アジア映画巡礼

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『ムトゥ 踊るマハラジャ』とインド古典舞踊の関係

2020-10-09 | インド映画

『ムトゥ 踊るマハラジャ』は私にとって、おそらく一番回数多く見たインド映画だと思います。1995年製作のタミル語映画ですが、映画評論家であり、映画配給もしている江戸木純さんがシンガポールで初めて出会い、日本に輸入すると決めたのが1997年。その年の秋に行われる東京国際ファンタスティック映画祭での上映に向けて、字幕を作るために見たのが一番最初でした。以後、字幕作成のために何度となく見直しました、というのはウソで、当時はプリント上映だったために、今のように何度も気軽には見られなかったと思います。字幕もフィルムに打ち込んだら最後、直すと変な黒い修正影が出るので、今よりずっとひやひやものでした。それはともかく、字幕作りの途中や完成後の試写で2、3回、その後の渋谷シネマライズの上映で2回、ビデオが出てから数回、DVDで出てからもあちこちで紹介したりするためにその都度見たので、ソフトだけでも10回以上見たと思います。さらに、かなり経ってからマクザムさんがDVDで出すための字幕再チェックで2、3回、またさらに、江戸木さんが2018年に4Kデジタル版を出す時の字幕チェックで1、2回と、20回近く見ている勘定になります。

  

というわけで、細部までお馴染みの『ムトゥ』なんですが、見るたびに「ここは訳がつけられなかったなあ」と思う箇所があります。次のソング&ダンスシーンの1分13秒あたりのところです。

Kuluvalilae | Superstar Rajinikanth, Meena | A R Rahman | Muthu (1995) Tamil Video Song

 

日本版サウンドトラックでは「クルヴァーリ村で」と訳されているこの歌のシーンは、ムトゥ(ラジニカーント)とランガ(ミーナ)がヤクザたちに追われてタミルナードゥ州から馬車で逃げ、隣のケーララ州に迷い込む、という場面のクライマックスです。この歌の少し前には、それまで角突き合わせていたムトゥとランガの”濡れ場”があり、その高ぶる感情をケーララの人たちと歌い&踊り上げる、というシーンなのですが、ケーララ紹介も兼ねています。で、当初は正体不明のトライブの人たちの踊りだったのが、ケーララの古典舞踊モーヒニーアッタムとなり、バックには象祭りの象たちが控え、やがて仮面舞踊カタカリの登場となる、というのがこのシーンです。

最初に訳した時は、上の画像のシーンには英語字幕が当ててなくて、訳に困りました。タミル語ではないことがわかり、ケーララの話なのでマラヤーラム語では、と思って詳しい方にうかがったのですが、普通のマラヤーラム語ではなく、意味がちょっとわからない、とのこと。もう20数年前なので、「ハナモゲラ・マラヤーラム語かしら?」(”ハナモゲラ”のわからない人はwikiで検索!)と言い合ったのでした。

その意味がやっとわかったのは、先日、モーヒニーアッタムを教えている友人、丸橋広実さんから知らせてもらった、「お寺から世界へ ナマステ」の動画を見た時です。まずは、その動画をご覧いただきましょう。

インド舞踊家 丸橋広実【Hiromi Maruhashi】 / お寺から世界へ ナマステ

 

見始めたとたん、最初の「母の子守歌」に、聞き覚えのあるフレーズが出てくるではありませんか! そうです、上の『ムトゥ』のシーンで使われた歌です。「私の愛しい赤ちゃん、蓮の花のように可愛らしい」という訳がついています。何と、23年目にして、ずーっとペンディングだった歌詞の意味がやっとわかったのでした。丸橋さんに聞くと、「有名な歌で、ケーララの人だったら知らない人がいないかもしれません。子守歌としてお母さんが歌ってくれたと皆さん仰います」とのこと。A.R.ラフマーン、心憎い使い方をしてくれたものですね。ただ、古典舞踊にも使われる歌なので、「この曲は、かなり文語的なマラーヤラム語の詩で、日常で使われる言葉ではないそうです」とも丸橋さんは教えてくれました。赤ちゃんはまだ言葉がわからないから、心地よい響きであれば何でもいいんですね、なるほど~。こういう嬉しい発見もあった、この初秋でした。

そうそう、丸橋広実さんは、以前こちらで、ご著書の紹介をしたこともあります。さらに興味がおありの方は、丸橋さんのHPをご訪問下さいね。

 


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