テルグ語映画と言えば、すぐに浮かぶのが『バーフバリ』二部作に『RRR』。いずれもS.S.ラージャマウリ監督作品で、人気スターを起用し、重厚なストーリーを大画面で息つく暇もなく描いてみせる超大作です。でも、この間からNetflixで配信が始まったドキュメンタリー映画『Modern Masters: S.S. Rajamouli』を見た方は、あれ、映画の持つ雰囲気と、あそこに出てくる撮影現場の雰囲気がちょっとばかり違うんじゃないの? と思われたはず。私も、テルグ語映画は割と最近になって見始めたので大きなことは言えないんですが、テルグ語映画は、ユルい笑いがいっぱい入っているのが普通で、それにヒーロー性をかぶせてあるので、ヒーローと同じくらいコメディアンが人気なんだ、と聞いたことがあります。そういえば、ラージャマウリ監督作『マッキー』(2012)を買った配給会社の方が、「テルグ語版はコメディシーンが長くてね、それがカットしてあるヒンディー語版にしたんだ」と言っておられたような...。と、前置きが長くなりましたが、今度公開されるテルグ語映画『ハヌ・マン』(2024)は、そんなテルグ語映画の特徴をしっかりと持っている、ローカル色豊かな作品です。まずは映画のデータをどうぞ。
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『ハヌ・マン』 公式サイト(工事中)
2023年/インド/テルグ語/158分/原題:Hanu-Man/字幕:福永詩乃/テルグ語監修:山田桂子
監督:プラシャーント・ヴァルマ
出演:テージャ・サッジャー、アムリタ・アイヤル、ヴァララクシュミ・サラトクマール、ヴィナイ・ラーイ、ラヴィ・テージャ(声の出演)
配給:ツイン
※10月4日(金)より新宿ピカデリーほかでロードショー
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物語の冒頭、1998年のエピソードが登場します。スーパーヒーローに憧れるマイケルという男の子が、「親が死んでからスーパーヒーローは誕生する」とか言って、親を見殺しにするのですが、はて、これは? と思っているうちに現在のお話が始まります。そのマイケル(ヴィナイ・ラーイ)がスーパーヒーローになっているシーンなのですが、どっちかと言うとダークヒーローのようなマイケルは、自分がいかに強くなるか、しか考えず、研究者のシリにいろいろ開発を続けさせています。
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一方こちらはアンジャナドリ村に住む主人公のハヌマントゥ(テージャ・サッジャー)。この村は近くの山に崖を掘り出した大きなハヌマーンの像が造ってあり、猿神様に守られた村のよう。村にも猿がたくさんいて、今日もマンゴーをパチンコで狙っては落としているハヌマントゥに、コメントをいちいちつけるかしこい猿(声の出演:ラヴィ・テージャ)もいたりします。ハヌマントゥはいっぱしの大人になっているのに働きもせず、姉アンジャンマ(ヴァララクシュミ・サラトクマール)のすねをかじっています。「お前の友達、カシだって牛を飼い、牛乳を売って生活しているのに」と姉の嘆きはいつものことと聞き流し、外に出たハヌマントゥが出会ったのは、校長先生の孫娘ミーナクシ(アムリタ・アイヤル)。都会からやってくる彼女は、美人でやさしくて正義感が強いという、まさに理想の女性。しかしハヌマントゥは頭もよくなければ力も強くなく、彼女に振り向いてもらうことはできそうにありません。そんなある時、危機に陥ったミーナクシを助けようとしたハヌマントゥは、がけから落ちて水中へ。そこで彼は赤く光る石を見つけ、そのまま気を失いますが、のちに海辺で倒れているところを発見され、家に戻ることができました。そして、その赤い石が怪我をしていたハヌマントゥをまたたくうちに治したりと、数々の奇蹟を起こしていくのです...。
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結構内容が盛りだくさんで、村の支配者アンジャナドリの横暴なエピソードとそれを打ち負かすハヌマントゥの活躍に、ミーナクシとの恋模様、友人カシとのいろんなやり取りに加え、謎の行者の登場があるかと思えば、いちいちお猿がコメントを入れる、といった具合で、まあ様々な要素がブチ込んであります。加えて、半ば以降はマイケルとその一味がやってきて、ハヌマントゥの持つ紅い石を奪おうとする等々、次から次へと事件が起こります。そして、ラヴィ・テージャという大物スターが声を吹き替えるお猿もちょこまか登場、もうちょっと整理整頓してほしいわ~とか思いながら、英語字幕で見た時はわけがわからなくなったのでした。今回、わかりやすい日本語字幕で見たのでやっと筋は追えたものの、いやー、このてんこ盛り感はすごいなあ、と今回もまだ、映画に置いてけぼりにされている感があります。でも、テルグ語が母語の人たちは、これぐらい盛ってないと満足できないんでしょうね。そうだよね、お猿クン?
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とはいえ、この映画はテルグ語地域だけでなく、インド全国でヒットして、何とテルグ語映画では世界興収で歴代9位、全作品中では世界興収歴代46位という記録を残してしまいました。興収総額は35億ルピー、製作費が4億ルピーなので、10倍近い稼ぎとなった素晴らしい成績です。これは、北インドの人たちも、このてんこ盛り作品に夢中になった、ということのようですね。さて、日本ではどうでしょうか? 今年前半はワンコ映画『チャーリー』がスマッシュヒットとなったから(先週まで新宿ピカデリーで上映が続いていたんですよ! 5週間のロングランです)、後半はお猿映画『ハヌ・マン』が席巻する、でしょうか? とりあえずはご覧になって下さいね。予告編を付けておきます。
『ハヌ・マン』予告篇