少し早いのですが、11月13日(金)から公開のオススメ・アジア映画をご紹介します。というのも、今週金曜日からは東京フィルメックス、土曜日からは東京国際映画祭が始まるので、期間中の約10日間はそちらのお話ばかりになると思うからです。しかも、今年はこのビッグな映画祭がダブルで開催されることから、終わっても「まだ書きたい!」「書き忘れたからちょっと追記」が出ると思うため、11月13日(金)公開作品はきちんとご紹介できない恐れがあります。というわけで、一歩も二歩も早いのですが、ご紹介したいと思います。しかもこの映画、『THE CAVE(ザ・ケイブ) サッカー少年救出までの18日間』は非常に見応えのある作品なんです。まずは、映画のデータからどうぞ。
『THE CAVE(ザ・ケイブ) サッカー少年救出までの18日間』 公式サイト
2019年/タイ・アメリカ/英語・タイ語/104分/原題:นางนอน (Nang Non)/英語題:The Cave
監督・脚本・製作:トム・ウォーラー
出演:ジム・ウォーニー、エクワット・ニラトボラパンヤー、ジェームズ・エドワード・ホーリー、ノパドル・ニヨムカ
配給:コムストック・グループ+WOWOW
配給協力:REGENTS
※11月13日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開
© Copyright 2019 E Stars Films / De Warrenne Pictures Co.Ltd. All Rights Reserved.
タイトルからおわかりのように、2018年6月にタイで起こった実際の事件を描いています。2018年6月23日(土)、タイの最北部チェンラーイ県のタムルアン洞窟に、地元のサッカーチームの少年12人とコーチ1人の計13人が閉じこめられるという事件が起きます。彼らは校庭でのサッカー練習が終わると自転車で近くのタムルアン洞窟に出かけ、探検したりするのが好きでしたが、この日はチームメートの1人が誕生日で、それを祝う目的もあってかなり中まで入り込んだのでした。ところが6月はすでに雨期。午後遅く降り始めた雨は豪雨となってその水が洞窟に流れ込み、13人は外に出られなくなってしまいました。洞窟の中はアップダウンがあり、ダウン部分に水がたまってしまって、ちょうどU字管の下部に水が溜まったような状態の箇所が複数できてしまったのです。彼らが洞窟に閉じこめられている、とわかったのは、洞窟入り口に停められたままになっている何台もの自転車を、森林管理の人が発見したからでした。村で聞いてみると、案の定子供たちが夜になっても家に帰らないというので、騒ぎになっていました。
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それからは村の人々を始め、役所の人やタイ警察、タイ軍、さらには在タイ米軍の軍人たちも参加して、何とか救出しようと様々な方法が試されます。洞窟内の水を排水ポンプで汲み出すことも行われますが、洞窟は長距離にわたり、出口付近の水を排水したぐらいでは効果が見られません。こうして、水を潜って通り抜けるダイバー、それも洞窟専門のダイバーが助けに行くしかないことがわかってきます。タイの海軍にもダイバーはいるのですが、海や川と違い、洞窟での潜水はまた別物です。呼びかけに応えて世界中からケイブ・ダイバー(洞窟専門ダイバー)がタムルアン洞窟に結集し、様々な知恵がしぼられます。そうしている間にも時間はどんどん経ち、少年たちが閉じこめられてはや1週間、飲み水も食べ物もないところで、彼らは生存しているのだろうか...。一縷の望みをかけて潜ったイギリス人ダイバーのジョン・ボランセンとリック・スタントンは、やっと少年たちが避難している場所にたどり着きます。7月2日(月)、10日目のことでしたが、奇跡的に13人は全員無事でした。コーチが少年たちに水分の取り方を教えたり、お腹がすいた時には全員で食べたいものを「KFC!」「ソムタム(パパイアサラダ)!」と言い合ったりして、10日間を耐えたのです。これで救助にも弾みがつきましたが、難問はまだまだ山積でした...。
