか?
監督:信じられたらいいな、と思っているわ。死がすべての終わりとは思っていないし、「輪廻」が存在すると考えると、「カルマ(業)」という概念もわかりやすいでしょ。この世でいいことをすれば来世でも報われる、ゴキブリには生まれ変わらない(笑)って思えば、自分の行動も自然に律することができるし。
私はムスリム(イスラーム教徒)だけど、狂信的な人間ではないわ。宗教というものは、どれも同じ真理を教えてくれるものだと思う。食べ物の禁忌とかで違いはあるけれど、根本の部分ではどの宗教も同じなのよ。してはいけないことの戒めとかも同じだし、ヒンドゥー教、イスラーム教、キリスト教など、どれも根本的な教えは共通していると思うの。
Q:ダンス監督としてもすでに100本の作品を担当され、引っ張りだこですが、一番最初のお仕事はアーミル・カーン主演作『勝者アレキサンダー(Jo Jeeta Wohi Sikandar)』(1992)で、それからもう25年、シルバー・ジュビリー(25周年)ですね。この間に、ダンスの振り付けの変化とか、映画界自体の変化とか、何か顕著なものがありましたか?
監督:今の観客は、数百人のダンサーが突然現れて踊る、というようなシーンは見たくない、と思っているのかも。そういうソング&ダンスシーンは、もう古くさくてダサい、という感じね。1990年代には、ラブソングが流れると、100人ぐらい踊り手が出現してスターの後ろで踊ってたでしょ。ああいうシーンは、今はもう見られないわ。
あと、スターたちが一度に1本の映画しかやらなくなったわね。昔は一度に3、4本どころか、10本、10数本という映画を掛け持ちしているのが普通だったのよ。だから今は、きちんと時間が確保できて、スターに出演してもらえるわね。
もちろん変わらない点もあって、観客は優れた映画を見たいと思っているし、素敵な歌を聞きたいと思っているのは同じよ。いい歌は、いつでも必要とされているのよね。とはいえその歌が、最近はBGM使用が多くて悲しいけれど。あれは、ボリウッド映画をダメにしているわね。
Q:製作本数も減少していますか?
監督:インド全体ではそれほどではないかも知れないけど、ボリウッド映画は、これまで毎週3~4本公開されていたのにそれが減っているから、製作本数も落ちていると思う。それと、みんなが休暇に合わせて公開しようとするのも最近の傾向ね。これはアメリカ方式とでも言うか、公開した週末でドンッと稼ごう、という考えなのよ。
以前は少なくとも4、5週間公開が続いて、時には50週間、100週間のロングランもあったけど、そんなのは今では考えられない。最初の1週間で終わりよ。多分、『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』が、連続25週間の公開が続いた最後の映画だと思うわ。ハリウッドのメジャー会社も、ユニバーサルとかディズニーとか、20世紀フォックスとか、インドにどんどん進出しているし、ますますアメリカに似てくるわね。
Q:ハリウッドとの合作などの構想はお持ちですか?
監督:もちろんやってみたいわ。トム・クルーズが私の究極のターゲットなの(笑)。ボリウッド音楽を使って、一緒にやりたいわ。トム・クルーズなら、今の夫を捨てて走ってもいいぐらいよ(笑)。彼の作品はそんなに広範囲に公開されてはいないんだけど、インドでは誰もが知っているわ。ハンサムだしね。息子には、「トム・クルーズが”奥さん募集中”なら、私、立候補するわよ」と言ってあるの。だから息子は、トム・クルーズが大嫌いなんですって(笑)。
Q:監督のご主人、シリーシュ・クンダルさんも編集がご専門ですが、ほかに監督やプロデューサーをやったり、作曲もしたりと、ハンサムで才能豊かな方なのに、そんなことおっしゃっては...。
監督:彼は最近、『Kriti(クリティ)』という短編映画を作ってYouTubeにアップしているわ。見てくれる人の数がすごく多い作品よ。マノージュ・バージパーイーが主演なの。
Q:ああ、ラーディカー・アープテーが出ている、サイコ・スリラー的な作品ですね。絵づくりがとてもきれいで、ホラー風味もあって面白かったです。(ご覧になりたい方は、こちらをどうぞ)
Q:(次の質問しようと思ったところで、監督がスマホの写真を見せて下さる)あら、ジャッキー・チェンとのツーショット!! 『Kung Fu Yoga(クンフー・ヨガ)』(2017)の時ですか?
