本日より、第28回東京国際映画祭が始まりました。明日からはTIFF上映作品の紹介となるこのブログですが、その前に昨日の続き、『マルガリータで乾杯を!』の主演カルキ・ケクランのインタビューです。
Q:ライラの家庭はとてもユニークですね。父親はパンジャーブ州の人でシク教徒、母親はマハーラーシュトラ州の人でヒンドゥー教徒。弟がいるのですが、シク教徒の格好はしていない。さらに、ライラはインド北東部アッサム州出身のバンドのボーカリストを好きになるし、この映画はすべて「バリアを越える」という意識で作られているように思われます。そういう「バリアを越える」ことを意識しながら演技をなさいましたか?
カルキ:うーん、意識していたとは言えないわ。もちろん、そういうことは脚本を読んだ段階で知っていたけどね。ショナリ(・ボース)は社会的な視点をしっかり持った監督なの。政治社会学を学んで、特にあらゆるマイノリティの問題に関しては詳しいわ。だから、脚本にもそういったことを盛り込んでいる。でも私が演技している時は、そういう頭で理解するような観点では演じていなかったと思う。家族とは感情面で繋がった関係でいたから、父親はシク教徒で、母はヒンドゥー教徒、なんて意識はしてなかった。あなたは私の父であなたは私の母、ごく普通の家庭、と思って演技してた。もちろん、世界中の他の家庭とまったく同じじゃないけど、さっきのようなことは演技中には全然意識しなかったわ。
Q:劇中ではベッドシーンなど大胆なシーンもあったりしましたが、特に難しかったのはどのシーンでしたか?
カルキ:(笑って)全部難しかったわ、フフフ。確かに、ベッドシーンは大変だった。頭では完璧に理解できていて、ベッドシーンは絶対に見せる必要がある、障がい者がセックスをするなんて普通の人は想像もできない、そんな側面はすっぽり抜け落ちてるんだから、提示しなくちゃ、とわかってはいた。でもね、いざやるとなると、その場で10人ぐらいの人が見ているわけよ(ハッハッハと大笑い)。全裸になって、文字通りハダカになってやらなくちゃならないのよ。
一つ、笑ってしまうエピソードを教えるわ。ウィリアム・モーズリーが演じたジャレットとのベッドシーンの時だけど、私が服を脱いだら助監督の1人がショナリにそっと耳打ちしているのが聞こえたの。「カルキは肌の色が白すぎる」そこでメイクの人が私の胸をドーランで塗ったの(笑)。まあそんな大変だったシーンもあったけど、ラッキーだったのは監督もカメラマンも女性だったということね。女性スタッフだったことで、私も割とリラックスしてできたわ。多分モーズリーもそうだったと思うけど(笑)。
Q:インドでは全くカットされないで上映されたのですか?
カルキ:そうよ。ジャレットとのベッドシーンが8秒だけカットされたけど、それ以外はカットなしだった。私とハヌムのシーンもそのままよ。
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Q:観客の反応はどうでした? アーミル・カーンの賞賛ツイートとか批評家の反応は知っているのですが、ごくごく一般の観客はどうだったのでしょう?
カルキ:ボリウッド映画界からはすごくいい反応が返ってきたわ。でも公開に際しては、我々はとっても心配していたの。同性愛に関して抗議行動が起こるに違いない、と思ったし。だって、同性愛はインドでは違法なんですものね。
Q:え、違法なんですか!?
カルキ:そうなの、また違法になってしまったのよ。合法だったのは2年間だけ。その2年間だけ、あなたは同性愛者でいられたわけよ(笑)。ひっくり返されたのはモーディー政権になる前ね。右翼からすごい圧力がかかって、政府がまた非合法にしてしまったわけ。
だから観客の反応を心配していたんだけど、公開の時にあちこちの映画館に行って反応を見てたら、驚かされることばかりだった。観客は映画に圧倒されてたの。若い人も多くて、中には親や祖父母と一緒に見に来てた人もいた。幅広い世代が一緒に見に来てくれていたの。映画の中では家族の心の絆が描かれているので、世代のギャップを感じている人などはライラと母親の関係を見て、その対立とかからもいろいろと感じるところがあったみたい。子供の方は親から自立したい、現代的な生活がしたいと思っている。一方母親の方は子供を庇護の元におきたいと思っていて、子供に対して危惧を抱いている。たくさんの人が家庭問題を抱えているので、映画にすごく共感し、それ以外の部分も受け入れてくれたのだと思う。
映画は当初、1週間で上映終わり、と思われていたんだけど、5週間も上映されたのよ。
Q:すごいですねー。インド中で公開されたのですか?
