7月14日(日)と17日(木)に、「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024」で上映されたインド映画『連れ去り児(ご)』をご覧下さった皆様、ありがとうございました。私も昨日、ちょうど上映時間中にカラン・テージパル監督にインタビューさせてもらい、その後40分間ほど会場に入って見せていただいていたのですが、観客の皆さんがとても熱心に見ておられて、あ~、字幕を担当させてもらってよかった、とホッとしました。昨日の監督インタビューはまた後日まとめるとして、ストーリーのご紹介と、14日及び17日のQ&Aについて、ちょっとご紹介しておこうと思います。
『連れ去り児(ご)』 映画祭サイト
2023年/インド/ヒンディー語・その他/94分/原題:Stolen
監督:カラン・テージパル
出演:アビシェーク・バナルジー、シュバム、ミア・メルザ、ハリーシュ・カンナー、サーヒドゥル・ラフマーン
北インドの冬の夜。とある田舎の駅で、母親のジュンパ(ミア・メルザ)に守られてベンチで眠っていた赤ん坊のチャンパが、母親の胸元からそっと抱え上げられ、連れ去られます。連れ去ったのは、黒っぽいショールを被った女で、逃げる途中駅のホームで待っていた青年ラマン(シュバム)とぶつかり、赤ん坊の帽子をその場に落とすのですが、それを無視して赤ん坊を抱えたまま足早に去っていきます。ラマンは帽子を拾って呼びかけるのですが、女は聞こえなかったのか行ってしまいます。その直後、ジュンパが目を覚まし、赤ん坊がいないのに気付いてあたりを探し回ります。すると、赤ん坊の帽子を持っているラマンに気づき、「私のチャンパをどこへやったの!」と詰め寄ることに。
一方、ラマンを駅に迎えに来ていた兄のゴゥタム(アビシェーク・バナルジー)は、車の中で寝てしまっていました。弟ラマンの乗った列車が遅延したので、車の中で待っているうちに寝落ちしたのです。妻インドゥからかかってきた電話で目を覚まし、いろいろ指示を出しますが、どうやら彼の一家は何かお祝い事があって別の場所のホテルにおり、ゴゥタムは列車で来る弟を連れて、そこに合流する予定になっているようです。ところがゴゥタムがホームに行ってみると、すでにラマンは到着していたどころか、ジュンパと他の乗客に囲まれて、「子供をどこへやった?」と詰め寄られているところでした。
あわててゴゥタムは割って入り、そこへ駅長もかけつけて事情を聞き、灰色のショールを被った女が赤ん坊を盗んでいったということが判明します。やがて警察からシャクティ警部(サーヒドゥル・ラフマーン)と、彼より年上ながら部下であるパンディト警部(ハリーシュ・カンナー)とがやってきて、事情聴取をします。そうこうしているうちに、茶店の若者をあやしいとにらんだジュンパが彼が電話しているのを見つけ、それを聞いて「こいつが犯人だ!」と叫び始めます。2人の警部が問い詰めたところ、茶店の若者はあっさり白状し、スリリという女と1か月前に出会い、彼女から赤ん坊1人につき5,000ルピーでどうだ、と言われたと言い、彼らの根城が駅から離れたところにある「幽霊屋敷」と呼ばれている廃墟だと告げます。このころになると、ラマンは持ち前の正義感からジュンパに同情し、動きの鈍い警官2人に文句を言ったりして険悪な空気に。兄のゴゥタムはその場を早く逃げ出したいのですが、ラマンは目撃者だからと、幽霊屋敷に連れていかれることになりました。ゴゥタムはいやいやながら、ジュンパも車に乗せて、ラマンとともに警部たちのバイクを追尾していくことになります。
途中で森林警備隊の検問に引っかかったりしながら、5人は幽霊屋敷に着くのですが、そこでまたひと騒動が起きてしまいます…。
ここまではまだ導入部と言ってもいいのですが、その後状況は二転三転、後半は彼らが赤ん坊誘拐犯と間違われ、村の若者総出の追跡から逃げ回ることになるという、社会派サスペンス・アクション映画となっていきます。全編にわたって、予期せぬ出来事が次々と起こり、様々な謎が登場するのですが、ラストで伏線は回収され、観客がほっとするエンディングとなっているのは見事です。ここで、予告編を付けておきましょう。
