アジア映画巡礼

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『きっと、うまくいく』町山智浩さんトークのご報告

2013-05-24 | インド映画

昨日、『きっと、うまくいく』のイベントがシネマート新宿でありました。映画評論家町山智浩さんと、インド人のプラサード・バクレさんのトークイベントです。町山さん人気を反映して、平日の回にもかかわらず会場は8割の入り。MCは、宣伝を担当しているアンプラグド社の加藤武社長です。

町山さんは宝島社、洋泉社の編集者として名高く、「映画秘宝」を創刊した方としても知られています。現在は出版社を退社してアメリカ在住、執筆活動の他、日本にいらっしゃる時はラジオ等でも活躍しておられます。

お相手のプラサード・バクレさんは、ニューデリーにあるJNUことジャワーハルラール・ネルー大学の卒業生。現在は日本のIT会社勤務で、とても達者な日本語を駆使してのトークでした。

お話は、まず町山さんが最初この映画をアメリカで見た、というところから。シリコンバレーの近くにお住まいらしいのですが、インド人がたくさん働いているので、インド映画を上映する映画館があるとのこと。それから、ペプシのCEOであるインド人女性インドラ・ヌーイとか、シティ・グループのCEOヴィクラム・パンディットとか、世界経済のトップで活躍するインド人の話が続きます。

そして、『スラムドッグ$ミリオネア』にも登場した、カスタマー・サービス・センターというか、コール・センターのお話なども。アメリカの通販なのに、電話を受けているのはインドにあるそういうセンターなのですね。「英語には不自由しませんからね」とプラサードさん。「私も学校では数学や歴史など、英語を使って勉強しました。両親もそれを期待してましたしね」

というところから、インドの大学教育のお話に。「インド工科大学、IITだけど、そこを落ちたから仕方なくMIT(マサチューセッツ工科大学)に行く、と言われてるんだって?」と町山さん。「インフォスの社長の息子もIITを落ちてコーネル大に行ったそうです。50万人受けて、合格するのは1万人だけだとか」と言うプラサードさんに、「中での競争もすごいんだそうだね」と聞く町山さん。「日本と違って、大学に入ってからも競争があって、卒業が大変です」

「インドでは、大学在学中にインターンシップで経験を積んで、大学を卒業するとすぐ実戦投入ができるようになってるんだよ。でも、それだけに大学生の自殺も多い」と町山さんがリードして、いよいよ映画のストーリーに関係するお話に。「宗教的には自殺は許されるの?」と聞く町山さんにプラサードさんは、「自殺は犯罪になるんです。だから、自殺未遂の人は病院に収容されて、その後逮捕されます」とびっくりの事実を話してくれました。確かに調べてみると、「インドの場合、自殺は刑法309条により処罰に値する罪とみなされ、1年以下の懲役、あるいは罰金、あるいはその両方が科せられる」とありました。そうなんだ~。知りませんでした。映画ではそこまでシビアに描いてありませんでしたが、自殺抑止のためにそういう罰則が定められているかも知れません。

その後、工科大学での男女共学の話になり、「この映画では、大学時代は1990年代だから女子学生が少ないのかなあ」と町山さん。いやいや、結構女子学生いましたよ。チャトゥルが二番になって悔しがっている時、慰めてたのも女子学生だったし。とはいえ、男子寮がよく登場したせいもあって、男子学生登場率の方が断然高かったですね。

「この10年でインドは大きく変わったでしょ」「変わりました。2000年問題があって、ITが飛躍的に発展しました。政府もインフラを整備しましたし」「映画の中では、現代のパートでは結構いい家に住んでたし。リライアンス社なんか、今すごいよね」「リライアンス社はアメリカの大学に寄付をしたり、奨学金を出したりしています」「スピルバーグの会社だって、リライアンス社が出資しているからね(笑)」「インドには、”世界は一つの家族だ”という言い方があるんです。みんな一緒に豊かになっていこう、という考えですね」とプラサードさん。

そしてプラサードさんは、「この映画には、自分のやりたいことを貫くというテーマがあって、自分の大学時代を思い出しました。私も日本語を勉強する時に、回りからは”そんなことやらないでエンジニアになったら”と言われたけど、父だけが”やりたいことをやれ”と言ってくれたんです」と感慨深げ。町山さんも、「昔のインド映画は、家族のために自分の成功を捨てて戻ってくる、というようなものばかりだったけど、この映画は180度違う世界になってる」とお二人のトークは尽きません。