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2年前の事件の時、「タイのあの子たち、今日は救出されただろうか?」と日々ニュースをチェックしていた方もいたのでは、と思います。私もその1人で、7月10日(火)に最初の少年が救出されたというニュースを読んだ時には、ホッとしました。この救助活動の18日間を、救助する側を中心に描いてあるのですが、驚くようなことばかりで、文字通り画面に釘付けになります。がんばった洞窟内の13人も、それから救助する側も比較的淡々と描写されており、救助する側の人たちの中には当時実際に現場にいた人たちが何人か出演していて、それがリアリティを高めて記録映画のような雰囲気にもなっています。本人役で特に印象に残るのは、まずは排水ポンプ製造会社の社長ノパドン・ニヨムカ。現場にいる研究者から要請され、自社のポンプ(下写真の水色のものが排水管)を大急ぎで用意して運んでいくのですが、救出現場のお役所仕事に阻まれて、洞窟に入る許可を得るのにあっちこっちたらい回し。かなりの高齢とお見受けしましたが、一時はあきらめかけたものの、ねばり強くあれこれトライする姿には、見ていてこちらも拳を握りしめてしまいました。
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そして、ダイバーとしては、北米からの唯一の参加者エリック・ブラウンと、北京がベースの中国人なので、英語はできないけれど洞窟ダイビングの専門家であるタン・シャオロン(譚暁龍)。洞窟内で水に浸かっている部分では、天井が低くて酸素ボンベを背負っては通り抜けられない場所があり、タンが酸素ボンベを体の脇に付けて潜る方法を伝授します。ダイバーはタイ人と西洋人がほとんどだったのですが、その中でタイ人以外のアジア人が活躍する姿は頼もしく、他のダイバーのタンへの敬意も感じ取れて、仕事のプロたちの友情はいいなあ、と思わせられました。そして、後半の主人公と言ってもいいのが、アイルランドを拠点にするベルギー生まれの洞窟ダイバー、ジム・ウォーニー。彼はアイルランドの自宅でこのニュースを知り、妻や友人の後押しもあってタイまで飛んでくるのですが、エリックと共に生存が確認されて以降の難しい救出作戦の中心となります。何が難しいかと言うと、途中何度か洞窟内で潜水せねばならず、そこを潜水経験のない少年たちがどうやってクリアするか、という点が難問だったのです。それには前代未聞の方法が考えられるのですが、これはぜひ、ご覧になってご確認下さい。
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個人的に興味深かったのは、救出チームとは別に、タイ人たちの救助への努力もきちんと描かれていた点です。高位のお坊さんを招いての祈りや、それに伴う奉納舞踊など、外国人が見ると「救助とどういう関係が??」と思うシーンですが、仏教に深く帰依するタイ人たちにとっては、祈りこそが救助にとって大事なファクターとなるのですね。洞窟からの排水のために田畑が水浸しになり、政府による補償を提示された村人の、自己犠牲精神も胸を打ちます。その一方で、前述したような頭の固い役人によるお役所仕事の現場も描写したり、首相が救出現場を慰問する何ともちぐはぐな場面も登場させたり(うーむ、これでは反政府運動も起こるはず)と、本作の監督の気骨に触れるような場面も数多く見られます。
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本作のトム・ウォーラー監督はバンコク生まれで、父はカトリック教徒のアイルランド人、母は仏教徒のタイ人と言う家庭に育ちます。これまで撮った3本の作品のうちには、タイを舞台にした『Sop mai ngeak』(2011)と『Petchakat』(2014)という作品もあり、タイ映画の監督と言ってもいいと思います。どちらも、タイのベテラン俳優で外国映画への出演も多いウィッタヤー・パンスリンガムが出演しており、ご覧になった方もいらっしゃるかも。今後の活躍が楽しみですね。
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救出劇サスペンスとしても一級の出来で、映画の醍醐味を味わえますが、これも少年たち13人が10日間耐えて生き延びてくれたからこそ。救出の途中でタイ人ダイバーが亡くなるという不幸な事故もありましたが、二次災害もなく、全員が無事に上写真のように救出されたのは奇跡と言ってもいいかも知れません。「事実は小説よりも奇なり」を地で行くこの『THE CAVE(ザ・ケイブ)』、ぜひ映画館の大スクリーンで目撃して下さい。洞窟内の暗いシーンが多いため、「ソフトが出てから」では映画の面白さが半減します。最後に予告編を付けておきますので、このあとは新ピカやヒュートラの大スクリーンでどうぞ。
THE CAVE サッカー少年救出までの18日間』予告