監督:そうなの、私がダンス・シーンの振り付けをしたのよ。エンディングのシーンで、みんなが出て来て踊るのも私のアイディアよ。(というわけで、YouTubeの画像を付けておきます)
KUNG FU YOGA 功夫瑜伽 ENDING SONG FULL
Q:ところで監督の次作は?
監督:映画作りは、脚本を書いたり、キャスティングをしたりと山ほど仕事があるのよね。でも、今回もとてもいい脚本ができたので、今年末か来年早々には取りかかれると思うわ。ダンスもいっぱい入っているから、宝塚歌劇の皆さんが気に入って下さるかも。古典舞踊と現代舞踊の両方の要素が入る作品になる予定よ。
Q:ミュージカル・シーンではインド映画は世界で一番だと思いますが、最近はゴージャスなソング&ダンスシーンが減っていますね。
監督:私も世界一だと思うけど、みんな映画評論家を恐れているのよね。評論家がどう評価するかというのばかりが気になって、評論家から「歌とダンスばかりじゃないか」と言われるのを恐がっているの。でも、このソング&ダンスシーンこそが、インド映画を世界中の他の映画とは違った存在にしているわけでしょ。でないと、インド映画は他国の映画にたちまち征服されてしまうわよ。我々は、何かユニークなものを創り出さないといけないの。ユニークさこそが、インド映画の存在意義になるのだと思うわ。
私はハリウッドのミュージカル映画もよく見ているのよ。MGMのミュージカル映画とか、ジーン・ケリーの主演作や、バズビー・バークリーの作品とかね。バークリー作品は、トップ・アングル(真上から撮るという、グレゴリ青山さん命名の「万華鏡アングル」の正式名)とかのフォーメーションがすごいわね。
ハリウッドに対抗して今残っているのは、インド映画だけと言えるかも知れない。ほかの国の映画はみんな力が弱くなっているでしょう? 歌と踊りというユニークな形式を持つボリウッド映画こそが、ハリウッドと対抗できるんじゃないかしら。
日本には、こんなにもボリウッド映画を愛して下さる方がいっぱいいて下さる。だから、インドの映画人にもどんどん日本に来てもらって、こんな観客がいることを知ってほしいわ。日本の皆さんに会って刺激を受け、そしてインドに戻って素晴らしい映画を作って下さい、と言いたいわね。
Q:日本には「マサラ上映」というユニークな上映方式があるんですよ。(「知ってるわ」とのお答えが)それに一番ピッタリなのが、『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』なんです。(と、バドミントン・シーンの例などを出して説明)
監督:なるほど~。インドでは、映画館がみんなシネコンになってしまったから、そんな風な映画の楽しみ方はほとんどなくなってしまったわね。かろうじて、ラジニカーント主演作と、サルマーン・カーン主演作が公開された時に見られるぐらいかしら...。
Q:もう時間が。長時間にわたって、ありがとうございました。
監督:アリガトウ。Thank you!
上の写真、右側は、今回行き届いたコーディネートをして下さったマサラツアーズの後藤理惠社長です。バンガロール(ベンガルール)を拠点に展開するマサラツアーズでは、今回の宝塚星組公演「オーム・シャンティ・オーム~恋する輪廻~」の上演にあたり、インドでの衣裳や小物の買い付け等にも全面協力、また、ファラー・カーン監督もお店の紹介を初めとする様々なアドバイスをして下さったのだとか。それで舞台衣裳も、我々インド好きが見ても違和感がなかったのですね。マサラツアーズとアジア映画社では、ファラー・カーン監督作品の日本ロケのアレンジや、日本の会社との国際共同製作など、いろんな将来構想が立てられているようで、この先ますます楽しみです。インド映画とのコラボをやってみたい、とお考えの日本の製作会社様は、ぜひマサラツアーズの後藤社長までご連絡下さい。
大阪、梅田芸術劇場での宝塚公演は8月7日(金)まで続きますので、こちらの梅田芸術劇場のサイト(野火杏子先生の振り付け指導講座の動画などがあって、とっても楽しいサイトです)をご参照の上、ぜひご鑑賞にお出かけ下さい。先日当ブログにコメントをお寄せ下さった玻璃さんのお話では、東京公演からのブラッシュアップ場面や修正部分もあるとのことなので、これは東京でも再々演してほしいですね。「ベルばら」なみに、「OSO」も宝塚の定番演目になってくれることを願っています。ファラー・カーン監督、次回は絶対、シャー・ルク・カーン&ディーピカー・パードゥコーンを連れて見に来て下さいね!