最後に町山さん、この映画のすごいところはと聞かれて、「”アール・イーズ・ウェル”って歌うシーンはね、クレージーキャッツの植木等さんが歌う”そのうちなんとか、な~るだろーう”に通じるんですよ」。プラサードさんが「でも、踊らないんじゃ?」というと、「踊るんですよ!!」と力を込めて反論。主人公を演じたアーミル・カーンは「エミネムに似ている」そうで、「植木さんも中年だったのに大学生をやっていたし、この人も44歳だったんでしょ」と両者の共通点を力説しておられました。

『きっと、うまくいく』の背景がよーくわかるこのトーク、なかなか貴重なイベントでした。

 ⓒVinod Chopra Films Pvt Ltd 2009. All rights reserved

ところでさーて、エミネムに似てるかなあ....。皆さん、馴染みのない顔だと、誰かに似てる!という発見をすると安心するのかも。そのうちそれが、アーミル・カーンの顔以外には見えなくなってきて、「あれ、エミネムって黒髪にしたらアーミル・カーンに似てるじゃん!」ということになるんですよね、ふっふっふ。その日が早く来ますように~。

明日は13:15~の回の冒頭終了後にいとうせいこうさんとBOSEさんのトークがあります。詳しくはこちらの公式サイトで! 上映館も拡大中で、明日からはシネマート六本木でもご覧になれますよ~。6月に入ると、皆様のお近くの映画館にもランチョーたちが現れるかも。お楽しみに!

 

 


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13 コメント

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Unknown (やっほー)
2013-05-25 06:59:53
この日のトークイベント、参加できなかったので、うれしいです。
ありがとうございます。

すごいですね、世界中に広がるインドパワー。
「同胞はどこにでもいる」(だったかしら?)のDONのセリフを思い出しました。

いろんな情報をもった上で見ると、作品もさらにおもしろくなりますね。
来週月曜日も見に行きます。
今度は近所のシネコンに。
(インドの作品を近くで見られるなんて、夢のよう。)

一緒に付き合ってくれる友人に、前回のcinetamaさんのお話や、今回のお話、思いっきり知ったかぶりしてレクチャーしそうです。
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やっほー様 (cinetama)
2013-05-25 10:01:49
いつもコメント、ありがとうございます~。

この記事はお話をつまんで書いていますが、すでにあちこちのサイト等で報道されていますので、こんな記事もご参照下さい。また、「ボリウッド4」か日活の公式サイトに詳しい報告が出るのでは、と思います。
http://eonet.jp/cinema/news/domestic/detail_5461.html

そう、お近くのシネコンにまで!というのが、『きっと、うまくいく』の公開のすごいところですねー。私も、地元県庁所在地のシネコンで見てみたいです....。(県民ショー的に、反応の違いをチェックしたりして)
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立ち見です! (ジャハイラ・ミキ)
2013-05-25 13:38:24
cinetamaさま、本日朝イチの回で「きっと、うまくいく」2回目観て来ました! でてきたら人ヒト人! 立ち見もたくさんいるようです。テレビクルーも何局かきていました。これはすごいことになりそう! と興奮してしまいましたよ~。

ところで、チャットゥルの現職ですが、Vice Presidentは課長か部長くらいの役職じゃないかな? と推測します。当方、欧州外資系企業で働いていますが、Vice Presidentは各部に半分くらいいます。部署によっては3/4くらいはVPだったり。だいたい学部卒→入社で7~10年くらいでこのくらいになるようです。自分で営業したりしてるし、チャットゥルもそのくらいかなーなんて思いました。会社の規模や米系と欧州系でも微妙に違うようですが。

またどうでもいい細部にスミマセン…。あともう、1回みたいです。
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素晴らしい映画でした (よしだ まさし)
2013-05-25 23:08:15
『きっと、うまくいく』、予想をはるかに上回る素晴らしい映画でした。
ただいま、ありとあらゆる方面におすすめしまくっています。フェイスブック、ツイッター、ミクシィ、自分のホームページ、そしてなんとテニス仲間の集うSNSでもお勧めしちゃいました。だって、インド映画に対する偏見だけでこの映画を見逃したりしたら、本当にもったいないですから。
本当に多くの人に見てもらいたい映画です。

上映前のトークショーは、映画の理解を深める上で、とっても有意義な話が多かったのがよかったですね。インドの教育現場についての話が聞けたのは貴重でした。
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ジャハイラ・ミキ様 (cinetama)
2013-05-25 23:19:08
コメント、ありがとうございました。

