アジア映画巡礼

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注目のパキスタン映画『ジョイランド わたしの願い』②核となる3人のキャラクター

2024-10-17 | パキスタン映画

明日から、パキスタン映画『ジョイランド わたしの願い』(2022)が公開となります。ブログで3回はご紹介しようと思ったのに、8月19日に1回目の紹介記事を出して以降、すっかりご無沙汰してしまってすみません。ひとえにパキスタンに関する私の知識不足ゆえで、さっきも「こんなにないがしろにしては、イムラーン・カーンに叱られる」とつぶやいて、おっと、イムラーン・カーンはとっくの昔に首相の座から引きずり下ろされ、今は別人が首相だった、と思い出したのでした。パキスタンの現在の首相は、ムハンマド・シャフバーズ・シャリーフで、かつて3度首相の座に就いたナワーズ・シャリーフの弟です。パキスタン・ムスリム連盟のナワーズ・シャリーフ派、というわけですね。イムラーン・カーンの名がすぐに出てくるのは、彼がクリケットのスター選手から政治家になったからで、政党も既成政党には属さず、パキスタン正義運動党という変わった名前の政党でした。それはさておき、私の乏しいパキスタン知識をかき集めながら、今回も『ジョイランド わたしの願い』をご紹介してみたいと思います。まずは、映画のデータからどうぞ。

『ジョイランド わたしの願い』 公式サイト 
 2022年/パキスタン/パンジャーブ語、ウルドゥー語/127分/原題:Joyland/日本語字幕:藤井美佳
 監督・脚本:サーイム・サーディク
 出演:アリ・ジュネージョー、ラスティ・ファルーク、アリーナ・ハーン
 配給・宣伝:セテラ・インターナショナル」
10月18日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

© 2022 Joyland LLC

以前書いたあらすじをもう一度書いておきます。
パキスタンの中部の東側で、インドと国境を接するパンジャーブ州(インドにも同名の州があります)の州都ラホール(ラーホール)。下町に住むラナ家は、年老いた父アマン(サルマーン・ピアザダ)と2人の息子家族――長男のサリーム(ソハイル・サミール)とその妻ヌチ(サルワット・ギラーニ)と子供たち、次男のハイダル(アリ・ジュネージョー)とその妻ムムターズ(ラスティ・ファルーク)が一緒に暮らしていました。ヌチは3人の女児の母で、今度こそ、と思った出産もまた女児だったためがっかりしますが、目下職がない義弟のハイダルは幼い姪たちの面倒をよく見てくれ、家事もいろいろやってくれるので助かっています。ハイダルの妻ムムターズは美容師で、花嫁を美しく装わせたりして自分の腕前が発揮できるこの仕事に生きがいを感じています。しかし、ハイダルの父は家父長的な考え方の強い人で、ハイダルに早く就職するよう迫り、ハイダルは友人の紹介で、舞台で歌に合わせて踊る女性たちのバックダンサーとして働くことになりました。ハイダルがバックダンサーとなったのは、トランスジェンダーの舞姫ビバ(アリーナ・ハーン)のステージでした。何でもはっきりと主張するビバに魅力を感じ、彼女に惹かれていくハイダル。それをきびっかけとして、この一家に少しずつ、亀裂が生じるようになります...。

© 2022 Joyland LLC

すぐ上の写真は、ハイダル(アリ・ジュネージョー)とその妻ムムターズ(ラスティ・ファルーク)です。お互い愛し合っているし、ムムターズは家庭のことをいろいろやってくれるハイダルにに不満はなく、ハイダルもまた美容師としてクリエイティブな仕事をしているムムターズに対しては、何の不満もありません。本作のプレスでは、ムムターズの仕事を「メイクアップ・アーティスト」としていますが、結婚式がパキスタンでも一大イベントになっているようで、その主人公である花嫁に化粧を施し、花嫁衣装を装わせるムムターズの仕事は、実際華やかでかつやりがいのある仕事のはずです。ところが、ハイダルがバックダンサーの仕事を始めてからは、なぜか2人の間に違う時間が流れるようになり....。その原因が、ハイダルがダンサーのビバ(アリーナ・ハーン)に惹かれ始めたことによるもの、ということが徐々にわかってくる中盤は、ちょっと胸が苦しくなります。

© 2022 Joyland LLC

ビバとハイダルの出会いは、最初はまったくの偶然でした。この時の異様なビバの姿はのちに種明かしがされるのですが、彼女の身体についていた血は不吉なものを連想させます。しかしビバはたくましく、ダンサーとしてのし上がっていこうとする意思の強い女性です。実際のトランスジェンダーであり、パキスタンのトランスジェンダー・コミュニティから、「業界のロールモデルであり、先駆者である」と賞賛されているというアリーナ・ハーンは、実生活がかぶる役柄を力強く、かつチャーミングに演じて見せてくれます。この3人が、本作の主人公と言える役柄であり、映画の核となって観客を引っ張っていってくれます。時には負の感情も噴出させながら、「ジョイランド」(劇中に出てくる遊園地の名前ですが、彼らの理想郷と言えそうです)を彼らは目指すのです。

© 2022 Joyland LLC

というわけでこの3人のキャラクターが核とはなるのですが、そこにハイダルの父親と兄の一家というファクターがからんでくると、物語は深刻さを増します。インドとはまた違う、構造や環境を持つ国パキスタン、とはわかっていても、いろんなシーンにインドの大らかさや明るさをつい探してしまうため、見ていてつらいシーンも多い作品です。ビバのパワフルな魅力がもっと突き抜けていれば、とも思いますが、監督はあくまでもリアリスティックに、パキスタンの地方都市ラホールに暮らす若い世代の閉塞感を描いて行きます。そんなパキスタンの現実に、『ジョイランド わたしの願い』で触れてみて下さいね。かつて「ロリウッド」と呼ばれて、映画産業の一大拠点となっていたラホールの面目躍如たるダンス・パフォーマンスのシーンも見られますが、このステージショーについて、どなたかがパンフレットで解説していて下さることを願っています。私も仕事の隙を見て劇場に行き、パンフレットもしっかりゲットしてこなくては。最後に、本編映像+予告編の動画と、劇中の歌をフィーチャーしたPVを付けておきます。

『ジョイランド わたしの願い』シスターフッドに感涙 編

 

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