マレーシアの監督ヤスミン・アフマドが亡くなってから、今年の7月25日で丸2年になります。この三回忌を前に、7月16日(土)から22日(金)まで、「ヤスミンの世界-ヤスミン・アフマド監督レトロウペクティヴ-」と題した特集上映が渋谷のユーロスペースで開催されることになりました。上映作品は、『ラブン』 (2003)、『細い目』 (2004)、『グブラ』 (2005)、『ムクシン』 (2006)、『ムアラフ 改心』 (2007)、そして長篇劇映画では最後の作品となった『タレンタイム』 (2009)の6本です。詳しい上映スケジュールは、こちらのサイトでチラシが見られますのでご確認下さい。
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私のお薦めは・・・・もちろん全作品!! その中でも何度でも見たいのが『細い目』と『タレンタイム』(上の写真)です。
『細い目』に関してはこの間の「タゴール」紹介記事の中でも触れましたが、あの導入部から不思議なラストまで、隅から隅までぜ~んぶ好きです。ヤスミンは登場人物を決してステレオタイプには描かず、意外性をはらむのが人間、とでも言うように、屋台のVCD屋というチンピラっぽいジェイソンはタゴールの訳詩を愛する教養深さを見せるし、あまりパッとしない外見の友人キョン(阿強かな?)は評論家なみに香港映画を語ってオーキッドを感心させます。そう言えば、キョンの家にはピアノもありました。キョンもジェイソンと同じく、豊かな感性を持った青年なのです。
さらに、バジュクロンというマレー服を着たオーキッドのお母さんとお手伝いさんは、上手な広東語で「♪浪奔 浪流 萬里滔滔江水永不休♪」とテレビドラマ「上海灘」の主題歌を口ずさんでしまいます。葉麗儀(フランシス・イップ)の歌う「上海灘」オリジナルソングはこちら。一方、やさしそうに見えたジェイソンのお母さんはギョッとするようなことをするし、ヤスミンのこの映画は細部に到るまで驚きに満ちていて退屈しません。中国系の男の子とマレー系の女の子の恋が波紋を巻き起こす、という主軸のストーリーにたくさんの小川が流れ込んで、豊かな大河になっている感じとでも言えばいいでしょうか、心満たされる映画体験ができる作品です。
『タレンタイム』の方は、ある高校でタレント・コンテストが行われることになり、それに出場する生徒たちが本番までにいろんな経験をしていくという物語です。お母さんが脳腫瘍で入院中のハーフィズはギターを弾きながら「I GO」を歌いますが、これがとても心にしみます。タレンタイム本番のハーフィズの歌はこちら。この時、それまでハーフィズを目の敵にしていたカホーが、そっと舞台に出ていって二鼓で伴奏してやるのですが、今見てるだけでもうウルウルしてきます。「I GO」は、作曲のピート・テオがセルフカヴァーしたものもとーってもいいのでこちらもぜひ。
上はマレーシア版DVDで、昨年8月クアラルンプル(KL)に行った時に買いました。一番大きく写っているのがマヘーシュ、その左、上からムルー、ハーフィズ、マヘーシュの姉、そしてカホーとなります。ムルーもピアノの弾き語りで「ANGEL」を歌いますが、彼女は自分の送り迎え担当になったマヘーシュと惹かれ合い、それがマヘーシュの母をパニックに陥れます.....。このあたり、予告編をどうぞ。1と2があります。
作夏KLに行ったのは、前年、2009年の東京国際映画祭で知り合いになったヤスミンの妹オーキッドさんに会うためでした。あいにくラマザーンの期間中で、夜にならないと飲食もままならないため、夜お宅にお邪魔してあれこれお話をうかがいました。『タレンタイム』のこぼれ話もいろいろうかがったのですが、何とヤスミンのご主人もあの映画に出演していたそうでびっくり。最初に試験監督をしているメガネの先生がご主人のアブドゥッラー・タン・イウリョンさんで、そこにやってくるもう1人の先生はヤスミンのお抱え運転手さんなのだそうです。えー、あのマレー系の先生、すごい芸達者だったのに素人さんだったとは!
この時は昼間にご無理をお願いできなかったためヤスミンのお墓参りはしなかったのですが、一昨年8月、亡くなった直後にちょうどシンガポールに行く予定があったので、日帰りでKLに飛んでヤスミンのお墓に参ってきました。ヤスミンと親しいある人が案内してくれたものです。
その時はまだこんな仮のお墓でしたが、今では立派なお墓が建ったことでしょう。ヤスミンのご冥福を心から祈ります。ヤスミン、素敵な映画をたくさん残してくれてありがとう。また今年も、みんながあなたの映画を見に行くからね。
※スチール提供:コミュニティシネマセンター