 字幕翻訳時は、「President→社長」、「Vice President→副社長」と何の疑問も持たずに訳してしまったのですが、今、あらためてGoogleの翻訳にかけてみても、「Vice President」は「副社長」と出てきますね....。
書いてらっしゃるように、会社の規模等によって違うのではないでしょうか。御社は大企業だからなのでは、と思います。
それに、「課長」か「部長」では”勝ち組”感がグッと低くなるので、映画的にも面白くありません。温水プール付き豪邸に愛車はランボルギーニ、という描き方をしていますし、脚本の意図としても、「課長」「部長」のイメージではない気がします。
というわけで、すみませんが、ご助言に従い字幕訂正、とはできかねます。せっかく言って下さったのにごめんなさい。
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Unknown (ジャハイラ・ミキ)
2013-05-26 00:29:43
cinetamaさま

そうですね、おっしゃるとおり、勝ち組感が薄れてしまいますね、部長では。なんとなく、「自分では勝ち組だと思っていて、ランチョーに勝った絶対的な自信がある」というわりには世間的にはそうでもない、相変わらず井の中の蛙なチャットル、という皮肉なのかなーと最初は思ったのですが、ここはストレートに「副社長すごいだろ」が正解ですよね。字幕訂正なんて、とととととんでもない、そういうつもりはまったくなく! あのうつくしい日本語字幕の完成された世界にはまったく異論はありませんで、ただ上記のようなチャットル思考をこの作品の皮肉(?)と深読みして「ハテ? 副社長なのかな?」と疑問に思ってしまった次第です(部長クラスで豪邸に住んですごい外車に乗っている人もわが職場のインドオフィスにはいるので……が、きっと彼は彼自身プラス、ファミリーがお金持ちっていうのもあると思います)。

いずれにしても、学長の「2番目は誰も覚えていない」という話と、「自分は勝ち組」と信じるチャットゥルの、それでも社長ではなくて「副」である点が、痛烈だなあ! と思いました。そしてそういう競争にハナから参加せず、我が道をいくランチョーの生き方かっちょええなぁと改めて思いました。ほんとにいろんなメッセージのあるよい映画、そして大好きな映画になりました。

毎度長文で失礼いたしました。。
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よしだ まさし様 (cinetama)
2013-05-26 00:35:25
コメント、ありがとうございました。

毎日、cocoの「『きっと、うまくいく』に関するみんなのつぶやき」というのをチェックしているのですが、そこで昨日よしださんの似顔絵付きツイートを発見し、「やった!」とガッツポーズをしてしまいました(笑)。
多方面で宣伝していただいているとのこと、ありがとうございます! よしださんのHP「ガラクタ風雲/大丈夫日記」、今日はまだチェックしていないので、これからすぐチェックしますね~。

・・・と、待ちきれなくてコメントを途中にして拝読してしまいました。アンプラグド社へのエールもありがとうございます! スタッフの若いお嬢さんたちは「電影風雲」のすごさを知らないので、紹介していても歯がゆかったです....。「電影風雲」は、私の中では『きっと、うまくいく』級の同人誌でした。

『きっと、うまくいく』もしっかりとほめていただき、ありがとうございました。あの2曲もお気に入りにランクインしたみたいですね。「よしださんのオススメなら」と見て下さる方が、きっと大勢いらっしゃることと思います。多謝[口西]!
それで映画の人名ですが、「ファラン」は「ファルハーン」という表記にしていただけると有り難いです。どうぞよろしく~。
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ジャハイラ・ミキ様 (cinetama)
2013-05-26 02:33:55
たびたびのコメント、ありがとうございました。しかも長文!

誤訳があった場合は喜んで(いや、悲しんで、かも。いずれにしても深く反省して)訂正しますのでおっしゃって下さいね。今の上映素材は直せませんが、ソフト化の時に訂正してもらうことができると思います。
私自身、気になっている所が1箇所あり、ソフト化の時に直していただく予定です。
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直しました (よしだ まさし)
2013-05-26 22:28:02
日記での人名、「ファルハーン」に修正しました。
ネットで調べて、出てきた人名表記をそのまま使ってしまったようです。

アンプラグド社の方は、僕を紹介してもらっても「この人誰?」と思うだけで、とまどってしまうでしょうね(笑)
それ、当然の反応だと思いますよ。
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追伸です (よしだ まさし)
2013-05-26 22:38:01
さっき、テニス仲間が集うSNSで「これから映画館で見ます」という書き込みがありました!!

布教活動が徐々に実を結びつつあります。
嬉しいなあ。
観てくれれば、絶対に楽しんでもらえるという自信があるので、安心してお勧めしまくることができますね。
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