カルキ:そう、インド全国の250スクリーンで公開されたの。
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Q:インド映画界全体に対して、カルキさんはどういう印象を持ってらっしゃいますか?
カルキ:ボリウッド映画界は今、とてもエキサイティングだと思うわ。変化もめまぐるしいし、いろんなことが起きているから。これまでのイメージは、定型化した映画、メインストリームの大作映画でしょうけど、それ以外にインディーズ系の作品がここ10年ぐらいの間にたくさん作られるようになった。
特にヒンディー語以外の映画では、そういうインディペンデント作品で素晴らしいものが出てきてるわ。例えば、私が見た中で最高の作品の一つに挙げられる、マラーティー語映画の『裁き』とかね。日本でも上映されるんでしょ?(注:アジアフォーカス・福岡国際映画祭2015で上映)プロデューサーが友人なので、そんな話を聞いたわ。この映画はとても美しい映画で、こういう真実の映画、真実の出来事の映画を見られるなんて素晴らしいと思う。
バランスの取れた映画作りが進んでる、なんていいじゃない? 私も、商業映画にも出るし、そういったインディーズ系の作品にも出演している。できれば両者に出続けたいわ。私にとってはいい時代ね。
Q:『若さは向こう見ず』(2013)のようなゴージャスな作品と共に、『シャンハイ』(2012)のような作品にもお出になる、というわけですね。今後どういった作品に出演していきたいですか? 一緒に仕事をしたい監督はいますか?
カルキ:私はあらゆる種類の映画に出てみたいわ。俳優としては、自分が挑戦できる役をやってみたいし、少々怖じ気づくような役を、自分の背中を押してやってみたい。
監督は、インド人監督ならヴィシャール・バールドワージね。彼の作品は本当に大好きなの。彼こそインディーズ系と商業作品の両方を撮っている人でしょ。強力なプロットを立てる力があるし、同時に音楽的にも優れた作品を作るのよね。音楽監督としてたくさんの作品を手がけていて、彼の曲も大好きなの。彼はシェークスピア作品が好きで、「ハムレット」「マクベス」「オセロ」を翻案してインド映画にしているわ。ホントに彼の作品って素晴らしいの。
あと、新人監督とも仕事をしてみたい。『Udaan(飛翔)』や『略奪者』のヴィクラマーディティヤ・モートワーニー、アーミル・カーン主演作『Talaash(捜査)』を撮った女性監督リーマー・カーグティーとか。
聞きたいのはインド人監督とのことよね?(笑)。世界中の監督で言うと、ラース・フォン・トリアー、スディーブン・ソダーバーグ、マーチン・スコセッシ、スピルバーグ...(アハハと笑いながら)わかるでしょ? あと、ミシェル・ゴンドリーとか。日本の監督は知らないんだけど、北野武監督の『菊次郎の夏』とかはよかったわ。
Q:日本映画は結構ご覧になってるんですか?
カルキ:黒澤明監督の作品はいろいろ、演技の勉強をしている時に見たわ。でも、現代の作品って、ほとんど見ていないわね。時間があったら、DVDを選んで買って帰りたいわ。
Q:あと、ご自分が目標にしている女優さんとかはいますか?
カルキ:タッブーよ、知ってる?(もちろん!) 彼女は目を見張るようなすごい女優なの。仕事を自覚的に選んでるし、タッブーが出ている映画に行けば、絶対いい作品に当たる。それから、メリル・ストリープも大好き。ジュリエット・ビノシュも好き。あと、スミター・パーティルの演技も好きだったわ。美しい女優だったけど、若くして亡くなってしまって残念ね。
Q:インドの女性問題についてよく発言してらっしゃいますが、今のインド女性が置かれている状況について、何か考えておられることはありますか?