STOLEN EXCLUSIVE CLIP | Abhishek Banerjee | Jungle Book Studio
14日(日)の客席からは、「濃厚、かつスリリングな作品だった」という感想や、「SNSで兄弟を犯人だと信じ込んだ村人が追いかけてきて暴徒化するが、それはSNSの怖さだけでなく、階級の断絶や憎しみがあっての暴力なのか」という質問が出たことが「デイリーニュース」No.5に記載されています。詳しく知りたい方は、公式サイトのこちらを読んで下さいね。Q&Aの一部始終が読めます。この映画祭、何がすごいかと言って、毎日ある上映後のQ&Aをすぐに文字化し、デイリーニュースとしてネットに上げ、なおかつ印刷物にして会場で配布していることです。現在、デイリーニュースはNo.17まで出ていますが、昨日会場に行ってみるとこういう紙資料がずらーと並んでいて仰天しました。ネットで読める人ばかりではないので、この紙資料化は素晴らしいですね。
昨日は、カラン・テージパル監督インタビューでもいろんなスタッフの方にお世話になったのですが、それ以前のメールのやり取りや、お目にかかった印象など、とても気さくでありながら、ムム、スグレモノ❕と思わせられる対応が多々あり、これだけ質のいいスタッフをどうやって集められるのか、それこそディレクターの方にインタビューしたいぐらいでした。
昨日のカラン・テージパル監督のQ&Aの通訳も藤岡朝子さんで、山形国際ドキュメンタリー映画祭のスタッフにして、東京国際映画祭や東京フィルメックスの英語通訳もこなす大ベテランですし、またインド映画ファンの皆さんにはS.S.ラージャマウリ監督らの通訳でおなじみの松下さんとも会場で行き会いましたので、これまたベストの陣営が揃えてあります。あの安いチケット代(600円ですよー)で、この最強の顔触れは信じられません。プロデューサー兼広報マネージャーの方にもその点をお聞きしたんですが、「なぜか、運営できてるんですよねー」と苦笑いで逃げられてしまいました。協賛企業がいっぱい挙がっているので(私の好きな「しまむら」もある!)、それで「無問題(モウマンタイ)」なんでしょうかねー。すごい映画祭だと思います。下は、カラン・テージパル監督と藤岡朝子さんです。
カラン・テージパル監督は、今回奥様と一緒に来日していて、奥様も映画関係の美術とかを担当したり、いろんなワークショップを開いたりと、活動的な方のようです。お二人の家があるのは、ゴアとのことで、これはうらやましい、うらやましすぎる! あのクレージーとも思える一方、ち密なストーリーは、ゴアの海辺で生まれたとは信じられません。奥様も写真に一緒に入ってくださって、来日ゲストのサインボードの前でパチリしました。
この日のQ&Aでは、「警察の描写はどのくらいリアルなのか」「SNSは田舎の人にも広まっているのか」「言葉がいっぱい出てきたと思うが、何語だったのか」「人身売買は日本では聞かないが、インドで行われている社会的背景は?」「ラージャスターンで撮影されたというが、実際の駅の名前とか教えてほしい」等々のたくさんのご質問が出ました。最後には司会者からも、「何が一番大変でしたか?」という質問が出て、監督からは「早朝のシーンですね。村に自動車が向かっていくところのシーンで、3日間かかりました」とのお答えが。配給会社がついて、日本でも公開され、あのジェットコースター的『連れ去り児(ご)』事件の2日間を、皆さんにも驚きながら楽しんでいただきたいものです。
なお、『連れ去り児(ご)』は配信プログラムに入っていませんが、明後日・20日(土)の午前10時から、ほとんどの作品が配信で見られるようになります。くわしくはこちらをどうぞ。国際コンペ作品でも1本300円ですよ、300円! ウズベキスタンやトルコの作品もありますので、アジア映画好きの皆さんはお見逃しなく。24日(水)までです。