カルキ:ちょっと考えさせてね...。私、新聞を開くのが怖いの。だって、いろんな事件が載っているんだもの。女性に対する犯罪がたくさん報道されているでしょ。女性にとってレイプ被害に遭ったという記事が載ると結婚もできなくなるから、以前は報道すらされなかったの。その点では、報道されるようになったのは評価できると思う。
やるべきことはたくさんあるけど、特に大都市の人々の自覚を促すことが大事ね。男性のあからさまな視線とか態度に対して、きちんと戦わないとダメ。今は、こういう問題に関して討論をする人々や場が増えたこと、それから、ドキュメンタリー作品とかが出てきたことなどが評価できるわね。素晴らしいドキュメンタリー作品も作られていて、例えば二シャー・アフージャーの『The World Before Her』は、現在のインドにおける女性の状況をしっかりと捉えているわ。
Q:日本にもカルキさんのファンができつつあるんですが、そのファンに対して『マルガリータで乾杯を!』をこんな風に見て下さい、というメッセージがありましたらぜひ。
カルキ:この映画を鏡にして、あなた自身を見て下さい、ということかな。この映画は、あなたについての映画、あなた自身を愛するための映画なんです。この映画のメッセージは、あなたがどんな人でもあなた自身を受け入れなさい、というものなの。この世界で生きて行くことは、すごいプレッシャーにさらされること。特に10代の人たち、子供と大人の中間にいる人たちにとってはそうだと思う。世の中に適応し、何者かになっていかなくてはいけないプレッシャーがある。そういう時に大事なのは、自分の内なる声に耳をかたむけること、自分を評価すること、自分のオリジナリティを大切にすること。だから、この映画はあなた自身の鏡となりうる作品なのよ。
Q:日本にいらしてみて、どんな印象を持たれました?
カルキ:オオ、ワアオ! 他のどんな文化とも違うわね。これまでに経験したことのない文化の国だわ。
一つには奥ゆかしさ、みんなとっても丁寧じゃない? それから、細部に対してこだわるところ。例えば、ホテルの部屋のベッドに折り鶴が置いてあるとか、トークの時のマイク、普通置くと大きな音がするでしょ、それを避けるために刺繍した布が机上に置いてあるとか。それがすごいなあって思ったわ。細部にまで神経が行き届いているのよね。
それにもちろん、お寿司はインドで食べるよりはるかにおいしかったし(笑)、本当に日本食って大好きよ。とても健康的で、動物性タンパク質が使ってないでしょ。だからみんな長生きなのね。今回はすごく楽しい時間を過ごさせてもらったわ。
Q:また来て下さいね。
カルキ:もちろんよ!
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あなたも、カルキ・ケクランのライラとぜひ出会って下さい。10月24日(土)から公開の『マルガリータで乾杯を!』の詳細は、公式サイトでどうぞ。予告編も見られます。
私も、決定版バージョンをまだ見ていないので、シネスイッチに行くか、しばらく待って横浜のシネマ・ジャック&ベティに行くか考え中です。
あとで記事をアップしますが、今日はTIFFでカルキの出ているインド映画『If Only』を見てきました。
ちょっとヘンなヒッピーのおネエさん役(『若さは向こう見ず』の冒頭部分のキャラに似ている)で、フラフープがうまいという面白い役どころ。
この映画もなかなか新鮮な作品でしたので、カルキ・ファンの方はぜひ~。
映画の秋ですね~。
でも、映画祭には行けないので、cinetamaさんの記事を観て、楽しんでいます♪
カルキさん、とても個性的な役柄を演じられている方なので、素顔はどんな方なのかと思っていましたが、とても優しい雰囲気で、笑顔が素敵な女優さんですね。
インタビューも真摯に答えられている感じが伝わり、カルキさんの魅力に、どんどん引き込まれています☆
『マルガリータで乾杯を!』予告だけでも泣いたので、映画全部観たら、どうなっちゃうんだろうって感じですが、とても楽しみです♪
cinetamaさんの映画祭レポも楽しみにしていますね♪